首長会合 - Majlis of Sheikhs - 6
◯カナン地区・ハーン・ユーニス県・ハーンユーニス市・破壊の跡の残るアパート・1DK・ダイニングキッチン(夕方)
ユスフ、腕まくりをする。
「さぁ、今夜は、俺お手製のピタパンだ。みんな、生地を捏ねるのを手伝ってくれ。けっこう力仕事だぜ」
散歩から戻った男の子たちが、ユスフを囲む。
ヘナン「みなさん、手を洗いますよ」
ヤットとミロが、桶を持って玄関ドアに向かう。
「俺たち、井戸から水を汲んでくるよ」
カリド、ヘナンに尋ねる。
「女の子たちは、まだ散歩中なのか?」
ヘナン「ええ。途中で分かれたんです。
テクラさんとライラが一緒なので、大丈夫ですよ」
◯破壊の跡の残るアパート・1DK・外壁の壊れた部屋
ダイニングキッチンから、ワイワイとはしゃぎながら夕食の支度をする声が聞こえてくる。
マットレスの上に横たわっているハサンとカースィム。
ハサン「…病院を見てきた。
…お前の予想通りだったぜ。
予想よりずっと酷かったけどな」
カースィム、両腕で顔を覆う。
「…なんで、皆、俺なんかを…」
ハサン「お前が生かされた意味なんて、考えるんじゃねぇよ。
お前は、ただ生きればいいんだ」
カースィム、声を絞り出す。
「…生きるのが、しんどい」
ハサン「…しんどい?
折れた脚が痛むからか?
満足に体を動かせねぇからか?
他人に下の世話をされるからか?
家族がみんな死んじまったからか?
〝俺なんか〟に命を懸けた連中への罪悪感か?」
カースィム「……」
ハサン、手足を縛られて殺された患者たちを思う。
「それでも、お前が生き残って良かったと思ってるさ。俺も、病院に残った奴らもな。
皆、あんな目に遭っても、『若いお前が助かったんなら、それでいい』って、きっと思ってるさ」
カースィム「……」
ハサン「今は、何言われたって、わからねぇだろうよ。
わからねぇうちは、生きろ。
わかるまで、生き延びろ。
わかった時に、生きるか死ぬか決めても、遅くはねぇだろ」
カースィム「……」
ハサン「ただしな、
お前に手を貸してくれた人間に感謝することだけは、忘れんな」
◯破壊の跡の残るアパート・1DK・ダイニングキッチン
ピタパンが焼き上がる香ばしい匂いが、部屋に漂う。
温かいスープと、ピタパンに挟む具材も完成する。
男の子たちが目を輝かせ、自分の椀の用意をする。
「女の子たちが、まだ帰らないな…」
カリド、心配そうに呟く。
ヤット、立ち上がる。
「俺、探してくる。みんなは先に食べてて」
そこへ、テクラとラマ、ライラに連れられた女の子たちが帰宅する。
ユスフ「ちょうど良かった。夕飯ができたところだぞ」
テクラもライラも、何故か青い顔をしている。
ラマが、カリドに駆け寄る。
「パパ、お土産あげる」
握っていたものをカリドに手渡す。
手のひらほどの大きさの紙。
カリド「…え?」
紙には、カナン地区の地図が描かれ、シオン語とフスハー語が書かれている。
カナン地区の中心部に何カ所も✕が付けられ、南部へ向かう矢印が大きく描かれている。
テクラ「…『ラファフ県へ避難を』…と…」
「はぁ!!? またかよ!?」
ユスフ、声を荒らげ、捏ね台を叩く。
「なんなんだよっ! ふざけんなよッ!!」
カリド、深いため息をつく。
「…せっかく作った夕飯が冷めちまう。
もう夜だし、移動の話は明日にしようや…」
✕ ✕ ✕
楽しい夕食になるはずだった食卓で、皆、黙々とピタパンを食べる。
ミロ、ヤットに小声で囁く。
「…シオン教徒は、カナン人を、おもちゃにしてるみたいだ。
どういった因縁があるのかは知らないけど、相当憎んでるように見えるね」
ヤット「…いくら憎んでいても、ここまでするか?
俺には、こんなやり方は思い付かないし、思い付いたとしても、実行できないな」
ミロ「歯止めの利かない人間って居るからね」
◯ハーンユーニス市・ハーンユーニス難民キャンプ(夜)
明朝の蜂起に向けて密かに集められた馬たちが、複数の難民キャンプに分けて預けられている。
夜気の中で馬たちが時折低く鼻を鳴らす。
ヤッファ県出身の10代の兄弟が、自分たちに割り当てられた馬の世話をしている。
弟、馬体をブラッシングしながら感嘆の声を漏らす。
「すげぇよ…。こんな良い馬、初めて見た」
兄が、馬の首筋を撫でながら、優しく語りかけている。
「お前、よく走りそうだな」
「カナンの首長たちが提供した、選りすぐりの名馬だ」
声をかけながら、ヤッファ県首長が二人に近付いてくる。
兄弟「首長…!」
慌てて作業の手を止め、胸に手を当てて挨拶をする。
ヤッファ県首長、白と黒の格子柄のクーフィーヤを二人に差し出す。
「明日は、これを身に着けてくれ。
カナンの戦士の印だ」
兄弟「わかりました」
ヤッファ県首長、二人をじっと見つめる。
「…まだ若いお前たちに声を掛けて、済まなかったな。
お前たちの母を泣かせてしまった」
兄、首を振る。
「いいえ。とても光栄です」
弟も、強くうなずきながら答える。
「いつ砲撃されるか怯えて過ごすより、ずっとマシです」
ヤッファ県首長、懐かしそうに目を細める。
「ヤッファに居た頃、馬を走らせれば、いつもお前たちが前に出ていたな。
明日も期待しているぞ」
兄弟「はいっ!」
ヤッファ県首長「昼間の訓練で疲れているだろう。今夜は早く休むように」
兄弟「はいっ」




