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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -

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病院 - Hospital - 6

◯カナン地区・ハーン・ユーニス県・ハーンユーニス市・ナセル病院・門


総攻撃の時が、刻一刻と近づいている。

病院の門の前と敷地の周囲は、シオン国防軍によって完全に封鎖されている。


即席の検問所の前には、セキュリティチェックを受ける避難民と患者の長い列が、途切れることなく続いている。


行列の手前で、子供たちを連れたヤットとミロが待っている。


ハサンとカースィムの担架を運ぶ一行が、ヤットたちに合流する。


テクラ「みんな、お待たせ。こちらが、ハサンさんとカースィムさんよ」


ハサン、片手を軽く上げる。

「よう、ちびっ子たち。ラファフ県までよろしくな」


カースィム、視線を伏せたまま、

「…よろしく」


ヤットとミロが、ライラ・ヘナンと交替して、カースィムの担架を持つ。


女教師たちが子供たちを先導し、セキュリティチェックの列に並ぶ。

ハサンの担架を持ったカリドとユスフ、続いて、カースィムの担架を持ったヤットとミロが並ぶ。


カリド、太陽の位置を確かめる。

「この時間なら、夜にはラファフ県に着けるな」


セキュリティチェックの順番が、ようやく回ってくる。


テクラが代表して、兵士に申告する。

「ベイト・ラヒア市から避難してきた、小学校教諭とその親族です。

この子たちは皆、ベイト・ラヒア市の孤児です」

ハサンとカースィムを指し示し、

「こちらの二人は、ナセル病院の入院患者です。彼らの移動に協力しています」


テクラ・ヘナン・ライラが、順に荷物検査とボディーチェックを受ける。


シオン国防軍兵士1「よし、行け」

門の外を指し、出るように促す。


女教師たち、皆に振り向き、安心させるように笑顔を見せる。


子供たちも、ほとんど形式的な確認だけで通過する。


ハサンの担架を持ったカリドとユスフの番になる。

ハサン、偽装松葉杖をぎゅっと身体に引き寄せ、唾を飲み込む。


シオン国防軍兵士1、ハサンを一瞥する。

「そいつを、地面に置け」


ユスフ、ギクリとする。

「え…」


シオン国防軍兵士1、ユスフを睨む。

「担架を持ったままじゃ、お前のチェックができないだろ」


ユスフ「あ…、ああ…」


「私たちが代わりに持ちます」

ライラとヘナンが門の外から駆け寄り、ハサンの担架をユスフとカリドから受け取る。


ハサン「カースィムより重くて、悪ぃな」


「いいえ、大丈夫です」

ライラとヘナン、ハサンが見咎められなかったことに安堵しながら応える。


ユスフがボディーチェックを受け、背負子の中身も一通り調べられる。


シオン国防軍兵士1、カリドに向かって、人差し指を動かす。

「次はお前だ。背負子をよこせ」


カリド、担いでいた背負子を外し、テーブルの上に置く。


その瞬間──


シオン国防軍兵士1が、カリドの腕を後ろにねじり上げ、足を払うようにして、地面へ引き倒す。


「ぐぅッ」

カリド、顔面から地面に叩きつけられる。


テクラと子供たちが悲鳴を上げる。


シオン国防軍兵士1、カリドの背中に両膝を乗せ、体重をかけて押さえつける。

「ただの避難民にしちゃ、ガタイがいいな…。うまく紛れ込んだつもりでも、そうはいかねぇ」


テクラ「乱暴はやめてください! その人は私の夫です!」

詰め寄るテクラを、シオン国防軍兵士1、睨み付ける。


肺を圧迫されているカリド、かすれ声で、

「テクラ…大丈夫だ…」


ググッ…と、シオン国防軍兵士1がさらに体重をかける。

「おい、木偶(デク)、テロリストなんだろ? ん?」


シオン国防軍兵士2が、わざと揺さぶるように、乱暴にボディーチェックをする。

「ったく…、お前らがさっさとカナンから出て行かねぇから、いつまでもこんな事しなきゃならねぇんだよ」

カリドの額が、地面に擦れる。


門の外から、ラマが泣きそうな顔で駆け寄る。

「パパ!」


「カリドおじさん!」

他の子供たちも、カリドと兵士の周りを取り囲む。


シオン国防軍兵士2、なおも執拗にカリドの身体を探っていたが、やがて、舌打ちして手を離す。


シオン国防軍兵士1も、カリドの背中から膝を離し、解放する。


カリド、よろよろと起き上がり、鼻血を拭う。


「パパ…」

ラマが泣きながらカリドの脚にしがみつく。


背負子を調べていたシオン国防軍兵士3、カリドに背負子を押し付ける。

「とっとと行け」


シオン国防軍兵士1、ヤットたちに向かって怒鳴る。

「次! 来い!」


シオン国防軍兵士2、まだ自分たちを取り囲んでいる子供たちに罵声を浴びせる。

「散れ! 犬っころ!」


テクラ、とっさにラマの両耳を塞ぎ、シオン国防軍兵士2を睨む。


カリドが、(てのひら)でテクラの表情を兵士から隠すように覆い、そのまま肩を引き寄せる。

テクラの肩を抱いたまま、無言で門の外へ出る。



◯ハーンユーニス市・ナセル病院から少し離れた場所


テクラ、大きく息を吐き、額に手をやる。

「…ごめんなさい。どうかしていました。

彼らを怒らせたら、子供たちが危険な目に遭ってもおかしくなかった。

…あなただって…何も言わずに我慢したのに…」

涙ぐんでいる。


カリド、妻に優しく首を振る。


ハサンの担架をユスフと運んできたヘナン、唇を噛みしめる。

「…子供たちにあんな口汚い言葉を聞かせたくなかったわ」


ハサン、カリドに「あんた、立派だったよ。よく耐えたな」


ユスフ、吐き捨てるように、

「…もし銃を持ってたら、あいつらにぶっ放してた」


カリド、苦笑いする。


「持たせて、悪かった」

ヘナンから担架を受け取る。


カリド、歩きながら呟く。

「…どうして、こうなっちまったんだろうな。

3年前までは、カナン人もシオン教徒も、隣り合わせで協力して暮らしてたってのに…。

いつから彼らは、隣人を悪しざまに罵るようになっちまったんだろう」



◯ハーン・ユーニス県・ハーンユーニス市(昼)


一行、ラファフ県へ向かう避難民に交ざり、黙々と歩く。


ドガァン──


病院の方角から、砲撃音が響く。

皆、一斉に顔色を失う。


ドオオオーン

バァァァン


続いて、パパパパンッ…と一斉射撃の音。


「…う、うぅ…」

担架に揺られながら、ハサンが天を仰ぐ。


「神よ…、院長をお守り下さい…。

…なんでだよ…、なんで院長を攻撃するんだよ…。

あんな良い人、他にいねぇだろ…院長が何したってんだよ…ちくしょう…」


カースィム、硬い表情のまま押し黙っている。


カリドとユスフの脳裏に、最後まで微笑みを絶やさなかった医療従事者たちの姿が浮かぶ。


女教師たち、病院に残っている子供たちの顔を一人ひとり思い返す。


間断なく聞こえる射撃音に、ミロ、視線を落とす。

「…『無事でいて欲しい』なんて…とても言えないね…」


ヤット(…せめて、あの人たちが苦しまないように祈ることしかできない)

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