エーリン - Elin - 1 挿絵
◯バラトール共和国・メッシュ市・シゥイン宅・2階・ダイニング
この世界最大の大陸、アルテラシア大陸。その東部に位置する小さな国、バラトール共和国。
その首都メッシュの大通りに面したシゥイン薬局。
その店舗兼住宅の2階ダイニングで、エーリン、娘のルルディ、義父のシゥインが、お茶の時間を楽しんでいる。
エーリン「パパさん、私、以前話していたロマニ語の調査に出ようと思うのだけど、アヴェスとルルディをお願いできるかしら? ルルディも小学校を卒業してパパさんのお手伝いができるようになったし」
シゥイン「そうか。とうとう行くんだね。調査にはどの位かかりそう?」
エーリン「2、3年で帰って来れたらいいと思ってるわ」
シゥイン「帰る時は手紙を送って欲しいな。迎えに行くよ」
エーリン「ありがとう、パパさん」
◯同(日曜日のお昼)
旅に出るエーリンの壮行会に一族が集う。
シゥインの娘ヤンシャの家族、息子ルイの家族、ヤンシャ一家と同居しているディミトリ。
テーブルの上にシゥインが腕を振るった料理が並べられている。
シゥイン「エーリンがロマニ語の調査の旅に出ることになったんだ。2年から3年かけて、世界中のロマを訪ねて言語と文化の違いを調査するそうだ」
エーリン「皆さん、今日は来てくれてどうもありがとう。ロマは世界中に散らばっているから言葉も文化もクンパニアによって少しずつ違います。南のロマと北のロマでは話が通じないこともあります。私はその違いを調査・分類して本にまとめたいと思っています。私が居ない間、アヴェスとルルディをよろしくお願いします」
シゥイン「では、エーリンの旅の安全と成功を祈念して、皆で乾杯しよう」
一同「乾杯」
✕ ✕ ✕
椅子が足りないため立食でシゥインの料理を思い思いに楽しむ。
エーリンの息子アヴェス「母さん、もしエンパイア国に来ることがあったらリュケイオン大学を訪ねてよ。ローマ市を案内するよ」
エーリン「わかったわ」
ルイの娘ダイアナ「伯母様、私も世連本部に居るのでいらしてください」
アヴェス「あ、5月は俺も世連に居る。大学の卒業前研修をするんだ」
エーリン「あら、じゃあ二人は1カ月同じ職場で働くのね」
アヴェス、ダイアナ、赤くなる。
✕ ✕ ✕
ディミトリ「はい、リュナ」
ディミトリ、ヤンシャの娘リュナに春餅を載せた皿を渡す。
リュナ「ありがとう」
リュナ、春餅で具を包みながら
「ディミトリも卒業前研修をするのよね? どこに行くの?」
ディミトリ「俺はフランク国政府にした」
リュナ「私達の国ね」
ディミトリ「本当は、母さんの故郷のルーシ帝国に行きたかったんだ。皇帝が制度改革に着手して近代化を進めていたから」
リュナ「あら、でも、皇帝は…」
ディミトリ、肩をすくめて、
「うん。その皇帝が暗殺されて、ルーシ帝国は保守的な体制に戻ってしまった」
自分の春餅に具を載せる。
「だから、フランク国の政治家とコネクションを作るほうがいいかな、って」
春餅を一口で食べ終え、リュナに微笑む。
「実家から通えるしね」
✕ ✕ ✕
シゥイン、包み紙に包まれた腊肉(干し肉)の塊をパントリーから取り出す。
「エーリン、これを持って行って欲しい」
エーリン「腊肉!」
シゥイン「日持ちするから。少しずつ食べて」
エーリン「ありがとう、パパさん。だけど、ロマは食材を森で調達できるから大丈夫。気持ちだけ受け取るわ」
シゥイン「いや、エーリン、念のために持って行ってくれないか。僕のために」
ヤンシャ、ルイ、二人のやり取りを見て苦笑する。
ヤンシャ「エーリンさん、もらってあげて。こうなったらパパはてこでも動かないわ」
エーリン「わかったわ。パパさんは心配性ね」
腊肉をシゥインから受け取る。
ヤンシャ「最初の目的地はどこ? 送るわよ」
エーリン「ヘルクラネウム市なの」
ヤンシャ「バラトールから出なくていいの?」
エーリン「ええ。ヘルクラネウム市なら農作物の収穫の手伝いをしているロマが居ると思うの。そのロマたちと一緒に移動するから」




