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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -

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ヤット - Yat - 2

◯カナン地区・ガザ県・南部・空地(夜)


日没を迎える頃。

サラ・アル・ディン通りの脇の人気のない空地に、ライラたち一行が座り込み、それぞれ堅パンをかじっている。


カリド「夜は俺たちが交代で見張る。みんな安心して休んでくれ」


テクラ「今夜はみんなで集まって眠りましょう」


12人の孤児とラマが、自分のリュックを枕代わりにして寝転がる。

女教師たちがその周りを囲むようにして横たわる。


カリド「見張りの順番は、ヤット、俺、ユスフ、ミロでいいだろう」


カリド、ヤットの肩に手を置き、東の空の低い位置に見え始めた明るい(ベガ)を指す。

アル・ナスル(急降下する鷲)・アル・ワーキがわかるか?」


ヤット「ああ」


カリド次に、北東の地平線に向かって腕を伸ばし、拳を握る。その上に拳を2回と指を重ねてみせる。

「あの星が拳3つ半の高さになったら、俺を起こせ」


ヤット「わかった」


カリド「じゃあ、頼んだぞ」

言うや否や、テクラの少し離れた場所に陣取り、高いびきをかき始める。


ミロ「早っ」


ユスフ「お前も、寝られるうちに寝ておけ」


ミロとユスフも、女教師たちを囲む形で寝転がる。


長時間の移動で疲れ切っていたこともあり、子供たちをはじめ皆が寝息を立て始める。


ヤット、皆に背を向けて腰を下ろし、御守り代わりに銃を抱え、周囲へ目を配る。

満月にはまだ早いが、見張りをするには充分な月明かりが辺りを照らしている。


ヤット、自分の背後で静かにライラが身を起こし、集団からそっと離れた気配に気付く。

用足しの際は必ず女教師と行くはずだが、ライラは一人で暗がりへ向かう。


(一人きりだと…危ないよな)

ヤット心配になり、距離を取りながら後を付ける。



◯空地・集団から少し離れた場所


やがて前方から、ライラの声が聞こえてくる。



أُحِبُّكِ حُبّاً لَو تُحِبّينَ مِثلَهُ

أَصابَكِ مِنْ وَجْدٍ عَلَيَّ جُنُونُ


ああ、あなたを愛している

もしあなたが私と同じ深さで愛したなら、

その炎は、あなたを狂おしく焼き尽くしてしまうだろう


وَصِرْتُ بِقَلْبٍ عاشَ أَمّا نَهَارُهُ

فَحُزنٌ وَأَمّا لَيْلُهُ فَأَنِينُ


私の心は生きながらにして嘆きに沈む

昼は悲しみに打ちひしがれ、

夜は呻き声に震えている


صَريعٌ مِنَ الحُبِّ المُبَرِّحِ وَالجَوى

وَأَيُّ فَتىً مِن لَوعَةِ البَينِ يَسلَمُ


身を揺さぶるような愛と渇望に取りつかれ、

別離の灼けつく痛みから、

いったい誰が逃れられようか


نَفْسِي فِدَاؤُكَ لو نَفْسِي مَلَكَتْ

ما كان غَيْرُكَ يَجْزِيها وَيُرْضِيهَا


それでも私は、(いのち)さえあなたに捧げよう

私を享受し、私を満たせる者は、

あなた(ただ)一人なのだから *



ライラ、放置された荷馬車の残骸に腰掛け、叙事詩を口ずさんでいる。


月を仰いだその頬に、一筋の涙が光る。


情熱的な愛の詩、ライラのしっとりとした声、月明かりに光る涙を、ヤット、ただただ美しいと思う。


(…死んでしまった婚約者を想って泣いているのか)


婚約者の死を知って気を失ったライラを思い起こす。


(…あの涙は、婚約者のものなんだ)


ヤット、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。



*(Qays ibn al-Mulawwah伝承詩句 Hilde 訳)

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