シルヴィア - Silvia - 2
◯バラトール共和国・ケルト市・魔道士協会・校庭
子供たちを乗せたバスが魔道士協会の上空に到着する。
校庭では、魔道士協会の保育担当者と医療担当者たちが待機している。
輸送担当、バスをそっと地面に降ろす。
シルヴィアがバスの扉を開けると、保育担当者と医療担当者たちが出入り口に向かい、子供たちを出迎える。
校庭の端で待機していたコメルコ商会の商人たちが、空になったバスに第二便の商品を積み込み始める。
警護担当、輸送担当に小声で言う。
「次からは飛行ルートを変えましょうよ。子供たちが可哀想だわ」
輸送担当「そうね。シオン国から出来るだけ離れて飛ぶようにするわ」
◯カナン地区・上空
第二便がカナン地区へ近付くと、シオン国の方角から空気を裂いて砲弾が飛来する。
障壁のあちこちにぶつかり、ドォン! バァン! 爆発する。
総務担当、顔をこわばらせる。
「あれが仙道士の攻撃魔法なのね…」
更地のようになっているカナン地区を見下ろす。
「カナン地区の破壊も仙道士がやったのね…」
輸送担当「…輸送部門には、仙道士が多く派遣されて来るの。私が一緒に仕事をした仙道士は、みんないい人たちだったけど…この状況を見てしまうと、ちょっと…」
複雑な表情を浮かべる。
◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭
ルイの作ったシェルターの横で、ヤット・ミロ・カナンの男たち・女教師たち・大勢の親子が待機している。
輸送担当、バスをそっと地面に降ろす。
ヤットとミロ、カナンの男たちが荷下ろしを始める。
エーリン、親子連れの集団に手を上げ、フスハー語で説明をする。
「今から、看護の必要ない子供たちを、アッバース国の児童養護施設に送ります。
受け入れの人数が限られているため、対象は9歳までの子供です。
最初は孤児から受け付けます。私たちは来週も必ず来ますので、どうか慌てずに並んでください」
ライラたち女教師が、9才までの孤児を連れて前へ出る。
リリアン、その列から走り出て、エーリンに抱きつく。
孤児たちの後ろには、幼い子供と親が並ぶ。
親たち、別れを惜しんで子供を抱き締め、泣いて離れようとしない子を必死に宥める。
エーリンたち、手分けして次々と子供をバスに乗せていく。
子供たちを乗せられるだけ乗せると、シルヴィアとエーリンも乗り込む。
◯バスの中
リリアン、嬉しそうにエーリンの膝に飛び乗る。
エーリン、リリアンの頭を優しく撫でる。
「リリアン、よく頑張ったわね。これからお友達と一緒に、安全な場所へ行くのよ」
シルヴィア、校庭に残っている親子連れに目をやる。
移送対象外となった10代の子供たちが暗い表情でこちらを見ていることに気付き胸を痛める。
◯バスの外
警護担当がバス全体に障壁を掛ける。
「もう一度往復したら、次はガザ県ね」
輸送担当がバスを浮遊させる。
「ええ。日没までに全ての県を回らなくちゃ」
✕ ✕ ✕
◯カナン地区・東側の地域・草地
ジェームズ、カナン地区の首長たちを乗せたバスを、開けた草地にそっと降ろす。
ルイとジェームズ、バスの外に立って周囲を警戒する。
◯バスの中
アヴェスを司会進行役として、カナン地区の首長会合が始まる。
アヴェス「今週の月曜日、カナン地区の加盟申請書を世界連帯構想に提出しました。
手続きは順調に進んでおり、2日後の月曜日に8か国による理事会で審議されます。
理事会を通過すれば、さらに翌週の月曜日、全加盟国が出席する特別総会で採決される予定です。
そこで加盟が承認されれば、魔道士協会による防衛措置が直ちに発動します」
首長たち、明るい表情で囁きあう。
イスマイール「特別総会で可決される可能性は高いとは言えぬ。
だが、世連に加盟できる前提で準備すべきだと考える」
イスマイール、首長たちを見回す。
「お前たちは今、カナン地区の8割をシオン国に奪われている。
世連に承認されれば、魔道士協会によって保護される代わりに、国境は固定される。当然、〝承認された時点〟での国境だ」
アヴェス「加盟と同時に、魔道士が国境に障壁を建てます。障壁というのは、魔法による防壁のことです」
イスマイール「固定された国境を広げるのは至難の業だ。つまり、シオン国に奪われた地域は、その瞬間に永続的に失われる」
首長たち、表情が重くなる。
イスマイール、一拍置いて口を開く。
「…そこで、一つ提案がある。
俺は国家元首になる条件として、シオン国に占領された領土を放棄する選択をお前たちに求めた。侵攻を最短で、確実に止めるためだ。
だが、奪われた土地を少しでも取り返す機会があるなら、その機会に賭ける価値はある」
イスマイール、表情を改めて首長たちを見回す。
「加盟前に、国境を押し戻すことを提案する」
首長1、身を前に乗り出して発言する。
「押し戻すとは、具体的には…」
イスマイール「シオン国に占領された領土を、武力で奪還するということだ」
首長たち、大きくざわめく。
アヴェス「世連に加盟した国が交戦中の場合、その国民が存在する地点までが国境とみなされます。
過去の事例では、メシーカ国が加盟した当時、アルマダ国と交戦中だったため、メシーカ国軍とコンキスタドールの中間点に障壁が張られました。
結果、障壁の内側がメシーカ国の領土として扱われました」
首長2、慎重に問いかける。
「…ということは、シオン国領内にカナン人が入り込めば、そこが我々の領土になると…?」
アヴェス、はっきりとうなずく。
首長3「おお…」
首長4「それなら、やるべきだ」
イスマイール、沸き立つ首長たちを手で制す。
「奪われた領土を取り返し、世連加盟が成れば、国境線に反映される。
だが、特別総会で加盟が否決される可能性も、当然ながら、ある」
首長5「シオン国を襲撃したところで、加盟が承認されなければ、返り討ちに遭うだけだ」
イスマイール、うなずく。
「その通りだ。故に、これは強制ではない」
イスマイール、首長一人一人の顔を見ながら、
「状況を理解し、その上で覚悟を示す者だけに行動を求める。
後は、お前たちの判断に委ねる」
首長たち、ざわざわとささやき合う。
アヴェス「追加の物資が必要な場合は、今日注文すれば来週届けられます」
離れた席に控えるコメルコ商会のマシューが一礼する。
イスマイール「俺の方でも、新型銃を1,300丁手配した。シオン国防軍が使用している銃だ。来週の首長会合には、その操作と運用を指導する者も連れて来る」
首長6「おおっ」
再び、首長たちが近くの者とささやき合う。
首に鍵を下げた元ヤッファ県首長、手を挙げる。
「俺はやろう」
首に鍵を下げた元ハイファ県首長が続く。
「俺もだ」
首に鍵を下げた首長1「俺も」
首に鍵を下げた首長2「儂も」
次々と手が挙がる。
首に鍵を下げた首長たちを中心に集まり、首長たち、領土奪還計画を練り始める。




