加盟申請 - The Submission - 2
◯シオン国・エルサレム市・首相官邸・会議室
軍議が始まる。
シオン国防軍参謀総長、進行表に目を通す。
「プランGの進捗状況を確認する。
フェーズ1.カナン地区の検問を閉鎖し、外界からの物資を遮断。テロリストとの交戦地域からの住民避難を促す。
──これは継続しているか?」
シオン国防軍司令官「はっ。南北ともに検問を封鎖中です。北ガザ県およびガザ県に対し、連日、避難勧告のビラを散布しております。来週からは南に隣接するディール・バラフ県にも散布を開始する予定です」
参謀総長「フェーズ2.北部へ砲撃を集中させ、住民退避後に、無人地域での地上戦を可能とする。
──達成状況は?」
司令官「はっ。連日の砲撃作戦により、住民の南部への移動は順調です。北ガザ県では概ね8割の退避を確認。現在は作戦地域をガザ県へ拡大中であります」
参謀総長、満足そうにうなずく。
「フェーズ3.地上戦により北部および周辺境界から順次制圧を進め、最終的にカナン地区全域を掌握する。
──北ガザ県の制圧状況は?」
司令官「はっ。北ガザ県の郊外は既に制圧しております。しかし、県中心部ではテロ組織の抵抗が激しく、作戦は難航しています」
シオン国防相エフラム・ハザノフ、眉をひそめる。
「ふむ…」
シオン国防軍主席祭司エイラム・カリマン、手を組む。
「…『行け。アマレクを撃ち、そのすべての持ち物を滅ぼしつくせ。彼らを容赦してはならない。男も女も、幼な子も乳飲み子も、牛も羊も、らくだも、ろばも皆、殺せ』(サムエル記上第15章3節)
我らの律法は、カナンの地がシオン教徒に属していることを示しております。カナンの地の全ての地域に主権を拡大することは、我らの最優先事項です」
国防相「わかっている。我々の任務はカナン地区の全てを根絶やしにすることだ。
そのために、カナン地区を干上がらせ、住宅だけでなく、病院、学校、市場、モスク、井戸、農地といったインフラも破壊し、効率よく殲滅している」
軍主席祭司「我らの律法には、いかなる慈悲の赦しも存在しません。戦争では、子供であれ女性であれ、例外はありません」
シオン国家治安相レオニード・カプラン、声を上げる。
「そうだ。カナンにいる全ての者は、子供を含めて敵だ」
軍主席祭司「神は『子どもに慈悲をかけるな。自分の子でも殺せ』とおっしゃっています。大人も子供も違いはありません。10年もすれば子供らはシオン国を攻撃してきます。神はご存知なのです」
シオン国首相イツハク・ベンダビッド、くぐもった低い声で、
「我々は光の民であり、カナン人は闇の民だ。この戦いは野蛮に対する文明の戦いでもある。我々は完全な勝利を達成する。
攻撃はつねに占領、破壊、追放で締めくくらねばならない。カナン地区に残るものは、全て破壊せよ」
うなずいた国防相、司令官に、
「引き続き、作戦の完遂へ向けて励むように」
司令官「はっ。全力を尽くします」
シオン国防軍副参謀総長、唐国仙道士部隊隊長とスパルタ国傭兵部隊隊長へ視線を向ける。
「その方らから、意見または報告はあるか?」
仙道士部隊隊長、右手の拳を左手で包む拱手礼を行い発言する。
「申し上げます。我が砲撃班より、制圧効果を高める新たな砲撃手法の提案がございます」
参謀総長、身を乗り出す。
「ほう、聞こう」
仙道士部隊隊長「〝時間差を設け、同一標的を二度攻撃する〟という手法です。
ご承知の通り、我々仙道士は生体エネルギーを感じ取り、遠隔地の敵の動向を把握できます。
その観測によると、砲撃が発生すると住民や民間防衛組織と思しき者らが着弾地点へ集結する傾向が見られました。
そのため、初弾で人員を誘引し、その後に再砲撃を行えば、被害の拡大と地域コミュニティの弱体化が見込まれる──以上が、現時点での分析です」
国防相「ふむ…、効果的だ。採用しよう」
仙道士部隊隊長「恐れ入ります。我々はこの手法を〝ダブルタップ攻撃〟と称しております」
参謀総長「次の作戦から導入せよ」
仙道士部隊隊長、再び拱手礼をする。
「かしこまりました」
副参謀総長「他に報告はあるか?」
仙道士部隊隊長と傭兵部隊隊長、互いに顔を見合わせる。
仙道士部隊隊長、言いにくそうに表情を曇らせながら、
「申し上げにくいのですが…、現場より、数件の上申がございます」
国防相、眉根を寄せる。
「我が軍の戦略に不満があると?」
仙道士部隊隊長、慌てて拱手礼をする。
「いいえ、そのような意図ではございません。
ただ、指揮系統の混乱により、自軍兵士の負傷例が複数発生しているとの報告がございます」
参謀総長「続けよ」
仙道士部隊隊長「砲撃命令の発令後、砲撃区域へ地上部隊が進軍する事例が度々発生しており、その結果、兵が砲撃に巻き込まれ負傷するケースが確認されております」
参謀総長、司令官に視線を向ける。
「把握していたか?」
司令官、決まりが悪そうに、
「はっ。前線より同様の報告を受けております。伝令による命令伝達の錯綜が原因であると考えております」
参謀総長、短く息を吐く。
「…伝令は仙道士が行っていたな。指揮は適切なのか?」
司令官「それが…、進軍命令を出す前線幕僚と、砲撃命令を出す後方司令部との間で、伝令の優先順位や経路が整っておらず、どちらの命令が最新か判断できない状況です」
国防相、肘掛けを小さく叩く。
「指揮側の怠慢だな。整理できぬはずがなかろう」
参謀総長と司令官、肩を竦めるように沈黙する。
カストルム共和国営業ヨハンが柔らかい声で空気を割る。
「…僭越ながら、ひとつご提案を申し上げてもよろしいでしょうか、ハザノフ国防相」
国防相「言ってみよ」
ヨハン「拝察するに、問題は指揮命令の〝質〟ではなく、伝令班の仙道士の〝数〟かと存じます。迅速な作戦展開ゆえ、伝令が追いついていないのでは?」
国防相「伝令の兵数が足りぬと?」
ヨハン「はい。複数の進軍軸と別系統の砲撃運用を少数の仙道士が往復していれば、齟齬は避けられません。
もし伝令班に仙道士を数名追加できれば、指揮の通りは格段に改善されましょう」
国防相、顎を撫でる。
「現行の作戦速度を維持するには、増員が必要ということか」
渡りに船と言わんばかりに参謀総長、
「現場の混乱を抑えるには妥当だと思われます」
司令官「小官も、伝令が増えれば、前線も整うかと存じます」
国防相、うなずく。
「よかろう。具体的な人数・費用をまとめて提出せよ。検討する」
ヨハン、恭しく一礼する。
「かしこまりました」
参謀総長と司令官、ほっと胸をなでおろす。
副参謀総長、仙道士部隊隊長と傭兵部隊隊長に、
「他にはもうないな?」
実直な軍人上がりの傭兵部隊隊長が、ためらいつつ口を開く。
「命令伝達の錯綜だけでなく、軍規の乱れについても申し上げねばなりません。
現場からは、シオン国防軍の兵が民家へ侵入して、窃盗・略奪を行っているとの報告が複数上がっています。
その間、我々傭兵部隊は待機となり、作戦遂行に支障が出ております」
室内に緊張が走る。
傭兵部隊隊長「また、捕虜およびテロ容疑者を収容する施設では、虐待や性的暴行が常態化しているとの報告もあります。
戦場において略奪や暴行はないとは言えぬものの、度を越せば、部隊全体の士気にも関わります」
国防相の顔色が変わる。




