国家元首 - Head of State - 3
◯カナン地区・東側の地域・草地・バスの中
イスマイール、首長たちを見回す。
「今のところ、世連に加盟するまでの話しか出ていないが、加盟した後は、お前たちだけでこの地を再建できるのか?」
口々に声を上げていた首長たち、静かになる。
イスマイール、ニザームに顔を向ける。
「破壊された地域の再建費用はいくらになる?」
ニザーム「…最低でも、8兆ディルハムと見積もりました」
首長たち「はっ、8兆!? そんなに…!?」
イスマイール「お前たちはこの金をどこから調達するつもりだ? 自力で資金調達できずに怪しい輩の手を借りれば、せっかく立ち上げた国を、あっという間に乗っ取られるぞ」
首長たち、動揺する。
イスマイール「俺なら、この金を世連から借り入れることができる」
アヴェス「皇子!?」
ニザーム「どうやって?」
イスマイール、涼しい顔で「今は言わん」
イスマイール、首長たちに向き直る。
「俺を国家元首にすれば、カナン地区の再建費用が調達できる。その代わり、お前たちには俺への忠誠と借入金の完済を誓ってもらう。完済の誓約を違えれば、当人を含め一族郎党の首を刎ねる」
イスマイール、首長一人一人の顔を見ながら、
「以上を踏まえて、カナン地区の未来を決めよ」
✕ ✕ ✕
長い協議が始まる。
シオン国の侵攻で土地を失った首長たち、首から下げている鍵を周囲の首長たちに突き付けて訴える。
首に鍵を下げた首長1「シオン国をカナン地区から追い出そう!」
首に鍵を下げた首長2「3年前の、あの虐殺を忘れていないだろう?」
首に鍵を下げた首長3「男も女も子供も赤ん坊も殺されたんだぞ!」
首に鍵を下げた首長4「赤子が頭を割られ、娘が犯され、男は撃ち殺され、老人は家ごと焼き殺された!」
首に鍵を下げた首長5「皆の親族も狙われ、大勢殺されたではないか!」
首に鍵を下げた首長6「シオン軍によって500余りの村が破壊されたんだぞ!」
首に鍵を下げた首長1「シオン教徒は、我らの村の上に木を植え、公園を作り、都市を建設し、のうのうと暮らしている!」
首に鍵を下げた首長2「先祖代々の土地を奪われ、財産も奪われ、7割の住人が故郷を追われたんだぞ!? 彼らが戻る場所を取り返さないでどうする!?」
首に鍵を下げた首長5「川から海まで、カナンの地は全て我々のものだったではないか!!」
首に鍵を下げた首長たち、最後まで抵抗する。
天を仰いで涙を流す首長も居る。
説得する首長たちも、苦しい表情をしている。
✕ ✕ ✕
遂に、首に鍵を下げた首長たち、住民の安全を確保したい首長たちによって、押し切られる。
✕ ✕ ✕
ニザームが急遽作成した借入金完済の誓約書に全員が署名した後、首長たち、イスマイールにお辞儀をして忠誠を誓う。
✕ ✕ ✕
◯カナン地区・東側の地域と西側の地域
ジェームズ、カナン地区の各県を巡り、首長を一人一人降ろしていく。
◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭
ジェームズ、ルイの作ったシェルターの横に、バスをそっと降ろす。
マフムードとゾットがバスから降りる準備をする。
イスマイール、エスペラント語でゾットに話しかける。
「皇太子と言えど、俺は奴隷の子でな。一時はどうなるかと肝が冷えたが、なんとか成ったな」
ゾット「…金がものを言ったんだろう」
イスマイール、苦笑して「金か」
ゾット「それと…、お前の器量だ」
バスを降りていく。




