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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -

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国家元首 - Head of State - 1

◯カナン地区・北ガザ県・上空(土曜日・午前)


ジェームズとルイ、バスのような形状の乗り物の屋根に腰掛け、飛行している。

バスの中には、アヴェス・イスマイール・イスマイールの従者・アッバース国から連れ出されたホラーサーン地方書記官のニザーム・コメルコ商会の商人が座っている。


ニザーム、イスマイールに対して不満を並べ立てている。

「今まで全く音沙汰がなかったのに、突然ホラーサーンにいらしたので驚きましたよ。児童養護施設を増設しろと言ってきたり、突然こんなところに連れ出したり…。一体、どういうおつもりですか?」


イスマイール「お前に見てもらいたくてな」


イスマイール、バスの窓から、がれきだらけの北ガザ県を指差す。

「ここを復興させるのに、いくらかかる?」


ニザーム、窓から破壊された街を見下ろし、顔をゆがめる。

「なんですか、これは…。酷いですね」



◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭


ルイの作ったシェルターの横で、ゾットとマフムード首長が待機している。

ジェームズ、バスをそっと地面に降ろす。

ゾットとマフムード首長、ジェームズの指示でバスに乗り込む。


マフムード首長、イスマイールが座っていることに気付く。

「こ、皇太子殿下」


ゾット「またお前か」


イスマイール、エスペラント語でゾットに話しかける。

「ゾットとやら、カナン地区の首長はどう決まる? 世襲制か?」


ゾット「そうだ。地元有力部族の世襲だ」


イスマイール「それなら、ここの首長たちは、お前と違って権威に弱そうだな」


ゾット「…?」



◯カナン地区・西側の地域


ジェームズ、マフムード首長の案内に従ってバスを移動させる。

カナン地区西側の残りの4つの県を巡り、首長を一人一人乗せていく。

北ガザ県の南、ガザ県の難民キャンプは先週より多くのテントがひしめき合い、ガザ県の南のディール・バラフ県にも難民キャンプが広がっている。

カナン地区の沿岸部より西に広がるノストルム海だけが、先週と変わらぬ穏やかな青をたたえている。



◯カナン地区・東側の地域


ジェームズ、シオン国の上空を迂回して、東側の地域に移動する。

東側の地域は西側ほど大きな侵攻の跡は見られない。

東の端、アッバース国との国境に川がくねりながら流れ、青とも灰ともつかない不思議な色の塩湖に注ぎ込んでいる。

南部は波打つ丘陵地帯が広がり、オリーブ畑が幾何学模様のように美しく広がっている。


ジェームズ、新たに乗り込んだ東側の首長の案内に従って各県を巡り、首長たちを乗せていく。

バスの中が22人の首長とイスマイールたちでほぼ満員となる。


西側と東側の首長たち、互いに現状を報告し合う。


マフムード首長「ついに物価が3年前の40倍になったぞ」


北ガザ県の南、ガザ県首長「シオン軍の攻撃ラインが南下している。うちでもビラが撒かれ、砲撃が始まった」


ガザ県の南、ディール・バラフ県首長「北から避難してきた住民が増えたために食料が枯渇している。このままだと飢餓に陥るかもしれん」


東側の地域、ナブルス県首長「こちらは、シオン教徒の襲撃に悩まされている。数十人の集団が村を襲って家屋やオリーブの木に放火し、住民を追い出して畑を奪おうとしている」


ラマッラー・アル・ビーレ県首長「うちもだ。銃を持ったシオン教徒たちが、住民に村を出るよう脅している」



◯カナン地区・東側の地域・草地


ジェームズ、カナン地区東側の開けた草地にバスを降ろす。

ルイとジェームズ、バスの外に立って周囲を警戒する。



◯バスの中


アヴェスを司会進行役として、カナン地区の首長会合が始まる。


アヴェス「皆さん、お約束通り、経過報告に来ました。

まず、世連への加盟を、30日以内に目指すことにしました。皆さんにはあと30日、カナン地区を守っていただきたい」


ゾットがフスハー語に通訳する。


首長1「30日か…」


首長2「正直きついな」


首長3「でも、終わりが見えるのはありがたい」


アヴェス「続きまして、魔道士協会(ギルド)への支払いも含め世連加盟までに必要な資金についてですが、これはやはり、世連から借り入れをする以外に方法はないと考えています。意見のある方は居ますか?」


首長4が軽く身を前に乗り出す。

「金利と返済期限は?」


アヴェス「ゼロから交渉します。返済猶予は5年から10年、返済期限は無期限から交渉します」


首長5「…30日分ならば」


首長6「…賛成する」


首長7「賛成するしかなかろう」


首長たち、賛意を示す。


アヴェス「では、賛成多数により、可決といたします。

今日は、バラトール共和国のコメルコ商会の方に来ていただいています。

会合終了後に、食料、弾薬、医療物資の注文ができます」

アヴェス、コメルコ商会の担当者に合図をする。


コメルコ商会担当者、前に出て挨拶をする。

「コメルコ商会のマシューと申します。

このたびの戦禍に見舞われたすべての皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

コメルコ商会のガネーシャ会長は皆様の困難な状況に大変心を痛めており、この度のお取引は食料、武器、医薬品に至るまで、全て原価で提供させて頂くことになりました。

私は首長会合のたびにお伺いいたしますので、ご遠慮なくお申し付けください」


首長たち、嬉しそうにどよめく。


アヴェス、どよめきが収まるまでしばらく待ってから、

「続きまして、カナン地区の世連加盟に向け、国家元首の選出が必要となります。

私は、アッバース国皇太子イスマイール・イブン・ハーリド殿下を推薦します」


ニザーム、目を剥く。

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