カナン地区 - Canaan Strip - 4
◯カナン地区・北ガザ県・上空
ダイアナがシルヴィアとエーリンの肩を抱え、ジェームズはイスマイールとその従者を、ルイはアヴェスを抱えて飛行している。
イスマイール、アヴェスに呼び掛ける。
「おい、アヴェス、お前はどこまでカナン地区に関わるつもりだ」
アヴェス「世連加盟まで」
イスマイール「あれは長引くぞ。あの地域はリーダー不在だ。各地で散発的な抵抗ができる首長は居るかもしれんが、カナン地区全体を統率するリーダーが居ない。そうでなければ、あそこまで甚大な被害は受けない。
もしカナン地区が国家として認められたいなら、早急にリーダーを据えなきゃならん」
アヴェス「22人の首長たちの中に適任者が居るかもしれない。首長会合に期待してる」
イスマイール「もし適任者が居なければ、カナン地区が世連に加盟するまで、お前が暫定的なリーダーになれ」
アヴェス「ええっ!?」
イスマイール「あの惨状は一刻も早くどうにかしなければならん。お前は今、世連本部に居て手続きを熟知している。しかも、研修中の身で自由に動ける」
アヴェス「俺がリーダーに…? そんなの、できるわけないだろう。第一、カナン地区の人たちが納得しないだろう」
イスマイール「ならば、すっぱり手を引け。その気もないのに関わるのは、双方共に時間の無駄だ。対策が遅れれば遅れるほど、人民が死ぬ」
アヴェス「……」
イスマイール「お前は他国の人間で、平民で、あの地に知人もいない。あの地の窮状に心を痛めたとしても、自分の力が及ばぬものを救うことは誰にもできん。だから手を引いても悔やむ必要はない。後味は悪いかもしれんが誰も非難しない」
アヴェス(…手を引く…? あれを見た後で…?)
がれきだらけのカナン地区、白い埃まみれの人たち、いくつもの死体袋、シェルターの中で過ごす痩せた子供たちが脳裏に浮かぶ。
◯フランク国・パリシイ市・ヤンシャたちの家・ダイニング(夜)
ヤンシャの家族とジェームズの家族が食卓を囲んで夕食をとっている。
ヤンシャ「ジェームズさん、非常食や医療品は足りました?」
ジェームズ「現地の人たちに大変喜ばれたけど、残念ながら、一日保つかどうかというところだったよ」
ヤンシャ「…カナン地区は、そんなにひどい状況なのですか?」
ジェームズ「…うん。家屋が破壊されて多くの死者が出ていた。怪我人も相当居るだろう。被災した子供たちの避難を魔道士協会が担当することになりそうだよ」
ディミトリ「攻撃しているのはシオン教徒なんだよね?」
ジェームズ「うん。3年前からだそうだ」
ディミトリ「ルーシ帝国で皇帝が暗殺された時、ルーシ帝国に住んでいるシオン教徒に対して、大規模なヘイトクライムが起きたんだ。暗殺を企てたメンバーにシオン教徒が1人居たという理由で。5年前のことだよ」
ジェームズ「もしかして、ルーシ帝国から逃れたシオン教徒がシオン国を建国したかもしれないということ?」
ディミトリ「憶測だけどね。ルーシ帝国だけでなく西側各国でもシオン教徒は迫害を受けていたから、自分たちだけの国が欲しいという思いはあったんじゃないかな」
◯エンパイア国・アテナイ市・世界連帯構想本部・事務局オフィス・法務部デスク(日替わり・昼休憩)
アヴェス、昼休憩に出ようとするティボーを捕まえる。
「先輩、すみません」
ティボー「なんだ?」
アヴェス「世連に加盟させたい地域があるんです。時間のある時に加盟申請書の書き方を教えてもらえませんか?」
ティボー、にやりとして「なんか派手な事をしようとしているな? よし、昼飯に行くか」
アヴェスの首に腕を回し連行する。
「一発で理事会と総会に承認される書き方を伝授してやる」
アヴェス、ティボーの腕を押さえながら「ありがとうございます、先輩!」
ステファン、二人の後ろから「草案が出来上がったら俺に見せてみろ。どの国もうんと言う内容になっているかチェックしてやるよ」
アヴェス「頼りにしてます、先輩!」




