ルイ - Rui - 1 挿絵
◯カナン地区・北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校付近
ルイ、到着した途端、ゲホゲホゲホッ! 激しく咳き込む。
視界が真っ白になるほどの煙と粉塵に息が詰まる。
両手で鼻と口を覆いながら、
ルイ「なんだ、ここは」
薄目で周囲を見回す。
もうもうとした薄灰色の煙と粉塵で周囲の建物の輪郭がぼやけている。
(…灰色の世界だ)
シュゥゥッ、何かが空気を切り裂く音がして、
ドバァァァアン!! 轟音と共に地面が震える。
「!!」
とっさに体を丸める。
横殴りの爆風と煙に襲われ、慌てて自分を 障壁で囲い、体に鎧をかける。
恐る恐る辺りを見回すと、複数の建物が壊れており、自分はがれきの中に立っていることに気付く。
少し離れた場所に噴煙がいくつも立ち昇っているのが見える。
何かを叫ぶ声が聞こえ、目を凝らすと、噴煙に向かって大勢の人影が走って行くのが見える。
煙と埃のために服も顔も真っ白な人々。
(なんだ、ここは)
(この灰色の世界は)
(あの埃まみれの人々は)
(あちこちから聞こえる爆発音は)
(悲鳴と泣き叫ぶ声は)
(破壊された建物は)
(血まみれの壁は)
(引っかかっている人体の一部は)
「なんだ、この地獄は」
ルイ、胃の中のものが込み上げ、口を押さえる。
◯ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭
エーリンの気を最も強く感じる場所に移動し、ルイ叫ぶ。
ルイ「義姉さん! 義姉さーん! どこですか?! ルイです!」
「ルイ!」
破壊された校舎から駆けてくるエーリン。
ルイ「義姉さん!」
「ルイ!!」
エーリン、ルイにしがみつく。
「この攻撃を止めて!」
ルイ「どうやって!?」
エーリン、東の空を指す。
「シオン国から砲弾が飛んでくるの!」
ルイ、手を上げ、東の上空に厚い障壁を張る。
障壁のあちこちに何かがぶつかり、ドォン! バァン! 爆発する。
ルイ「あれは…大砲か? これは一体、どうしたのですか!?」
エーリン「カナン地区がシオン国に攻撃されているの!」
ルイ「戦争中なのですか!?」
「戦争じゃない。侵略だ」
ゾットが近付いてくる。
ルイ「あっ…? あなたは!」
エーリン「私のロマの仲間、ゾットよ」
ルイ「義姉さん、またこの男と?」
エーリン「ゾットのこと知ってたの?」
ルイ「兄さんが死んだからって、この男とまた一緒に?」
ゾット、ルイの肩をドンッ、突く。
「おい、ガージョの女と一緒にするな!」
エーリン「ゾットとは旅の途中で偶然会ったの。その後、ここに閉じ込められて…」
ルイの前で両手を握り合わせる。
「お願い、ルイ、ここの人達を助けて!!」
ルイ「助けて…って…」
ルイ、突然のことに戸惑う。
(何故ここは、こんな事態になっているんだ? 彼らが攻撃される理由が何かあるんじゃないのか?)
ルイ「義姉さん、とりあえず、この場を離れて帰りましょう。ここは危険だ」
「ダ、ダメ!」
エーリン、ルイを引き止める。
「ルイがいなくなってしまったら、ここはまた攻撃にさらされてしまう! ここの人たちはどうなってしまうの!? 子供がいるのよ!」
ルイ「…でも、もしこれが戦争なら、今こうしているのも魔道士協会の規則に反する行為です。国家間の問題に魔道士協会は介入できない」
エーリンの手が震えている。
「ルイ…お願い…。砲撃でたくさんの人が殺されて…子供たちも死んでいるの」
ルイ、混乱する。
(どうするのが正解かわからない。俺は何をしたらいい?)
ゾット、ルイに「魔法でシオン軍を叩き潰せないのか?」
ルイ「それは、できません」
ゾット「この惨状が目に入らないのか? 民間人が虐殺されているんだぞ!?」
ルイ「…世界連帯構想の調印式の日にあなたも見ていると思いますが、魔道士協会の力は強大です。だからこそ、魔道士にとって人を傷付けることは禁忌であり、戦争にも加担しない。魔道士協会は、世連の契約と、正式な依頼を受けた民間警備しか行わない。特に、あなたたちの主張しか聞いていない状況では、味方をすることはありません」
ゾット、歯ぎしりする。
「何のための力だ? このような時に、弱者を守るために使わないでどうする!」
ルイ「魔道士だって魔女狩りで激減したんだ。100年かけて人々の信頼を得て、やっとここまで辿り着いたんです。ここで判断を誤って魔道士協会を存続の危機にさらすわけにはいかない」
ゾット「それなら、なおさら虐げられる者の痛みがわかるだろう。今、ここの住民は殲滅されている!」
ルイ、周囲の人々を見回す。
(俺には…どうするべきかわからない。魔道士協会の導師として表立った行動も取れない。導師が戦争に加担したとなれば、協会の立場が危うくなる)
集まってきた人々の追い詰められた表情。
崩れた学校の校舎から覗く子供たちの怯えた目。
(…だけど、敵味方に関わらず、子供は守らなくてはいけない)
ルイ、周囲の人々のおよその人数を確認する。
分厚い灰色の障壁で校庭に四角いシェルターを建てる。
「このシェルターを残していきます。子供たちをこの中へ」
「教師たちに伝えろ」
ゾット、ヤットに指示する。
ヤット、うなずいて校舎に向かって駆け出す。
ルイ、エーリンに「さあ、義姉さん、行きましょう」
エーリン、きっ、とルイを見据える。
「行かないわ」
ルイ「えっ!?」
ゾットも驚いて振り返る。
エーリン「私は、ここで子供たちと居る」
ルイ「義姉さん!!」
ゾット「エーリン、行け!」
エーリン「嫌よ! 私はここに残るから、ルイ、あなたが助けを呼んできて」
ルイ「義姉さん!!」
エーリン「ルイ、あなたは今、たった一つの希望なの。私がここに残れば、あなたは必ず戻ってくる。お願い、助けを連れて戻ってきて。ここの人たちと子供たちを守って」
ルイ「義姉さんに何かあったら、俺は兄さんに申し訳が立たない!」
エーリン「だから、なるべく早く戻ってきて」
「~~~~っ」
ルイ、不本意ながら、
「わかりました。急いで世連本部に相談してきます。この状況について、もう少し詳しく教えてください」




