砲撃 - The Shelling - 2
◯アル・シマー小学校・2階・砲弾の落ちた教室
バラバラになってしまった子供たちの身体を集めて遺体を整えるライラとエーリン。
泣いてしゃがみ込んでしまうライラを慰めながら、エーリンも悲しみに押し潰されそうになる。
ゾット、遺体を運搬する布を持った男たち数人とヤットを連れて戻って来る。
「ライラ」
男たちの中の、30歳くらいの男が、ライラに近付く。
「ライラ、メドが昨夜、殉教した」
ライラ、青ざめて立ち上がる。
「夜中の砲撃で…。直撃だった」
ライラ、ふっと気を失い、そのまま後ろに倒れる。
背後にいたヤットが驚いて支える。
「ライラ!」
エーリン、ライラに駆け寄る。
男、ヤットに「悪いが、男はマジディーヤに触らないでくれ」
ヤット「え? えっと…」
ライラを支えたまま困惑する。
エーリン「私が」
ヤットの代わりにライラを抱える。
男、エーリンに「…彼女の婚約者が、昨夜の砲撃で死んでしまったんです」
エーリン、胸を突かれて男を見る。
「カナンを守るために俺たちと一緒に闘っていました。いいヤツだったのに…」
エーリン、ライラの蒼白な顔を見つめる。
「今住んでいる場所を離れないこと。これがシオン国に抵抗する唯一の方法です」
テクラの言葉を思い出す。
エーリン(きっと、ライラも小学校に居ることで闘っていたのね)
◯2階・空き教室
エーリンを連れ出したゾット、誰もいない教室に入る。
ゾット、ロマニ語で「エーリン、逃げろ。今すぐに魔道士を呼べ」
エーリン、青い顔でゾットを見る。
ゾット「シオン軍は、学校だけでなく病院も砲撃した。病院では避難していた住民も含め500人死んでいる。砲撃の後は地上戦だ。小学校にもシオン軍がやってくるかもしれない」
教室の窓から市街地を見る。見渡す限りの建物が半分以上壊れている。風が吹くと埃が舞い上がり、血の匂いがする。
エーリン、自分の手が震えていることに気付く。
「ねえ、ゾット…一緒に逃げない?」
「……」
ゾット、目が泳ぐ。
エーリン「ヤットとミロも逃がしてあげよう? 学校の子供たちも、先生たちも、ここに住んでいる人たちも、皆一緒に助けてあげよう? どうしたらいいかしら?」
ゾット「…全員は…無理だろう…。…だが、ヤットとミロはお前と一緒に連れ出してくれないか」
エーリン「ゾットは? ゾットの奥さんも娘さんもゾットの帰りを待っているわよ」
ゾット「……」
エーリン「私…ゾットの奥さんに悲しい思いをして欲しくない」
ゾット「…俺は…」
ゾット、拳をぎゅっと握る。
「俺は、もう…抜けられなくなっている」
エーリン「ゾット…?」
ゾット「…砲撃を受けた現場で、家族を失ったカナン人をたくさん見てきた…。
俺は…カナン地区を見捨てて行けない」
エーリン「ゾット…」
◯アル・シマー小学校・1階・大教室
ボッォォン
バァァン
ドォォン
市内の至る所で激しい砲撃の音がする。
子供1「先生ーっ」
子供2「怖いーっ!」
怯える子供たちを窓から離れた場所に集め、3人の教師とエーリンで囲むようにして身を寄せ合う。
テクラ「大丈夫、大丈夫よ。皆でくっついていれば怖くないでしょう? 皆でナシードを歌いましょう」
しかし、砲撃音が聞こえるたびに子供たち悲鳴をあげ、耳を両手で塞ぐ。
エーリン(今ここに砲弾が落ちたら、この子たちは一体どうなってしまうの?)
エーリン、右手首のマクラメに目をやる。
(ヤンシャとルイなら、なんとかしてくれる? だけど、こんな危険な場所に二人を呼び出していいの? もし二人が来た瞬間に砲撃に巻き込まれてしまったら?)
迷うエーリン、自分にしがみついて震える子供たちを見る。
砲撃を受けた教室の凄惨な光景が蘇る。
必死にしがみついてくるリリアンが、涙を零す。
砲撃に引き裂かれたラシャーの、力なく開いた手が脳裏に浮かぶ。
エーリン、リリアンを強く抱き締める。
(ヤンシャ、ルイ、ごめんなさい。助けて)
エーリン、歯でマクラメを噛み切る。
◯バラトール共和国・ケルト市・魔道士協会・会議室
警護部門のミーティング中のルイ「!」
マクラメが切られたことを察知する。
◯フランク国・パリシイ市・サンクトルシア大学病院・手術室
妊婦の帝王切開の施術中のヤンシャ「!」
マクラメが切られたことを察知する。
手が離せないヤンシャ(ルイ、お願い)
◯バラトール共和国・ケルト市・魔道士協会・会議室
ミーティングが終わり、魔道士たちがぞろぞろと会議室を出ていく。
ルイ、警護部門の副部門長を呼び止める。
「私用で緊急の呼び出しが入ってしまった。後を頼めるか?」
副部門長「はい。今日は予定もないですし、大丈夫ですよ」
ルイ「済まない。頼む」
ルイ、エーリンの気を目指して高速移動する。




