小学校 - Primary School - 4
◯アル・シマー小学校・2階・教室(夜)
エーリン、右腕にラシャー、左腕に3歳のリリアンを腕枕して横になっている。
(明日の朝、肩凝ってるかも…)
エーリン、隣にいるライラに話しかける。
「子供たちを連れて南へ行かないの?」
ライラ「もちろん、子供たちを安全な場所に連れて行きたいです。
でも、シオン国の攻撃が続く中で、教師4人だけで大勢の子供を引率するのは難しいと思います。学校に居れば安全ですし。
それにマフムード首長が給食を用意してくれるので、子供たちは飢えないで済んでいます。
今、市場では食料がほぼ底をついています。食料を買いたくても小麦粉1kgが10,000ディルハムもします。3年前は1日300ディルハムで充分暮らしていたのに。
今は、小麦の代わりに家畜のエサの大麦で凌いでいるのですよ。大麦も30倍以上も値上がりしていますけど」
1年生の娘ラマと横になっていたテクラが、小さいがはっきりとした声を上げる。
「今居る場所をシオン国に奪われたくなければ、南に移動しないことです。一度シオン国に奪われた土地は、取り戻せませんから」
エーリン「どういうこと?」
テクラ「私とラマは避難民です。ここより北にある大きな都市に住んでいましたが、3年前にシオン軍に追放されました。
私たちだけでなく、500以上の村や都市から、住人が追放されました。
追放には虐殺が伴い、住人の半数以上が殺された村もあります。
シオン軍に襲撃された村は破壊され、更地にされ、家を再建できないように木を植えられました。
シオン教徒は、占領した土地に壁を立てて、シオン国の建国を宣言しました。
カナン地区の中央にシオン国ができたことにより、カナン地区は西の地域と東の地域に分断されました。
カナン人の移動は制限され、村に戻ろうとした住人はシオン軍に殺されました。
シオン軍の襲撃は突然だったので、私たちは少しの荷物を持って戸締まりをして出るのが精一杯でした。私たちが残した家財はシオン国に没収されて、生活用品はシオン教徒に分配され、貴金属はシオン教徒の町の建設費用になりました。
カナンの土地は肥沃なため、歴代の支配者がカナンを巡り争いが絶えませんでした。その中でも、私たちは先祖代々この地で暮らし、変わらない日常を送っていました。支配者が変わっても、税を納めれば暮らしは続けられましたから。
3年前に追放された時も、戦火が収まれば家に戻れると多くの住人が信じていました。
ですが、シオン教徒の狙いは税ではなく、カナンの土地そのものだったのです」
テクラ、静かだが、断固たる口調で続ける。
「私たちが家や土地から離れれば、全てシオン国に奪われてしまいます。今住んでいる場所を離れないこと。これがシオン国に抵抗する唯一の方法です」




