小学校 - Primary School - 2
◯アル・シマー小学校・1階・大教室(休み時間)
ライラと3人の女教師たち、学校で一番広い教室に子供たちを集める。
大教室といっても全員は入りきらず、教室からあふれてしまった子供たちは廊下から教室の中を覗く。
ライラ、子供たちにエーリンを紹介する。
「今日から、皆さんの身の回りのお世話と、小さな子のお世話をして下さる、エーリンさんです」
エーリン「皆さん、こんにちは。エーリンです。私はロマです。世界中を旅して、お客さんを歌と踊りで楽しませていました」
エーリン、ポーズを取り、くるっと回って見せる。
子供たち、わあっ、と手を叩く。
子供1「もっと踊って」
子供2「見たい」
エーリン、判断を仰ぐようにライラを見る。
ライラ「エーリンさんさえ良ければ、踊っていただけませんか」
うなずいたエーリン、両手を上げ、手拍子を取る。
子供たちも合わせて手拍子をする。
エーリン、ロマの曲を口ずさむ。指を鳴らしてリズムを取り、ステップを踏む。エーリンがくるくると旋回すると、色とりどりの布を縫い合わせたスカートが華やかに舞う。
子供たち、歓声をあげる。立ち上がって踊りだす男の子もいる。
最年長の教師テクラ「次の授業は体育にして、皆でダブケを踊りましょうか」
子供たち「やったあ!」
エーリン「ダブケ?」
ライラ「この地域の伝統的なダンスです」
◯大教室(体育)
子供たち、男の子の列と女の子の列に分かれて手を繋ぐ。
教師たちがダルブッカ(太鼓)とミジュウィズ(笛)を軽快なテンポで演奏し、ライラが歌う。
音楽が始まると、列の先頭の子が足踏みのようなステップを踏み始め、後続の子たちも真似をして同じステップを始める。
先頭の子が次々とステップを変え、体で押したり、手を引っ張ったり、列を右へ左へ移動させる。
後続の子もステップを真似したり、屈伸したり、ジャンプする。年齢も背丈もバラバラなので、列がたわんだりお互いの手が離れる。そのたびに皆笑い転げ、踊る。
女の子の列の最後尾の子が、エーリンに手を伸ばす。エーリン、女の子の列につき、一緒にステップを踏む。
男の子の最後尾の子も、エーリンに手を伸ばす。エーリン、その子の手も取り、皆で一緒に踊る。
◯アル・シマー小学校・2階・教室(夜)
ライラ、最年長で30代半ばのテクラ、20代後半のヘナン、ライラと同年代のヤキーン。
4人の女教師と共に、エーリン、就寝準備をする。
2つの教室に別れて、教室の床にマットを敷いていく。
エーリン、ライラ・テクラと同じ教室になり、一緒にマットを敷く。
ライラ「今日は、ありがとうございました」
エーリン「え?」
ライラ「あんなに楽しそうな子供たちを、久しぶりに見ました」
エーリン「そう…」
テクラ「シオン国の攻撃に怯える生活のために、感情を失っていく子が増えています。自分の殻に閉じこもったり、逆に多動になったり、爪かみ等の行動も増えています。この生活が、明らかに子供たちのストレスになっています」
エーリン、心が痛む。
「私に協力できることがあれば、何でもするわ」
テクラ「ありがとうございます」
✕ ✕ ✕
就寝時間になり、孤児たちが自分の枕を抱えて、教師たちと就寝する。
5才くらいの女の子が、エーリンのスカートを引っ張る。
「エーリンさん、今日一緒に寝ていい?」
エーリン「ええ、もちろん。お名前は?」
女の子「ラシャー」
エーリン、ラシャーの隣に横たわる。
ラシャー「エーリンさんは、マジディーヤじゃないの?」
エーリン「ええ。ロマだから」
ラシャー「エーリンさんの、ママとパパもロマ?」
エーリン「ええ、そうよ」
ラシャー「ロマは死ぬとどうなるの?」
エーリン「死んだ人の魂は、親しい人の間をしばらく漂ってから、死者の国へ向かうの」
ラシャー「マジディーンは、死ぬと楽園に行くんだよ。楽園はお腹いっぱい食べられるんだって」
エーリン「そうなの? いいわね」
ラシャー「アーヤとママとパパはね、楽園に居るの。アーヤはね、妹」
エーリン「…そう」
ラシャー「私だけ、まだここにいるの」
エーリン「…そう」
ラシャー「なんで、私はアーヤみたいに、ママとパパと一緒に死ねなかったの?」
エーリン、言葉を失う。心臓が、ばくばくする。
エーリン「…きっと…、ラシャーはここでやる事があるから…神様が残されたんじゃないかしら…」
エーリン、こんな答えで良かったのかとラシャーの様子をうかがうが、ラシャー、寝息をたてている。
エーリン、5歳にしては軽すぎるラシャーの体を抱き寄せる。




