ライラ - Layla - 挿絵
◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・中心部
大きく崩れた建物の周囲に男たちが集まり、がれきを撤去している。
白髪交じりの男が、地面に突き立てたスコップにもたれながら作業の指示を出している。
ゾット「マフムード首長」
白髪交じりの男「ゾットか。その女性は?」
ゾット「昨日、チャパティを届けたエーリンだ」
エーリン、マフムード首長に挨拶をする。
マフムード首長、両手を広げ、
「ああ! あなたに神の祝福を! あれは非常に助かった」
ゾット「マフムード首長、エーリンを出国させたいが、通行証が無いため出国できない。どうしたらいい?」
マフムード首長、困ったように、
「出身地を証明するものを持っていないのか?」
ゾット「ロマは国を持たないから、出身地などない」
マフムード首長「…それだと、正規のルートでここから出国するのは難しい」
ゾット「闇の通行証はないのか?」
マフムード首長「警備兵に見破られれば、その場で殺されるから勧めない。アッバース国に出る南の検問所なら、闇ブローカーに頼めば出られる。だが、1人につき75万から150万ディルハムかかると聞いている。今はもっと値上がりしているかもしれん」
ゾット「…っ」
エーリン「ゾット、いいわ」
ゾットの袖を引いて、マフムード首長から離れる。
ゾット「…俺たちの報酬を前借りできれば…」
エーリン「ゾット、いいのよ」
エーリン、右手首のマクラメをゾットに見せる。
「Te chinav kado sfoara, o magieste avena te zhutisaren.〈これを切れば、魔道士が助けに来てくれるの〉」
ゾット「Shun. Te avel kodo, ker te aven po vodi thaj dzha tusa khetane len.〈そうか。なら、今すぐ来てもらってお前は帰れ〉」
エーリン「…Tu vi te zhas mançar?〈ゾットも一緒に行かない?〉」
ゾット「!」
エーリン「Tu vi na šaj te aves avri ando kado than, či? Na tu ekhel, ba Yat thaj Milo vi na šaj phenas. 〈ゾットもここを出られないでしょ? ゾットだけじゃなくて、ヤットもミロも〉
Tume vi sikatha te avel tumeri zhutipe.〈ゾットたちも、きっと助けてもらえるわ〉」
ゾット「…Ale〈しかし〉…」
マフムード首長「ゾット!」
マフムード首長が近付いてくる。
傍らに20歳くらいの若い女を連れている。
「もしエーリンさんがここに残らねばならないなら、彼女の手伝いをしてもらえないだろうか?」
若い女、挨拶をする。
「こんにちは。ライラと申します。小学校の教師です。学校で孤児の世話をしてくれる人を探しています」
マフムード首長「連日の攻撃のせいで、両親を亡くした孤児が増えて、手が足らんのだ」
エーリン「…孤児?」
ゾット、渋い顔で「Phen tu te na ker.〈やめておけ〉」
エーリン「Me ascultav numa pašal〈話を聞くだけなら〉…」
ゾット「Te šunes odoj istorija, na džan te mukhel leske.〈聞いたら、抜けられなくなるぞ〉」
エーリン「…Te vërtet lacho dangeri, me kava kotor e soga.〈本当に危なくなったら、マクラメを切るから〉」
ゾット「エーリン!」




