検問所 - Border Crossing - 3
◯カナン地区・北ガザ県・ベイト・ハヌーン市・傭兵宿舎(夜)
埃まみれのゾットと息子たち、疲れた足取りで階段を上がる。
突き当たりの部屋のドアの前にうずくまっているエーリンを見て、ぎょっとする。
ゾット「なんでまだ居るんだ?」
エーリン、のろのろと顔を上げて、
「通行証がないと出国させないって」
ゾット「何だそれは」
エーリン「カナン人を出国させないから、カナン人でないことを証明する書類が必要なんですって」
ゾット「俺たちにそんなもの無いだろ…」
エーリン「私、ここに泊めてもらえるかしら?」
ゾット「…俺たちから離れるなよ。他の奴らと雑魚寝だから」
◯傭兵宿舎・室内
仕事を終えた傭兵が次々と部屋に入ってくる。
傭兵1「女だ」
傭兵2「誰かが呼んだのか」
ゾット、大声で「俺の妻だ。親戚に不幸があって俺を訪ねてきた。一晩泊めるだけだ」
傭兵たち、不満の声を漏らしながら寝転がる。
部屋の一番隅にエーリン、隣にゾット、その周りを息子たちで固めて就寝する。
◯同(翌朝)
日の出とともに傭兵たちが起き出し、支度を済ませて部屋を出て行く。
ゾットと息子たちも出発の準備をする。
ゾット、エーリンに、
「一緒に来い。雇い主に相談してみる」
◯ベイト・ハヌーン市・路上
傭兵宿舎を出て、西へ向かう。
大きな建物が増えて行き交う住人も多くなると同時に、空気が埃っぽくなる。
ゾット「カナン地区は3つの宗教の聖地がある。それぞれの信者が混在して暮らしていたが、3年前、シオン教の信者が、聖地と異教徒の村を襲撃して占領し、壁を建ててシオン国を建国した。残った地域もシオン国の攻撃を受け続けている。カナン地区も防戦しているが、戦力の差が圧倒的で押されているらしい。
人の出入りも制限されているから、この状況が外に伝わらず、孤立無援の状態らしい」
多くの家族連れが南へ向かって移動している。皆、痩せて疲れた表情をしている。父親に抱えられた子供の細い手足が力なく揺れている。
ゾット、手のひらほどの大きさの紙をポケットから出す。
「昨日、空からこれが降ってきた。南へ行けという意味らしい」
紙には、カナン地区の地図が描かれ、シオン語とフスハー語で文字が書かれている。カナン地区の北部に何カ所も✕が付けられ、南部へ向かう矢印が大きく描かれている。
エーリン「大きな作戦って、このこと…?」
ゾット「恐らくな。お前を出国させるように雇い主に頼んでみるが、出国できなかったら南へ向かえ」
エーリン「ゾットたちは…?」
ゾット「わからん。作戦次第だ」
通り沿いの建物が崩れており、がれきが道路に散乱している。
エーリン「あの建物、壊れているわ」
壊れた壁の隙間から、中で住民が暮らしているのが見える。
ゾット「砲弾がシオン国から飛んでくる。ここから先はあんな建物ばかりだ。がれきが増えて足場が悪くなるから気を付けろ」




