検問所 - Border Crossing - 1
◯カナン地区近郊・荒野
ロマの仲間と別れたゾット・息子たち・エーリン、カナン地区に向かう。
ゾット「俺は、普段はクンパニアの仲間と仕事をしているが、今回は息子たちの仕事の付き添いだ。ゲリラ戦の後方支援で、塹壕掘りや住民の誘導をする仕事だ。報酬は安いが、息子たちの初仕事には手頃だ」
ゾットと息子たち、大きな荷物を抱えている。
エーリン「大きな荷物ね」
ゾット「募集条件の一つが『1人か2人分、余計に食料を持ってくること』だった」
エーリン「食べ物が足りないのかしら」
ゾット「こんなことは初めてだ。戦闘で糧食の確保は基本だがな」
何もない更地に、ところどころ掘り返された穴がある。穴から土を掘り出している男たちがいる。
エーリン「何か工事でもしているのかしら。あれが塹壕?」
ゾット「いや。ここはまだカナン地区ではないだろう」
更地の向こうに、焼成レンガで造られた高い壁がそびえているのが見えてくる。
ゾット「あの中がカナン地区だ」
◯カナン地区・北の検問所
壁の周囲を、銃を携行した警備兵が巡回している。検問所にはテーブルが置かれ、椅子に座っている警備兵の姿が見える。警備兵たち、暇そうに談笑している。
エーリン「…ヘンね。どうしてあの人たち壁の内側に銃を向けているのかしら? 城塞は外の敵から住民を守るためのものでしょ? あれじゃ、まるで住人を見張るためみたい」
✕ ✕ ✕
ゾット・ヤット・ミロ、入国手続きをする。
検問所の外側に残り、手続きを見守るエーリン。
警備兵、ゾットと息子たちのボディーチェックをしながら、フスハー語で話しかける。
警備兵「入国の目的は?」
ゾット「商売だ。鋳掛屋をしている」
警備兵「大量の食料品と武器の持ち込みは禁止だ」
ゾット「武器はともかく、なんで食料が駄目なんだ?」
警備兵「この国はテロリストの巣窟だ。大量の食料を持っているとテロリストの襲撃に遭うから危険だ。奴らは奪った食料を住民に売り付けて、テロの軍資金に換えるんだ。だから、我々が預かる」
ゾット「問題ない。自分の持ち物は自分で守れる」
警備兵、ゾットに銃を突きつける。
「指示に従え」
空気が張り詰める。
エーリン、この検問所がカナン地区によって設置されたものではないことを悟る。
ゾット、警備兵を睨み、
「お前がこの食料を買い取るか?」
警備兵、せせら笑って、
「ここに置いて入国するか、他所に行くか、選べ」
エーリン、明るく声をかける。
「余った分は、私が持って帰るわ」
驚くゾットに微笑みかける。
「もったいないから家に置いてくる。明日の朝また来るから、迎えに来てくれる?」
ゾット、ロマニ語で「Tu so kerdjol te kere?」
エーリン、小麦粉の袋を抱え「Me kava čhapatija te kerav ephabaça.」
ゾット「Chud, jaw tute. Na trajis zhanas vi ketsa.」
エーリン、フスハー語で「明日の朝ね」
3人に背を向け、来た道を戻って行く。
ミロ「…エーリンさんて、母さんと似てる」
ヤット「そうだな。見た目は全然違うけど。今の、母さんもやりそう」
ゾット、慌てて振り向くが、既にエーリンの姿は小さくなっている。ゾット、胸をなでおろす。




