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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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40-非力な者でも勝つために

「私は戦士じゃないけれど」


数日前。戦いで大事なことを知っているか聞くと、クーリエはそう前置きして教えてくれた。


「戦闘することはあるし、商売だってある意味戦い。

そういう目線の話ならできるわ。

この前提を踏まえた上で聞きなさい」


こまめに隠れ家を変えても襲われるため、あまり落ち着いてはいられないし訓練もできない。できたのはただ、考え方を聞くことだけだ。


「これはどんな状況、場面においても共通する話。

あらゆる戦いにおいて、一番有効なのは相手が嫌がることをすることよ。自分がどうしたいかは当然として、相手がどうしたいかも考えるの。そのためには、情報が必要になる。

観察しなさい。未知の相手に勝てはしない。

自分に、すべてを薙ぎ払えるだけの才がないのなら」


女王スカーレットは何がしたいのか、どこにいるのか。

配下の能力は、実力は。なぜ出られないのか、どうして侵入者と見てなお逃さないのか。


考える。予期せぬ事態が起こらぬよう。

どんな状況にも対応できるよう。


「では、勝ちとは何か。打ち負かすこと? 利益を得ること? 相手を殺すこと? その時々で違う条件を、あなたは見極めなければならない。視野が狭まれば墓穴を掘るわよ」


アリババを追ってきた。ペンダントを取り戻しに来た。

しかし今は、彼の妻を助けるために、現地民であるブライヤが望む解放を成し遂げるために、戦っている。


前者はともかく、後者は倒すことが必須条件だ。

倒して納得するはずもないので、この先住むわけではない彼らが取れる手段は必然、女王を殺すことだろう。

ベルたちはスカーレットらを倒し、殺さねばならない。


「じゃあ、その勝ちを得るためには何が必要?

これもまた、ほとんどの戦いで共通しているわ。

勝利条件が殺害でも利益でも、方針は常に質か量。

圧倒的な一か、圧倒できるほどの手数がいる。前者は勝利、後者はどちらかと言うと負けないこと。

さぁ、今のあなたに必要なのはどちら?

今あなたが実現できるのはどちら?」


決まっている。いつだって必要なのは絶対的な一で、持ち得ぬ身で為し得るのは手数。


身を守るためとして、魔導書の魔術を学んだ。もらった石でルーン魔術を使えるようになった。

重力を軽減する魔道具――クーリエの重力魔術の一端を譲り受けた。


魔術刻印のお陰で、限定的な錬金術を会得した。

銀剣を継承した。どれも未熟で、しかしどれもに道がある。


さぁ、旅に出よう。

誰に助けてもらうこともなく、自らで強敵を打ち破る大冒険の始まりだ。




~~~~~~~~~~




――1つ。リチャードが言うには、あれはただの熊だ。


軽い重力に舞うベルは、炎や腕を掻い潜って観察する。

あるものは炎と化し、またあるものは実体のままで、厳重な包囲網を敷く熊たちを。


――2つ。だとすると、あいつは体が炎そのものなんじゃなくて、体を炎に変える力を持ってるだけ。


熊たちの中には、身を炎に変えるものもいれば、一部だけを炎に変えるものもいる。カタコトだが言葉を話すことからも分かる通り、見た目にそぐわず知能は高く力も細やかだ。


――3つ。銀剣なら斬れるけど、魔導書その他オレの魔術だと力不足。耐えるだけならできても、勝てない。


巨体であるにも関わらず、熊たちは俊敏に動いて決して互いの邪魔をしない。ミスを待つ、というのは不可能だろう。


――できるとしたら、組み合わせて威力を上げるか、隙を作って銀剣を通すか。でも、剣じゃ数が多くてキリがない。


「さぁさぁ! 威勢のいいこと言ってたが、早くも手詰まりどん詰まり! 何もできずに追われる終われる。

いっぺん現実見て来たらぁ?」


逃げ回るベルに飽きてきたのか、空からナイトメアが茶々を入れてくる。もちろん、熊たちの動きには何の変化もない。

命令した訳でも、急かしたりした訳でもないのだから。


彼はただ、本当に野次を飛ばしているだけだ。

挑発的な言動に、ベルは思わず彼を見上げて怒鳴りつける。


「考えなしに突っ込む訳がねぇだろバーカ!

こっからだよ、こっから。うっし、じゃあ行くぞ熊公!!」


――あいつは何がいやだ? 何をされたら一番困る?


迫りくる爪をくるりと弾き、回りながら距離をとるベルは、森を埋め尽くす熊たちを見やり思考を巡らす。

俊敏で、実体をなくせる体は足を引っ張り合うこともない。

逆に、逃げ場をなくして追い詰めてくる。


数も流体化も貫く力があるならともかく、修行中のただの人相手なら隙はまるでなかった。であれば、どうするか。


――リチャードはなんで斬れた? 一頭の時、なんで銀剣は通用した? ……やっぱ火力、か。同等以上の神秘をぶつけられたから、強度を上回れた!


ベルは大きく息を吐くと、銀剣を前に突き出し不敵に笑う。

考えはまとまった。次は実行に移す番だ。


「ここが夢なら、後先考える必要はねぇ。

ぶっ倒れるまで力ふりしぼってやる!」


切り札は銀剣。また、肩に刻まれた銀盾の刻印。それを通すために、魔導書、ルーン、重力魔術の魔道具を使う。

役割を決める。それ1つで無駄な思考や迷いが消えていた。


「うわっはー♪ 活路を見い出した? 勝機を見つけた?

あれだけ死んで? 振り回されて? よくもまぁ正気であれたもんだ。まるで夢のようじゃないかい、悪夢の中だけに!

すんばらしいねぇ、おんもしろいねぇ。

ぜぇんぶ無意味なのに、サ☆」


ケタケタ笑うナイトメアを、ベルはもう気にしない。

いや、気にしている余裕がない。すべての意識を熊に向け、感覚を研ぎ澄まし、神経を張り巡らせている。


「まず一歩!」


重力を弱めて空を飛ぶ。目立つ姿は格好の的だ。

熊たちはみな一様に顔を上げ、凶暴な口から火を吹いた。


――盾がない時、熊は最初に火を吹いた。

それだけなら! パターンが決まってんなら!


来るとわかっているのなら、後から盾を出せば事足りる。

空を焼き尽くす炎は、銀に阻まれベルには決して届かない。


「次は滑空!」


盾が空に道を作った時、熊たちはその身一つで跳躍し、爪炎が牙を剥いた。たとえただの盾であろうと、遮る物なら結果は同じだ。予想通り、彼らは盾の左右から顔を出した。


と同時に、ベルは新たに生成した盾で火を受け地上に落ちる。炎は跳んできた熊全部が吐いた訳ではないが、それでも四方八方から押し寄せていた。


ところどころ焦げながら、ベルは爪や腕を躱して地上へ向かう。ブレスを推進力にしただけあって、速度は普通に落ちる数倍だ。その勢いで、隣り合う熊の首を飛ばす。


「っし」


予想外の速度に、熊たちは反応できない。

何が起きたかわからないまま、2頭の熊は絶命した。


強襲に気付かれる前に、次の行動へ。手元に魔導書を輝かせながら、ベルは爆発的炎で森を横切る。


多くの熊が見ているのは頭上だ。

今のうちに数を減らせなければ、勝ち目はない。

剣を構えるベルは空を切り、無重力や盾を足場に次々と熊を屠っていく。


「っらぁ!! どうだナイトメア! もう十分だろ!?」


終着点は大きな木の幹。不自然な重力で張り付き、左手で体を支えるベルは、肩で息をしつつピエロに問うた。


「うえぇ!? ここでオイラに振る!? それはつまりはギブアップ? ここでまたまたコンテニュー!?」


試練は続行。ベルは舌打ちして剣を収めると、より一層魔導書を輝かせて空いた右手を前に突き出す。


それは、炎の神秘を染み込ませた書物。

魔術の扉を開くページ。指先を焦がし、折られ、全身に火傷痕を伸ばす彼は、熱の宿った瞳で叫ぶ。


"イグニッション"


剣では先に力尽きるだけだ。故にベルは、自傷してでも魔術の火力を引き出す。辺りの熊たちには、それぞれ体のおよそ半分を占める火が灯っていた。


"ブラスト"


爆発箇所は、首、胸、手足など多岐に渡る。

共通しているのは、即死しないまでも致命傷を負っているということだ。


無理をしすぎてフラフラのベルだが、このチャンスを逃さぬよう、足元を爆発させて群れの中に飛び込んでいく。


「後は、斬るだけッ……!!」


極限状態で意識が引き伸ばされる中。空を駆けるベルとすれ違うように、1人の騎士の姿が浮かび上がってくる。

それは、かつての幻影。ある道で人の限界に迫った先駆者。


『錬金術とは、ものを作り変える魔術だよ』


背中合わせの彼は、告げる。まだ習得していない魔術の式を。それを横目に見るベルは、輝く銀剣で熊たちを屠っていく。


『錬成陣を描き、その内部にあるものを混ぜる、もしくは変換する。望む属性に応じた神秘を混ぜ込むことでね』


5、10、15と、次々にとどめを刺していくベルが一息つくごとに、幻影は現れ言葉を紡ぐ。

より効率よく、より強力な力を操るために。


『そうして生み出したものは、術者の手足だ。

薬を錬成した、とかであれば用途が違うけど』


よろけたベルは、地面に剣を突き刺し体を支える。

柄を力強く握りしめ、溢れた光が地面を紐解く。


それが示すは神秘の形。

代価、土。生成、銀。形状、槍。

規模や強度は術者次第。


願いを込め、魔力を込め、素材を取り込むが如くバチバチと溢れ出る光を地面に流し込み、組成を変える。

剣の周囲からは、植物が芽を出すように無数の銀槍が顔を出し、熊たちに振り注ぐ。


『その陣を、剣に刻む。規模や強さで大きさが変わるけど、同時に複数の錬金陣をノータイムで使えるよ』


穴だらけになって黙する熊らと同様に、騎士の姿も槍の雨に穿たれ消えた。最後に彼は『健闘を祈ってる』と、呟いたような気がした。




「うひゃー!! 何ここ悪夢? そうここ悪夢!

まさか熊たち全滅たぁーね。驚いたぁ」


熊たちは殲滅した。しかし、悪夢の元凶はナイトメアだ。

試練を終えても何も終わらず、ベルは未だに夢の中。

今にも死にそうな顔で、騒ぐピエロを見上げている。


「おやおやおやぁ? その目はさては、報奨期待の眼差しか!? ならばこの我自ら褒めて遣わそう。

なぜならここの主は私だからー☆

格上撃破だけでも奇跡の一手、その全滅とあっちゃあ拍手喝采。悪夢中が君を褒め称えるであろーう!!」

「いらねぇよそんなもん!!」


試練は熊か、はたまた群れか。いずれにしても、ナイトメアはその殲滅で満足はしなかった。褒めるだけ褒め、称えるだけ称え、それでおしまい。

解放も安らぎもなく、ピエロの口は残酷にもひん曲がる。


「ご褒美に、再戦の機会をあげちゃうよ☆

溺れるほどの魔術の真髄、せいぜい死ぬまで楽しんで」


途端、森が開かれる。青空が裂ける。

溢れ出すのは夜の闇。世界を覆う魔王の漆黒。


それはいわば、夜王国。

昼のように暖かな人間界とは真逆の、死と殺戮の夜の世界。


「熊が試練だった時から、わかってたよ。

次はお前だって……!!」


ベルの目の前に、禍々しい玉座がそそり立つ。

鎮座するのは魔術の王。獅子が如く雄々しく笑う、覇者の風格を漂わせる自称大魔王だ。


「……」


以前と違って、それは何も言わない。

無言のまま杖を打ち鳴らし、ベルの身体は押し寄せる無数の魔術によって、散り散りになって消えた。



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