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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
幕間-君を見ている
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1-弟子入り

村を出発したベル達は、軽く自己紹介を終えて森を進む。

どこへ向かっているのかは不明。

彼らは彷徨うようにフラフラと歩く、リチャードの背を追うだけだ。


元々そこまで速くは歩かないのか、まさかとは思うが2人を気遣っているのか。全力でついて行かなければ一瞬で置いていかれる、なんてことはない。


彼女は見失わないことだけに気をつけて歩きながら、新しい仲間とのすり合わせを始めていた。


「さて、気付いたらベルくんが仲間になってた訳だけど……」


シエル視点では、急に仲間として加わることになったというのに、直に預かったからかもうすっかり歓迎ムードだ。

早くも笑い話のように思っているらしく、クスクスと楽しげに笑いながら話を切り出している。


「わざわざあたし達の旅についてきたのは、誰かを助けたいっていう思いともう1つ、そのために強くなりたいからって理由もあるんだよね?」

「うん。オレはちっぽけな村のただのガキだからさ。

あのまま生きてても理想は死んでたけど、1人で飛び出してもそこらで野垂れ死ぬだけだ。母さんは守ってもらうつもりだったかもだけど、オレは自分で戦う力をつけたい」

「まぁ、多少はそういう思いがあったでしょうね。

でも安心して、あたしが鍛えてあげるから。もちろん、十分鍛えたからもう面倒見ません、なんてこともしない。

道を違えるまで、対等な仲間としてたくさんの人を救おう」


真剣な面持ちで決意を告げるベルに、シエルもクールに微笑みながら宣言する。服装も昨日と同じ制服的なものなので、より凛々しさが際立っていた。


常識的な部分でも知識面でも、師匠としても頼りになることこの上ない。それこそ、実力の高さ以外はあまりにも不安なリチャードがパーティにいても、この人が保護者なら大丈夫だと思えるほどに。


実際、彼女とはついさっき知り合ったはずのベルも、助けてもらった彼より明らかに話しやすそうだ。すっかり信頼している様子で、屈託のない笑顔を向けている。


「やった! ありがとうシエルねーちゃん、いや師匠!」

「し、師匠……あはは、まさか卒業前に弟子を持つなんてね。

一応初めに言っておくけど、あたしはまだ学生で、座学では首席だったけど実技はそこまでだから。

戦う手段を教えることはできても、実際の細かな指導とか実践的な知識、訓練なんかは自信ないよ」


思いがけず師匠になったシエルは、照れくさそうに笑う。

だが、決して冷静さを失ってはいない。弟子入りを受け入れつつも、不得手な部分など伝えるべきことは伝えていた。


まだ学生であること、肝心の実技が得意ではないこと。

これらは、これから弟子になる者としては落胆してもおかしくない内容だったが……


「実践的な力は、戦いの中できたえるよ。

今までは知る機会もなかったから、すっげーうれしい!」


そもそも学校などない村に住んでいたベルとしては、あまり気にならないようだ。素直に喜びを口にしており、飛び跳ねる横をゆっくり歩くシエルは、しみじみとつぶやく。


「あーあ、あの子もこれくらい元気になってくれたらなぁ」

「リチャードか? あいつはすげーやつだけど……

なんというか、ぶっ飛んでるよな」

「うん。でも、初めてお友達を作ってくれて嬉しい。

大変だと思うけど、よければ仲良くしてあげてね」


改めてベルに向き合ったシエルは、悲しみを振り払うように、心の底から嬉しそうな言葉を紡ぐ。


もはや、仲間というより弟の友達だ。しかし、やはりベルはあまり気にしていないようで、そのお願いを快く受け入れていた。


「いいぜ! オレはきらいじゃないし、感謝してるんだ」


リチャードが大変な人物なのは、誰にとっても変わらない。

だが彼にとっては、それ以上に命を助け、願いに明確な形を与え、その憧れに向かう機会もくれた相手だ。


多少厄介な性質を持っていても、仲良くするなど願ってもないことのようである。仲間を得て、師匠を得て、望む未来に向かう道を見つけた少年は、先を征く勇者を眩しそうに見つめていた。




~~~~~~~~~~




「じゃあ、早速だけど授業を始めよっか」


それからしばらく歩いた頃。ベルが旅をするという感覚を掴み、歩くのに慣れてきたのを見計らって、シエルはようやく修行の開始を告げる。


当然、リチャードは気にせずフラフラと進んでいっているので、授業は歩きながらだ。覚える必要があることはまた落ち着ける時にやるのだろうが……


簡単に教えたり試して見せたりなどは、体力作りや訓練なども兼ねてこのまま行うつもりらしい。

長距離移動に少し疲れた様子を見せていたベルも、目に見えて元気を取り戻して顔をほころばせていた。


「よろしくお願いします、師匠!」

「まず、あたしが教えられることについてね。

あたしはアビゲイル魔術学院ってところに通っていたから、主に魔術についてあなたに教えてあげられます。

難しい話はまたそのうちするとして……まずははぐれても身を守れるように、この本の使い方を教えるね」


そう話すシエルが掲げた左手には、一冊の本が現れる。

まだ開かれてはいないものの、それはどう見ても彼女が村で治療の時に使っていた本と同様のモノだ。


開いている時だとわかりやすいが、閉じた状態でも薄っすらと神秘的なオーラを放っている。

あの時の光景を近くで見ていないベルも、何かを感じ取った様子で表情を引き締め、凝視していた。


「あたし達が魔法、魔術と呼ぶものにはいくつか種類があるんだけど、これはその中でも魔導書と呼ばれる類のもの。

この本を駆使して戦う魔術です」

「村でなんか光ってたやつだよなー。あの時は水を出してたみたいだけど、どうやって動かしてたんだ? オレらが普段飲み水を出したりするのとは、ちょっと違うっぽい」


彼の村には、魔獣と戦うための術がなかった。

しかし、だからといって魔法の概念までまったくないという訳ではないため、思いの外すんなり飲み込んでいる。


よく見ればぼんやり輝いている本を受け取ると、すぐさま隅々まで見回し始めており興味津々だ。

教え甲斐のある反応に微笑むシエルは、足元に注意を促しながら、続けて簡単な説明をしていく。


「うん、そうだね。魔法自体は、人間でも大多数が使える。

けど、それは自然の中に満ちてる神秘の力を、ただそのまま使っているに過ぎない。体内に溜まった力をそのまま出力してるだけなんだ。大自然の中で生きてる魔獣なら、それでも十分なんだけど……あたし達人間は、むしろ自然を切り拓いて生きるものでしょ? だから人間は、精神力や技術、道具で神秘を支配しないと、本領を発揮できないんだよ」

「なるほどなー。いっつも不思議だったんだ。オレ達が火種とか少しずつの水とかしか出せないのに、魔物たちなんて炎を吐くどころか体を炎に変えてたのが」


自分たち無力な村の人間と、彼女たち戦う力を持っている人たち。両者の違いは、そのまま魔獣との違いだ。

1人では相手にならなかったベルは、ようやく疑問が解消し、また希望が見えて、目を輝かせている。


とはいえ、道具を手にしても練習しなければまともに扱えるはずがない。ちゃんと知識として蓄えたいならまた今度。

今は身を守る術をものにすることが最優先なので、シエルは実践してもらうため話を切り上げにかかる。


「まぁ、もっと細かな話や魔物――魔獣の話なんかは、歴史とかにも繋がってくるからね。今は、人が扱いきれない純粋な力を魔法、人が扱いやすいように加工した力を魔術だと思ってくれればいいよ。とりあえず、試しに魔導書を使わずに魔法を使ってから、次に魔導書で魔術を使ってみて。

魔術は魔導書に染み込ませてある。

ページを開いて、内容をイメージすれば使えるから」

「わかった!」


シエルの指示を受けたベルは、まず指先に小さな水球を浮かべる。飲水を貯めるために慣れているのか、ポンポンと出てきてはいるが……これではとても攻撃には使えない。


最終的には周囲で木の葉のように浮くも、すぐにただの水滴として続々と地面に落ちていた。


次に、魔導書を開いて魔術を使う。

開いたページは、さっきの魔法に合わせて水。


本がより強く輝き、文字列が浮かんだかと思うと、背後には先程とは比べ物にならない数の水球が現れ……

直後、力が暴発して爆散した。


結果を察していたのか、シエルはいつの間にか離れて歩いていたので濡れていないが、中心にいたベルはびしょ濡れだ。


「あっれ、意外とむずいぞこれぇ……」

「まぁ、イメージすれば使えるとは言っても、つまりは十分考えて……精神力で操るってことだからね。

体に順応した神秘の力――魔力も足りてなかったり出し入れの塩梅が上手く出来てなかったりする場合もあるし。

やっぱり、慣れてないと自在にはできないよ。

手順通りにすれば動くってものでもないんだから」


戻ってきたシエルは長杖を振り、水分を吸い取りながら笑いかける。一瞬で乾かしてもらったベルは、魔導書を閉じながらガックリと肩を落としていた。


「道のりは長そーだなぁ」

「あはは、今日はこのくらいかな?

リチャードが空を見上げてる」


何を習得するにしろ、鍛錬すればするほど上達するのは共通だ。できることならば、何度でも練習したいところだろう。


しかし、ベルがシエルに促されて前を見ると、空を見上げるリチャードの頭上で、木々の隙間から見える空は仄かに赤く染まり始めていた。


勇者パーティとしての旅が始まってから、神秘的な世界に足を踏み入れてから、初めての夜が来る。

今までとは違う状況だからか、その闇は今までにない威圧感を放っていた。


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