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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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27-赤月を戴く玉座

「やっぱコピー能力とんでもねぇじゃねぇか!?」


背後で起こる超常現象を目にしたベルは、走りながら興奮気味に叫ぶ。たまにフレイに方向修正されているが、彼女たちも気にしないことなどできない。この場にいる全員が、浮かび上がる錆とそれを浄化していく銀を凝視していた。


「改めて神秘のすごさ実感したよ。

シスイ頼りになりすぎる」

「当然だろ! なんたって、この俺が呼び寄せた侍だぜ?」

「呼んだだけで何偉そうにしてるんだろう、この盗賊……」


興奮している男性陣とは真逆で、フレイだけは神秘を視界に収めつつも落ち着いていた。アリババに睨まれながらも撤回せず、状況確認を始める。


「ぼくたちは先に吸血魔城へ攻め込む。だけど、勝ち目なんて100%ない。少しでも温存しておかないとすぐ死ぬよ」

「おい傭兵! スカしてんじゃねぇぞ? あん?」

「傭兵じゃなくて護衛だけど、仕事中だからね。

勝ってもクビじゃ目も当てられない……ってうわぁ!?」


急に現れた吸血鬼に驚き、フレイは銃をぶっ放す。

アズールたちが戦い始めたからか、下っ端の吸血鬼たちの数はだいぶ減った。それでも、1人もいなくなった訳ではない。


道を阻む者は少なからず現れ、勝ち目が薄いとわかっているのか奇襲を仕掛けてくる。窓を突き破り、建物のすき間から湧くように、背後から並走するように。なりふり構わず止めようとしてくる敵は、なかなか厄介だ。


とはいえ、彼らはあくまでもやり方が厄介なだけである。

与えられた力をただ使うだけの敵など、手強くはない。

彼らが力に振り回されている隙に、銃弾が、ナイフが、魔術が、あっという間に吹き飛ばしていく。


「ビビりすぎだろ、そんなんで女王に挑めんのかぁ?」

「フレイって、パッと見クールに見えるだけで、案外勢いで生きてるよな。騒がしくて退屈しなそう」


落下中の吸血鬼たちが降ってくる中、アリババとベルは口々にからかう。2人は目を見開いたりはしても、悲鳴は上げていない。声を出すほど驚いたのはフレイだけだ。

一番真面目に進んでいた彼女は、ムッとした様子で行く先を示す。


「うるさいな。ぼくのことなんて気にしなくていいんだよ。

それよりほら、もうすぐ城に‥」

「ちょっと待て。あれなんだ?」


だが、彼女の言葉が最後まで紡がれることはなかった。

なぜなら、ゆっくりと立ち止まったベルが、緊張した面持ちで何かを見上げていたから。


「あれ?」


呼び止められたフレイたちも、遅ればせながら立ち止まる。

視線を追うと、その先にはひときわ高い屋根の上で腕を組み立つ吸血鬼の姿があった。


「まさか、女王スカーレットじゃないよな?」


神秘によって視力が強化されているとはいえ、視界すべてを見通せる訳ではない。高く……遠すぎる以上に赤い空が暗すぎて、それの姿ははっきりと見通せなかった。


「いやぁ……流石にないでしょ。

なんとなく、女性ではある気はするけど」


わかるのは、やけに堂々としたシルエットだけだ。

男のようにガッシリしておらず、細身ながらやや丸みを帯びたシルエットは、人外ながら女性のそれだった。


ただし、決して女王らしい服装ではなく威厳も感じない。

遠くからでも存在を察知できた時点で、神秘ではないだろう。矛盾するが、はっきり言って存在感が……威圧感がまるでない。ただただ薄気味悪いだけである。


「ま、手ぇ出してこねぇなら関係ねぇだろ。

さっさと行くぞお前ぇら。女王をぶっ殺すぜ」

「無理だって話してたよな? アリババ」


気にはかかるが、彼女は城にもおらず動く気配もない。

後ろ髪を引かれながらも、無鉄砲に城へ入っていくアリババを追って、ベルたちも城に足を踏み入れていく。


――赤い空は、雲1つなく晴れ渡る。

それなのに。空は世界を蝕むようにジクジクと暗くなり、街を閉じていた。




~~~~~~~~~~




「魔術から神秘に昇華されているとはいえ……」


同刻。足止めに残ったクーリエは、大鎌を打ち払いながら苦々しげにぼやく。目の裏に焼き付いているのは、先ほどの光景――錆を尽く連れ去った重力だ。


「私より広範囲高威力で重力を操るなんて、遺憾だわ」


しかし、意識を他に向けていようと、戦闘が疎かになることはない。弾いても止まらず弧を描き、また急所を狙ってくる鎌を、何度でも折る勢いで迎え撃つ。


「あなたは弱い、ものね」


何合も、何合も、美麗な大鎌と巨大な斧はぶつかり合う。

折るつもりで叩きつけているはずなのに、ヒビが入る予兆すらなく。


とはいえ、斧が軽いなんてことはない。

たとえ重力をなくされていても、人ひとり隠せる大きさ通りに斧は重いのだ。そんな斧を、クーリエは尚も振り続ける。


攻めに転じられずとも、絶えず微笑を湛えながら。

首へ、手首へ、心臓へ。

吸い寄せられるように迫る大鎌を叩き潰すために。


「そうね。だって人間だもの」


彼女が扱う重力魔術――この場面においては特に、普段物にかけている重力をなくす魔術。それは決して、重みを失わせるものではなかった。


手から、背中から消えた重力は、多くを背負うためのものであるがゆえに。危機を排するその瞬間、それらは本来の重みを取り戻す。


いや、むしろ質量以上の重みで敵を打つ。

不自然に課された重力は、破壊力を数倍に膨れ上がらせ鎌へ衝撃を走らせていた。


「っ……」


鎌を吹き飛ばされたアズールは、軋む腕に顔を歪めながらも体勢を崩さない。くるくると舞うように着地すると、霧めく体で消えて空中の鎌をキャッチする。

腕もすでに回復し、消耗は与えられていなかった。


それを見たクーリエは、背中の荷物を踵で蹴る。

元々恐ろしく軽くなっていた荷物は、より軽く。

空中をふわふわと浮き始めていた。


「でも、そんなあなたは何様なの? たかが一生命も終わらせられないで、よく神秘を名乗れるわね」


屋根に届く荷物は、バラバラになって空間を埋める。

クーリエは神秘ではない。魔術という形で神秘を扱えるだけで、能力として操れはしない。


それでも、彼女はこのために一つ一つかけていた重力魔術により、擬似的に世界を書き換えていた。


「挑発は無駄。どうせあなたは、直に死ぬ」


物が浮き、見通せない視界の中で、青白い少女は告げる。

以前、シスイにも言ったセリフを。実際に、彼女を一度殺しかけた直前の言葉を、そっくりそのまま。


「……」


互いに冷笑を浮かべながら、2人の少女は同時に駆け出す。

荷物が飛んでいても、洗練された動きは鈍らない。


なぜなら、片方は霧で、もう片方はこの状況に慣れているから。邪魔な荷物をかいくぐり、己の武器を動かして、鎌と斧は鮮烈な火花を散らす。




~~~~~~~~~~




スカーレットの居城に突入したベルたちは、真剣な面持ちで城内を走る。アリババが玉座の間を知っているため、余計な部屋には立ち寄らない。通るのは廊下と階段だけだ。


だが、廊下を見ているだけでも、城の雰囲気は察せられる。

赤いカーペットが敷かれ、天井にはシャンデリア。

廊下の壁には勇ましい英雄たちの絵画が飾られている、物々しくも豪勢な城だった。


「なぁ、どうして誰もいないんだ?」


しばらく案内に従って進んでいたベルは、配下の一人もおらず静まり返った城内を見て首を傾げる。


城までの道では何度も襲われたのに、侵入してからというもの、吸血鬼どころか虫すらいない。

消耗しないで済むのはありがたいが、不気味に思わない方がおかしい状況だった。


不安そうなのはフレイも同様だ。

しかし、さっさと先を行くアリババだけは、勝手知ったる様子で返事をしている。


「前盗みに入った時もそうだったぜ。

今までの感じ、ここに入るのは三吸傑のやつらだけだ」

「本拠地なのに?」

「だからじゃね? 必要ねぇんだろ、女王に護衛なんざ」

「なるほど」


女王スカーレットは、血筋により支配者となった訳ではなく、実力で従わせて支配者となった、魔王種だ。

最強であることは疑いようがなく、ならば一人気ままに暮らしているのも納得である。


もちろん、ただの推測ではあるが、ベルたちに否定しようがない。素直に頷くと、また黙々と女王の玉座を目指し進む。


視界に入るのは装飾や絵画ばかりだ。

女王に挑む勇士の絵、血を吸わせ育てられた花、派手に血を噴き出す勇士の絵、勇ましい勇士の彫像。


その他、魔王種の領域に相応しくない、不可解なほど英雄を思わせる芸術品の数々が。

怪訝に思いながらも彼らは進み、やがて最後の部屋にたどり着く。


「ここだ。ここが女王の玉座がある部屋だぜ」

「……」


目の前にあるのは、豪奢な取手や装飾に彩られた、明らかに城主の部屋とわかる大きな扉だ。

ベルはゴクリと唾を飲み込むと、アリババと一緒に重い扉を開く。


「……!?」


真っ先に突入するのは、二丁拳銃を構えたフレイだ。

しかし、彼女は言葉を発することも銃弾を放つこともない。

何が起こっても対応できるように身構えた姿勢のまま、ただ固まっていた。


「どうした?」

「おいおいマジか」


間髪入れず、ベルとアリババが彼女に続く。

視線を向ける先はバラバラだ。

一方は硬直した仲間を胡乱げに見やり、もう一方はお宝を盗むため玉座を見る。


だが、最終的な集約点は変わらない。

彼らはみな、最奥にある玉座に目を吸い寄せられる。

その、誰もいない空っぽの玉座を。


「……!! なん、で……!?」


本来、主を受け入れるはずの玉座は今、何人をも拒絶する。

ベルたちを待ち受けていたのは、寒々しい空の玉座だった。



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