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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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22-生き残り、夢を見る

良い子のみんなー、こーんにーちはー!

ナイトメアTV、はっじまーるよー!

早速だけど、みんなはナイトメア・ヴァン・ルージュという神秘を知っているかな? おっと間違えた、スカーレット・ヴァン・ルージュだったっけ。あ、待って待って、まだチャンネル変えないで……

「なんだ今の夢……?」


目を覚ましたベルは、ベッドから体を起こしながら首を傾げる。時刻は朝だが、相変わらず窓から見える空は暗い。

同じように、意味不明な夢を見た彼は表情を曇らせていた。


「ナイトメア……TV? いや、誰だよあいつ。

まさかとは思うけど、魔王種ナイトメア?

オレ、会ったことないんだけど……」


顔も知らない相手なのに、そんなにはっきりと夢に見るものだろうか。普通なら、文字通り夢だしな……で終わらせる内容だ。


しかし、他ならぬスカーレットに言及するなど、あまりにもタイミングがいい。相手は神秘なのだから、何かしらの力で干渉してきたと見るべきだろう。


皿、本、食料品に、ペンなどの雑貨類や長剣や弾薬といった武器。多くの商品が押し切れた部屋を見回したベルは、棚から紙を拝借すると、簡単にスケッチを始める。


吸血鬼とは違う、正真正銘の鬼みたいな角に、月のような曲線を描く目と口をした仮面。黒い道化師のような服装で、やけにコミカルに動くその姿……


「夢でつながっちまった……のかなぁ? おかしな縁だ。

どうせならシャノンの夢を見せろっての」


ベルは落ち着いて状況を整理すると、そう結論付ける。

介入してくるには何とも微妙な、アリババを見つけてから、もう何度目かの朝だった。


「お絵かきしてるの?」


いきなり声をかけられ、ベルはふいっと顔を上げる。

音もなく開けられていた扉の横には、攻め込むための準備をしている間、一緒に拠点を転々としているブライヤがいた。


「子どもみたいに言うなよ」


元々の性格もあるだろうが、魔王種たちから逃げ隠れしながら生活して数日。既にお互いへの遠慮は欠片もない。

ベルがムッとした様子で唇をとがらせると、ブライヤはからかうようにニヒヒと笑う。


「子どもでしょ? あたしたち、年同じくらいじゃん」

「……それはそう」


事実は覆しようがなく、ベルは頷いた。同時に、さり気なく紙を折りたたんで絵を隠そうとしている。


「ね、見せて見せて」

「やだよ」

「ふーん、吸血鬼の亜種みたいな絵だね。しゅみ悪ーい」

「お前な……」


隠そうとしていたベルだったが、呆気なく紙はブライヤの手の中に。勝手に見られた上に貶されて、彼はガックリと脱力してしまう。


それに追い打ちをかけるように、頭を見下ろしているブライヤは冷たい笑みで圧力をかけ始めた。


「自己紹介したよね? ベル」

「ブライヤ、いつまで付いてくるんだよ? 戦うってなったんだから、もうわざわざ危険をおかす必要ないだろ?」

「クーリエさん的にはまだ利用価値があるんじゃない?

というか、それを言うならむしろあなたでしょ。ベルだって別に首を突っ込む必要ないよ。

モヤモヤするだけならなおさらね」


あからさまに嫌そうな表情とセリフに、ブライヤは薄っすらと瞳に悲しげな色を覗かせる。

だが、それを気取られる前に瞼は閉じられ、逆に相手を引き離すような言葉を返していた。


肩をすくめてベッドの端に腰掛けた彼女を、ベルはチラリと横目に口を開く。


「オレは……勇者の仲間だし、誰かの助けになれる人になりたいから。頼られたいなら、逃げてちゃダメだろ?」

「こんな街でやらなくていいのに」

「来ちまったんだからしょうがないだろ。

文句あるならアリババに言え」

「アリババのばーか」

「それは悪口な」


危ないよ。逃げた方がいいよ。

お互いにそんなことを言い合っているが、ブライヤが合間に軽快なやり取りを挟むので、空気は重くなりすぎない。


思わず笑みが漏れ、ケラケラと音が響き、言葉はゼリーのようにするりと喉から溢れ出る。


「とにかく、オレはこれでいいんだよ。クーリエも魔王種が作った法律だとかって言ってただろ? 感謝してる人がいたとしても、お前みたいに嫌だってやつがいるなら悪じゃなくても最善じゃない。お前がひあなあ、そええいいんあ」

「お前じゃなくてブライヤですー」

「あぁもう! ダル絡みしてくんな!

距離感どうなってる!?」


話の途中からほっぺを引っ張られていたベルは、律儀に話し終わってから振り払う。ブライヤはその勢いで跳ねるが、頬は上気しており楽しそうだ。


「仕方ないじゃん。友達いたことなかったんだから」

「この押しの強さで?」

「性格の問題じゃなくて、考え方の話。

こんな街で、友達なんてできないよ」


どこかしんみりとした雰囲気に、ベルは口をつぐむ。

この街が生き残る術でも、むしろ感謝しているのだとしても。偽善とわかった上でなお、魔王種を倒して助けたい。

そんな気持ちが、改めて彼の表情に表れていた。


「よぉよぉ、いちゃついてんじゃねーぜガキども」


突然、思い詰めたような沈黙を引き裂くように、快活な声が部屋に響く。顔をしかめたベルが声のした方を見ると、またも扉の隣には人影――アリババの姿があった。


発見時、黄金化していたり干からびていたりした手足は、大体は一応人の形を取り戻している。治療に時間こそかかったが、無事に攻め込む態勢は整ったようだった。


「どいつもこいつも勝手に……」

「え? いちゃついてる……?」


セリフ的にはからかっているとも取れるが、不貞腐れたような表情からして、普通に苛立っている様子である。

モルジアナを助けたいというのは、案外本気で思っているようだ。


「うるせぇうるせぇ。ごちゃごちゃ言ってねぇで立ちな。

クーリエの準備ができたってよ」


話に耳を貸さないアリババは、同じように渋い顔をしている2人を黙らせると、集まるよう促す。


立場に反した命令口調に、ベルたちは不服そうにしていたが、少しでも早く動けるに越したことはない。2つの意味でため息をつくと、渋々立ち上がってドアへと向かう。


「やっと荷物の整理が終わったのか」

「というか、あれだけ何度も拠点を変えてるのに、よく整理できたね。てっきり、時間をかせいでいるのかと」

「んなこと、俺がさせるかってんだ」

「お前、頼み込んできた時のしおらしさはどこ行ったんだよ……一応、助けてもらう側だよな?」

「あ? 顔色うかがってたしょうがねぇだろ」

「たしかに」


部屋を出た3人は、クーリエの待つ広間へと。待ちくたびれた体を伸ばしたり、雑談をしたりしながら、トコトコ歩いていく。


少なからず敵対していた彼らだが、それもとっくに終わったことだ。取り繕わないアリババの言動にも、特に反感を持つことなく同意している。


それに気を良くした様子で、アリババは生き生きと笑い、嬉々として言葉を続けた。


「感謝はしてるが、萎縮して全力出せねぇ方が問題だからな。好きにやらせてもらうぜ、俺は。あモチロン? 今まで盗んだ武具秘宝の恩恵にあやかりたきゃ?

貸してやらんこともない。お宝見てぇか? お? お?」

「急にムカつくな、おい。

クーリエと役割被ってるくせによ」

「やっぱり少しはしおらしくしてなさいよ、あなた」


急に煽られ、ベルはキレる。

実際、アリババは盗賊王なのだから、当然貴重なお宝を山程持っているのだろうが……言い方が最悪だ。


顔をしかめるベルは素直に苛立ちを見せ、クーリエも苦言を呈する。しかし、犯罪者がそんなもの一々気にするものか。

どうやって持ち歩いているのか不思議なくらい脆そうな小瓶を取り出すと、自慢げに解説を始める。


「これはな、かつて暴風竜と呼ばれた男の遺物でな――」

「マジで見せびらかしてきやがるコイツ……!!」

「どこから取り出したのよあなた……」


合流する前に魔王種とやり合い、死にかけていたはずなのに、なぜガラスの品が壊れていないのか。まずはそこを説明してくれよ、と思うベルたちだった。



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