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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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21-人を繋ぐ商人

一部乗り気ではない者もいるが、全体の決定としてアリババと協力することは確定だ。街から出るにしても、アズールらに行く手を遮られたら敵わないため、Win-Winだろう。


一行は、クーリエの魔術で安静に浮かんでいる彼を連れて、速やかに拠点へと戻ってきていた。


「……お前、ほんとに商人か? すごすぎない?」


安全圏に入り、警戒を解いたベルの第一声は、それだった。

実質敵対していたアリババのことも、やたら目を引く悲惨な負傷も、まったく気にしていない。


『治療を頼む』と要求されてもスルーしているのは、相当な胆力である。もっとも、応じているのは出迎えたフレイの他は無関係なブライヤだけなので、相応の扱いとも言えるが。


「言ったでしょう、多少の武力はあるって。

私はアビゲイル魔術学院の卒業生……魔術師よ。

卒業後、戦闘職ではなく商人になっただけ」

「師匠と同じとこだ!」

「学校なんて他にないけど……私の後輩ね、彼女は」


黄金化した右足に、干からびた左手。全身の傷と流血だけならまだしも、超常の名残など人の手に余る代物だ。

治療法がわからないフレイがドタバタ騒いでいるが、2人は我関せずで会話を弾ませている。


「へー! 師匠、自分たちのことはあんまり話したがんないからなぁ。めちゃくちゃ新鮮だ」

「話したとしても、しがない先輩1人の話なんてわざわざしないでしょうよ。相当な理由がない限り」


普段クーリエは、トゲトゲした態度の裏に、強いプライドや自信を隠しもせず覗かせている。

我が強いだけあって、それは出会ったばかりでもわかるくらいだ。


しかし、今の彼女からは、心なしか劣等感や自虐の色を感じる。まだ短い付き合いのベルも、彼女らしからぬ様子に困惑を隠せていない。


「クーリエ、すごいと思うけどなぁ。ちなみに、さっきのもバッグと同じ魔術? あと、さん付けしてた気がしたけど、師匠とはあんま関わりなかったの?」

「あの人は私の憧れ……って、今はそんなことどうでもいいのよ。契約――この後の方針をはっきりさせとかないと」


探るように問いを重ねるベルだったが、クーリエは話を途中でやめると本題に戻る。すなわち、これからどうするのか。


一通りの探索を終え、目的であるアリババを見つけ、この場に連れてきた今。自分たちは、どう動くのか。

本当に悪人――悪人だけを助けるために危険を冒すのか。


言いたいことをなんとなく察した様子のベルは、すっとぼけながら改めて確認を取る。


「方針?」

「アリババが望む協力って、モルジアナを助けることだけよ。あなたは、そこで止まるの?」


決して利益だけを見ていない、真っ直ぐ向けられる目。

商人でありながら英雄視されるだけあって、強い意志を感じさせる目。すべて見透かすような視線に射抜かれ、ベルは少し困ったように眉尻を下げた。


「個人的な話をするなら、そりゃこの街を生産区のまま放置してくのはモヤモヤするけど……共生してるんだろ?

うちの村だって、生贄を出して生き延びてた。代わりに安全を守る案もないのに、助けを求められてもないのに、自分が認められないってだけで無責任に解放はできねーと思う」

「うんざりするくらい冷静ね。ま、私としても無駄に危険を冒したくはないし、その方がありがたいんだけど」


現時点での気持ちを聞いたクーリエは、ヤレヤレと首を振りつつ淡々と賛同する。だが、賛成できる訳ではないようで……

含みのある言葉に首を傾げるベルの前で、彼女は壁際で顔色を悪くしている少女を一瞬見やった。


思いがけず目が合ったブライヤは、その意味を想像してか顔をしかめている。


「でも、商人としては、代金はちゃんと支払わないと」

「え、オレ金持ってねぇ」

「わかってるわよ!」


焦った顔をしているブライヤは、彼らがもう目的を達してしまって戦う理由がないとでも思っているのだろう。

クーリエの言葉にも視線にも気づかず、打開策でも考えている様子だった。


「大体あなた、商人でもなんでもないじゃない。

そうじゃなくて、私。あれを見つけるために手を貸してもらったこと……あなたよあなた。何か言いたいことはある?」

「……え?」


思い悩んでいたブライヤは、急に水を向けられ目を丸くする。ベルからしても、予想外の展開ではあるが……

わざわざ彼女の方に問いかけたのだから、少なくとも用済みではないらしい。


使い捨てられず安心したとも、意図がわからず困惑しているとも取れる表情で、ブライヤはおずおずと口を開く。


「もう、用事は済んだんじゃないの……?」

「そうね。盗賊王は捕らえられた。仮に品物が戻らなくても、本人に憂さ晴らししてやれるわ」

「え、俺けが人……」

「なら……」

「初めに言わなかった? これは取引だって。当然、協力してもらった分の見返りはあるわ。それに、あなただって獲物で終わるつもりはないと宣言していたはずだけど」


アリババの苦情をスルーしたクーリエは、当たり前のように告げた。堂々とした、強い誇りを感じられる目だ。真っ直ぐと向けられる視線に曝されて、ブライヤは瞳を揺らす。


「そうだけど、もう終わっちゃったならその余地がないじゃん。無力だからこそ、あなたたちの手を借りようとしたんだから……命をかける必要なんてなかったなら、あたしは無理を言える立場じゃない。見返りにはつり合わない」

「これは取引よ。役に立った分、あなたはには要求する権利がある。それを聞き入れるかどうかを決めるのは、あなたじゃない。さぁ教えて? アリババの居場所を教えた見返りに、あなたは何を望むのかしら」


多少賢かろうと、まだ子ども。見過ごされる範囲では避けられても、逆らえはしない。そんなブライヤの萎縮した心を、クーリエはスルッと緩めていく。


要求なんて言うだけタダだ。

決める責任を負うのはあくまで侵入者たちだ。

想いがあるなら、試しに言ってみればいい。


それなら。……それなら。それなら――!


「……この街を、解放してほしい。吸血鬼たちを、倒してほしい。今の在り方を、壊してほしい!」


薄っすらと涙を浮かべながら、街の少女は叫ぶ。

異端を受け入れ、孤独を払い除け、恐怖に打ち勝ち、変革の一手を指す。


ベル達にしてみれば、危険を冒すことになるため不利益でしかないが、勇者への憧れと同時に、商人の誇りは守られた。

望み通りの回答を得て、クーリエは満足げだ。


「よく言えました。そういうことよ、ベル」


直前までの、慈愛を感じる微笑みはどこへやら。

したり顔で宣うクーリエに、ベルは思わず苦笑する。


もっとも、それは彼女に対してではない。

目を閉じて脱力する彼は、自らの内を見る。


何度も危機を実感し、恐れを抱き、逃げられることにどこか安心していた心。けれど、命懸けで挑むことになって、緊張し、なのに心が救われたという事実。


そういったものが複雑に絡み合い、表出し、どちらとも取れる何とも言えない表情が生成されていた。


「でも、本当にいいの? 三吸傑を相手にするだけでも命懸けなのに、女王様までいたら……」

「確実に殺される。そう言いたいのかしら?」

「……うん。あの方にはだれも勝てないと思う」


優しさに触れたからか、当初利用しようとしていたのが嘘かのように、ブライヤは目を伏せる。

現在の支配に批判的でありながらも、その目には抗いようのない信仰や諦めがあった。


他の住民よりも刷り込みが弱いのだろうが、それはきっと、本能に染み込まされた常識。まだ街が吸血鬼の国として機能している以上、どうしょうもない。


「そうね。この場にいる誰も、アレには勝てないでしょう。

けれど、このまま潜んでいてもジリ貧だし、一度外に出るとしても結局アズール達とやり合わなきゃいけない。

あなたと違って、私たちに道はないのよ」

「なら……」


――せめて、全員との戦いなんてさけるべきじゃない?

願う立場の彼女は、助けを求める側の彼女は、その言葉の先を言えず、口ごもる。とはいえ、続きを聞く必要なんてないだろう。


この街に巣食う魔王種の強大さなど、外部の人間でも一目でわかる。刷り込まれていなくとも否定できないことだ。

しかし、無謀を肯定してもなお、クーリエは絶望の色を振り払って強気に微笑んでみせる。


「もっとも、勝てないってだけで、負けるだなんて言ってないのだけどね」

「そうなの?」

「シスイなら、足止めくらい楽勝よ。

そして、時期さえズレれば勇者が来る」

「ゆう、しゃ……」


外を知らない少女は、イマイチ理解できなかったらしく部屋を見回す。強く信頼しているらしく希望に満ち溢れたベルを、不敵な笑みを浮かべるアリババを、早くも気を抜き眠るシスイを、安心させるように優しく微笑むフレイを。


だが、いくら穏やかな空気に包まれようとも、一歩外に出れば魔王種の世界だ。あまり納得できていないと見え、変わらず申し訳なさそうにしている。


「……ごめんね。待ってれば、逃げられるのに。

あたしが余計なこと言ったせいで、引けなくなって」

「勘違いしないで。これは私たちが望んでいたことよ。

あなたは理由をくれただけ」


ここまで来ると、クーリエも若干苛立たしげだ。ムッとした表情で、刺々しく言い放つ。

なぜか怒りながら諭されて、ブライヤは困惑するしかない。


「死んじゃうかもしれないのに、なんで……」

「人には人の営みがある。これが仮に、自ら選び育んできた文化だと言うなら、何も口は出さないわ。

でも、ここは違う。吸血鬼共が、自分たちに都合のいいように法律を作って支配しているだけよ。

そんな在り方、私は受け入れられない」


誰かに言われたからではない。彼女自身の内から溢れ出た、魔王種への明確な敵意。これを目の当たりにして、巻き込んだなど思えるものか。


ブライヤは瞬きもできずにじっと見上げ、すべての責任を奪い取ったクーリエは神妙な面持ちで言葉を紡ぐ。


「人よ、家畜に堕ちることなかれ。

"万路を拓く者"クーリエが、文明の証を示しましょう」



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