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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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20-アリババという男

ベル、シスイ、クーリエ。この場に集った者たちは、1人の例外なくアリババに何かを盗まれてここに来た。

彼を見つけることを目的に、追ってきた。


であれば、答えは簡単だ。

――盗賊王、アリババ・アデルバッドを連れてくる?

選択肢など、1つしかない。


『もちろん』


彼らは満場一致でアリババと会うことを決めた。

しかし、ここでブライヤによってもたらされたのは、さらに詳細な状況だ。


曰く、アリババは瀕死の重傷を負っていて動けない。

全員で運ぶならともかく、呼び寄せ招くだけでは連れて来ることは出来ないのだ、と。


それにより彼らは、ほぼ全員で現場に向かうことになった。

隠れ家の守りにフレイを残し、ブライヤを含めた残りの4人が総出で連行に向かう。


既に幹部勢と一通り小競り合った後だからか、大勢での移動になっても敵は現れない。ゾッとするほどいつも通りの日常が繰り広げられる街中を、彼らは黙々と歩いていった。


そうして、なんの邪魔も入らず行程は終わり、英雄たちの目の前には今、罪深き盗賊王が伏している。


「……よぉ。久しぶりだなぁ……シスイ、クーリエ。

ちゃんと引き込めたみたいでよかったぜぇ……」


足音に気付いたアリババは、力なく顔を上げると微かに笑みを浮かべる。事前に知る術はなかったはずだが、あれだけのことをしておいて、思い至らない道理はない。


結託するかどうかはともかく、探されていること自体は予想していたのだろう。いきなりの訪問でも、彼は欠片も動揺せずに歓迎していた。


「本当に死にかけなのね。ザマァない。

受けた損失分、あなたの懸賞金で償ってもらおうかしら」


シスイが同行しているのは、あくまでも連行中の護衛としてだ。彼女に話す理由はなく、会話は主に、名指しされたもう1人であるクーリエが行う。


開口一番、かなりの敵意を向けているが……

彼らの関係性だと、むしろ友好的な方が怖いだろう。

大勢に囲まれ、抵抗もできないアリババだが、嘘とは思えない脅しを受けても表情を崩さない。


黄金に変貌した右足を立てて、形ばかりの臨戦態勢を取り、干からびた左腕を弱々しく振っている。


「ハハ……俺単体じゃあ大した額はつかねぇよ」

「黙りなさい。それでも億超えでしょう」


死にかけていても返される軽口を、彼女は一言で断ずる。

誤魔化そうとしても無駄だ。蓄えた宝を奪えずとも、お前にだって十分な価値はあるのだと。


旗色が悪いと見るや否や、アリババは盗賊らしくくるりと話を変えてしまう。


「へ……ところで、シャノンのやつはどうしたよ?

あいつが無視するとは思えねぇんだが」

「死んだわ」

「……へぇ。そりゃ残念だ」


淡々と告げられた言葉を受け、アリババは乾いた笑みでどうでもよさげに吐き捨てる。動揺は見えない。だがよく見ると、目に宿る光が若干曇ったようだった。


とはいえ、それも感情的とはほど遠いものだ。

裏にある本心など分からない。微妙な変化を知ってか知らずか、クーリエは追撃を緩めなかった。


「思ってもないことを口にするものではないわ。

特に、こういう状況ではね」

「おいおい、心外だなぁ。俺は本気で残念に思ってるぜ?」

「戦力としては、シスイがいれば十分でしょ?

なにより、生きていてもあなたに協力するとは限らない。

私たち含めてね」

「いくら神秘でも、1人で魔王種4体は相手にできねぇだろ。

それに、お前らだって生きて出るためには戦力が必要だ。

一通りやり合って、目をつけられたみてぇだしな。

蒼銀が死んだのなら、なおのこと」


嘯くアリババと、信用しないクーリエ。

両者の状況は似たりよったりだが、間で散る火花は弱まるどころかどんどん激しさを増している。


片方だけが瀕死で均衡は崩れているのに、1人は名のある大商人だというのに、とてもそうとは思えない光景だ。

しかし、わざわざ呼び込んでおいて、ここまで探しに来ておいて、口論だけで終わるはずがない。


剣呑な雰囲気が嘘かのように、クーリエはサラッと身を引いてスルーされていたベルに水を向ける。


「あなたの思惑に乗るつもりはない。

けれど、内容も確認せずに突っぱねるつもりもない。

ベルくん、話したいことがあるならどうぞ?」

「うん」


プライドが高く、思想が強く、一見クールに見えてその実激情家。そんなクーリエだが、最も愛されている大商人の肩書は伊達ではない。


ヒートアップする舌戦の中でも冷静さを失ってはおらず、今必要な商談材料を提示した。ようやくベルに目を向けたアリババは、小馬鹿にしたような顔でせせら笑う。


「よう、足手まといの坊主。勇者くんが助けに来ないとは、思ってたより頼りにされてないんだな」

「挑発は無駄だぞ。薄っすらとだけど、オレはもう事情を聞いてる。時期が悪いんだってな」

「ほ〜う? それは知らなかった。物知りだな」


ベルが毅然と言い返しても、彼は挑発的な態度をやめない。

再会してからも壁にもたれて座ったままで、立つ力も残っていないのに、いっそ見下しているとすら言えるほどだった。


だが、言動だけ生き生きとしているアリババとは対照的に、ベルは冷ややかだ。微かにため息を吐くと、哀れみすら感じさせる様子で淡々と問いかける。


「お前は今、どういうつもりでオレたちと話してんだ?」

「あ?」

「無だに強気で、挑発的で、主導権を握ろうとする割に自分のことしか考えられずに空回ってる。

痛々しくて見てられねぇよ、盗賊王」


攻撃的ではないからこそ、深くまで突き刺さる言葉。

容赦なく告げられた事実に、アリババは心なしか表情を歪めていた。無心でその姿を見つめるベルは、さらなる追い打ちをかけていく。


「モルジアナに会ったぞ」

「……」


サラッと、その名は告げられた。

多少の無茶をしてでも、アリババが絶対に助け出したい人の名を。


それを聞いた彼は、大きく目を見開きわずかに顔を逸らしている。ここまでツギハギだらけのやりとりをしてきて今さらだが、少しでも感情を隠そうとするように。


「あの人は、ペンダントをオレに返してくれた。

その上で、助けてほしいと言ったんだ」


先ほどからずっと、そもそもの変化がわずかだ。

ベルたちは特に気に留めず、交渉を続ける。


「上手いよな。無理やりコントロールしようとしてるお前とは違って、相手に合わせて拒否しにくい誘導をしてる。

オレたちが……オレが助けるかどうかは別として。

弱ってんのも、逃げ場がないのも、選択肢がないのも、全部お前らの方だろ? そんな使い物にならねー腕で、足で、何優位に立とうと強がってんだよ」

「命も居場所も主導権も、奪わなきゃ奪われる。

助けるかは別なんだろ? だったらやっぱり、俺は俺のために正しい行動をした。お前らだって他に道はねぇ。

力を貸せよ、恵まれた偽善者ども」


多くを見透かされ、段々と仮面が剥がれていくアリババは、なおも上から押さえつけるようなセリフを放つ。

強い単語で、凶暴にうねる顔で、制圧しようとする。


それを、解きほぐすように。

柔軟に言葉の嵐を受け流したベルは、再度心の芯に手を差し込んでいく。


「オレは命令されたいんじゃなくて、助けになりたいんだ。

取り繕った言葉じゃなくて、本心が聞きたいんだ。

ろくに動けもしねーなら、自分じゃどうにもなんねーなら。

なりふり構ってねーで、お前自身の言葉でしゃべれよ!」


どこまでも真っ直ぐな、子どもの想い。

ただ憧れただけで、勇者に追従する未熟な願い。

自分とはかけ離れた眩しさに、罪人はついに目を伏せた。


「俺はよ、悪党なんだぜ。生きることを理由にして、お前にとっても悪であることを選んだ。なりふり構ってらんねぇから、全員無理やりにでも巻き込むべく敵に回した。

そんな俺を、誰が助けたいと思うってんだよ!」

「オレは!! 助けたいよ……お前らが今までどんな悪事をしてきたかなんて知らねぇ。ペンダントは返してもらったんだ。

オレの目にはもう、捕まって、ボコボコにされて、助けを必要としてる奴らの姿にしか見えないんだよ……」


アリババの声を飲み込むように、ベルの叫びは世界を染める。不信はあろう。不服もあろう。それでも、子どもがこんなことを言っていて、もう誰も否定できはしなかった。


「……ハッ。甘ちゃんめ」


諦めるように赤暗い空を仰ぐアリババは、つぶやく。

本心から、驚きから、そして、安堵から。

ようやくはっきり見えたと思える顔は、重傷人らしい弱々しく微笑んでいるものだった。


「他に言うことがあると思うんだけど」

「……」


仕方がないので、協力はする。とはいえ、諸手を挙げて歓迎できるものか。悪感情をすべて捨てられるものか。

ずっと沈黙を守っていたシスイは、しかめっ面で問い質す。


最初から一貫して悪を自覚していただけあって、アリババはバツが悪そうだ。何度か口をパクパクさせた後、しおらしい態度で頭を下げる。


「……散々引っ掻き回して悪かった。どうか、俺に手を貸してくれ。モルジアナを、俺にとって何よりも大切な、世界一の宝を、助けてください」


今にも死にそうで頼りない姿を、彼らは見下ろす。

大商人も、侍も、勇者の代理も。この場にいる全員が、これもで幾度もなかったであろう誠意を受け止める。


アリババから始まった戦いは、アリババが生み出した好機は、今ようやく実を結び、晴れやかな未来へと向かい出していた。



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