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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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13-血塗れの男と

「ここが、反乱のあった場所?」


クレアが去った数分後。この街の少女――ブライヤは、ベルたちとアズールとの戦跡地にやってきていた。


現場はクレアがいた時と変わりない。

よく見れば血以外の液体で濡れている箇所があり、そこかしこに崩れている場所がある。燃えた跡は一切ない。


キョロキョロと人目――吸血鬼の目を気にする彼女は、ただの野次馬ですよ、といった顔だ。

警戒ではなく、単にこの場で起きた出来事が気になるだけ、なんてフリをして観察している。


「火事ってなんだったの……?

さっきの幻が過去の出来事なら、火は出てたみたいだけど」


ブライヤが思い返すのは、数分前にクレアが生み出していた妙な光――錬金術だ。あの時彼女は、この場に残留する神秘などを材料に、過去の出来事を幻として錬成していた。


それも、なんとなくのやり取りがわかるだけの映像や、痕跡ごとに確認していくような、ちゃちなものではない。


幽霊のように立体的で、実際に動きや全体の流れまで体感できるレベルの再現を、である。


それはもはや、人によっては劇とすら思えるものだ。

たとえ魔術を知らなかったとしても、何があったのかは見ただけでわかるだろう。


運良く発動に間に合い、再現の場に居合わせたブライヤは、そんな光景を見ていたのだった。


「石ころみたいなのを飛ばした道具、変な本、吸血鬼が血を出すみたいに水を出す女の人……よくわかんないな。

1つだけわかるのは、あの人たちがよそ者っぽいことだけ」


再現を思い出しながら確認してみると、弾痕や斬撃跡、足場として崩れた箇所は、幻想と寸分違わずあった。

あの夢のような出来事は、実際に起きたことなのだと確信できる。


「あの浅黒いお兄さん以外にも、いたんだね」


この街――生産区を否定してくれる人が、現れた。

自分たちを、本当の意味で自由にしてくれるかもしれない人が、現れた。


独り言ちるブライヤは、心なしか明るくなった瞳で、希望を持って次の目的地を目指していく。




~~~~~~~~~~




「よし、決めた!」


街の少女が、命懸けの抵抗を試みていた頃。

かなり離れた街の一角では、打って変わって緩慢とした空気の中、ベルが1つの決断を下していた。


錬金陣の試し書き――構想を終え、刻み込む準備ができていたシャノンは、ニコリと笑って応じている。


「お、どっちにする?」

「刻んでくれ。外付けのものは魔道具で十分だ」

「オーケー。君ならそう言うと思ってた」


まだ短い関わりの中、何を以てそう言い切れるのか。

彼は驚くことなく頷くと、指に神秘を込め始めた。

もしかしたら、それだけベルの在り方がはっきりしているのかもしれない。


「場所はどうする?」

「どこでもいいのか?」

「一応ね。でも、だいたいが手で陣を触って発動するから、背中とかだと不便だよ」

「じゃ、手の甲……いや、肩で」


錬金陣を刻んだ道具をもらうか、自分自身に刻むか。

その選択の時は思いっきり悩んでいたベルだったが、決めてしまえば迷いはない。


少し視線を彷徨わせて考えるだけで、ほんの数秒足らず刻印場所を決める。思ったよりも迷わず決断した彼に、シャノンは面白そうな目を向けていた。


「その心は?」

「切り落とされるとか、なさそうだなって」

「ドン引きするほど冷徹だね。笑っちゃうよ。

錬金術師に向いてるんじゃない?」


楽しそうだったシャノンの笑顔に、ほんのりと困ったような色が混じる。当然、ものを混ぜ合わせる魔術師が、不完全な錬成をするものか。その色は一見ただの笑顔にしか見えず、言葉を交わすベルにすら気付かせない。


表向き、素直に受け取れば才能を認められたともとれる言葉は、まだ何も見せていない彼を心から不思議がらせていた。


「なんで?」

「自分の体を、材料とみなせそうだから」

「……怖いこと言うなよ」

「なんだ、恐怖はあるの」

「あるだろ、そりゃ」


口では怖いと言いつつも、ベルは何ともなさそうな顔で街を進む。シャノン自身、錬金術師としてすぐにそういう発想が出てくる辺り、言うほどまともではない。


悲しみか苦しみか、はたまた哀れみか。

どんな感情を持ったにせよ、完璧な爽やかフェイスを保って錬金陣の刻印に移っていく。


「あはは、まぁ全く無い訳ではないだろうね。

だけど、ないならないでもいいと思うよ?

痛みと違って、基本的に自分に害はないんだから」

「害はあるだろ。危険を回避しにくくなる」

「ほら、そういうところ。君は、きっと無駄死にしないよ。

もし早死にするとしても、満足して死ぬはずだ」


服の袖をまくって、神秘が宿った指を押しつける。

『刻む』とは言っても、それはナイフなどの物理的なものではなく神秘による概念的な痕跡だ。


温かな感覚や、何かが体を這うような違和感はあれど、痛みの類は全く無い。サラサラっと錬金陣を描くと、すぐにそれはベルの左肩に刻み込まれた。


締めに、手のひら全体を押し付けて、込められるだけの力と想いを込めながら、シャノンは微笑む。


「願わくば、この力がぜひその一助になってくれんことを」

「え、もうできたの?」

「もちろん。僕を誰だと思っているんだい?

"蒼銀"、シャノン・アマルガムだぜ?」


驚くベルに、シャノンはニヤッと笑い嘯いてみせる。

魔術師らしくない鎧が、眩い笑顔が。

この街に似つかわしくないながらも、すべてに納得感を与え、彼という存在を際立たせている。


この、一見風変わりな騎士風の魔術師こそ、シャノン・アマルガムだ。道端の石ころすら作り替え、価値を与えられる錬金術師だ。頼もしい。ベルから湧き出てきた感情は、ひとえにその一点だけだった。


「あんた、思ってたよりすごい人なんだな」

「あっはは、まさか本当に間抜けとしか思ってなかった?

これでも、錬金術師としてはそれなりに上の方だよ」

「だが、頂点じゃねぇ」

「うん、たしかに頂点では……っ!?」


あまりにも自然に、それは会話に割り込んだ。

ベルはもちろんのこと、明るく笑い飛ばしていたシャノンですら、遅れて気が付き飛び退っている。


そんな彼らの視線の先……先ほどまで、2人が立っていた場所の真後ろ辺りには、薄汚れたローブを着た無精髭の男がいた。


「ハロー、こんにちは。気分はどうだ?」


割り込まれた時と同じ、低く疲れを感じさせる声。

そのくせ、口調はどこか弾むようで、ユーモアすら感じさせる。ボロボロで、血に汚れた見た目には、似つかわしくないものだ。


この街にあってすら、異質――

いや、むしろ平気な顔で暮らしている人たちこそ、取り繕われた表側でしかないのかもしれないが。


なんにせよ、一気に緊張を走らせるベルは、アズールと対峙した時と同じ威圧感を受けながら、声を絞り出す。


「お前、は……?」

「俺のことを知ったってどうにもなんねぇだろ。

察しの通り、吸血鬼だよ。それだけわかってりゃ十分だ。

そんなことより、お前らでいいのか? アズールが言ってた、賊ってのは」


答えは得られず、くすんだ瞳に射抜かれる。

それは、全身を縛られるような感覚を覚える一瞥で。

堪らず膝をつくベルは、魔導書に伸ばしていた手を、地面に落としていた。


圧力と、立場。2つの意味で、ベルは問いに答えられない。

代わりに答えるのは、神秘の威圧を受けてなお鎧を輝かせているシャノンだ。


「彼女と戦ったのは、僕じゃない。けれど、賊かと問われたのなら、答えはイエスかな。カーボン・ブラッドリー」


淀みない返答は、まさに男――カーボンが望んだ通りのものである。しかし、人である以上、それは家畜か賊だ。

実際にどちらなのかは、大して重要ではない。彼は静かに舌打ちをすると、声の通り不機嫌そうにつぶやく。


「なんだ、知ってたんならなおさら聞く必要なかっただろ」

「知っていたのは僕だからね。

彼を責めるのはお門違いだよ」


シャノンは静かに返すと、シ柔らかな表情のまま剣を抜く。

銀色に煌めく剣は、この街を包む赤を払拭するかのようだ。


「ふん。まぁどっちでもいいさ。

どうあれ侵入者なら、今度こそ俺が始末するだけだ」

「心を強く持つんだ、ベルくん。

神秘の圧力には、己の神秘……もしくは魔力で立ち向かうしかない。敵ではなく、自分自身が世界を押し付けてやるくらいの気概で、弾き飛ばすんだ」


自らの腕を引き裂き、血から黒い双剣を創り出すカーボンを前に、シャノンはうずくまるベルに助言をする。

キッと前を向いた彼が、どうにか立ち上がった瞬間。

鈍色と銀色の剣は、街中で鮮烈に激突した。




~~~~~~~~~~




「あ、いたいた」


澄んだ音が街に響く中、ブライヤは他よりも暗く人気のない街の片隅にやってきていた。


大規模な吸血でもあったのか、建物の壁は真っ赤で地面にも血溜まりが無数にできている。

はっきり言って、人がいられる空間ではない。


だが、彼女の視線の先には、背中が赤く染まるのも構わず壁に寄りかかり、満身創痍で座り込んでいる浅黒い男がいた。

一連の出来事すべての元凶である、盗賊王――アリババ・アデルバッドだ。


「ハハッ……なぁんでお前にだけは、こう何度も見つかっちまうのかねぇ……」


左腕は干からび、右足も黄金に変えられている彼は、少女の姿を見て弱々しく笑う。今にも死にそうではあるが、一応は命を繋いでいるらしい。


「理由はないわ。ただの勘」

「ハッ、敵にいなくてよかったぜ、そんな超感覚持ち」

「……女王様は、普通に気付いてると思うけど」

「どうだか」


目立つ負傷は手足の変質だが、全身が赤いからわかりにくいだけで、それ以外にもダメージはあるようだ。

目を閉じて空を仰ぐアリババは、血と一緒に吐き捨てる。


「まぁ、そんなことはどうでもいいの。

お話をしましょう? 最初の侵入者さん」


そんな彼にも、ブライヤはお構い無しだった。わざわざ危険人物と接触して、一体何をしようとしているのか。

いつになく綺麗な立ち振る舞いで、少女はアリババを見つめている。


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