表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/76

12-錬金術師は歩み出す

この街に巣食う吸血鬼――女王スカーレット・ヴァン・ルージュとその配下の情報共有が終われば、すぐに行動開始だ。

彼らは2チームに分れると、それぞれアリババの捜索と拠点の管理を担い、動き出す。


チームの内訳は、前者がベルとシャノン、後者がクーリエとフレイである。残る1人――眠っているシスイは、どうせ死なないので放置されていた。




「……さて、いよいよ本格的にそうさくを始める訳だけど。

あんたらって、もう手がかりとか見つけてんの?」


再び街に出たベルは、こわごわと路地から顔を出し、通りを警戒しつつ問いかける。返事をするシャノンは恐怖がないのか、隣に堂々と立っていた。


「残念ながら、まだ1つも。潜むので精一杯だったよ。

彼女たちと合流できたのは、本当に運が良かった」


外は相変わらず血みどろだが、彼の周囲だけはやけに輝いて見える。しかし、セリフは真逆で落胆してしまうものだ。


軽く肩をすくめながら、爽やかな笑顔とは裏腹に何の価値もない言葉を紡ぐ。状況に差はない。彼らは共に、何とか生き延び、運良く集まれただけの人たちだった。


とはいえ、直接の価値はなくとも意味はある。

ベルはわずかな情報を抽出すると、自分自身に照らし合わせて話を動かす。


「……ひそむの。ひそむと言えば、シャノンたちはどうやって無事に入り込んだんだ? オレたち……オレは入ったらすぐに気絶したし、アズールのしゅうげきも受けたぞ」


通りには、どうやら吸血鬼はいないらしい。

行き交う人々も彼らを気にしておらず、ベルは少しだけ警戒を緩めて表に出た。応じて歩き出すシャノンは、ニコッと笑いながら返事をしている。


「クーリエさんたちは知らないけど、僕は外気を遮断してたからね。運良く血は抜かれなかったんだ」

「外気をしゃ断……? 息は……?」

「錬成した」

「錬、成……?」


当たり前のようにしれっと言っているが、普通に考えて誰でもできるようなことではない。 

ベルは地味にすごい侵入方法に驚き、聞き覚えのない言葉に首を傾げていた。


しかし、シャノンとしてはすぐに納得されるとでも思っていたのだろう。彼の方がなぜか不思議そうにしながら、やはりサラッと言い放つ。


「言ってなかったっけ。僕は魔術師――特に錬金術を得意としている、錬金術師なんだ」

「錬金術師!? へぇ、初めて会った!」


シエルとはまた違ったタイプの魔術師に、ベルは目を輝かせる。周囲に意識を向けつつも、すっかり普通に街を歩いているため、一見ただの観光客のようだ。もっとも、こんな街に観光客が来るのであれば……だが。


「うん、そうだろうね。さっきの反応的に。

じゃあ、錬金術もよくわからないかな」

「師匠には、混ぜ合わせる魔術ってだけ聞いてる」


ベルの返事を聞くと、シャノンはやや目を細めて考える素振りを見せる。


「ほぅ。まぁ間違ってはないけど……正直なところ、素材は必ずしも重要じゃないんだ。錬金術しかないのならともかく、世界には無から有を生む魔術が溢れてる。

原子だなんだと言ったって、なら魔術はどこから炎なりを出してるんだって話だしね」

「原子……聞いたことあるような、ないような」

「本質としては、何かを代価に何かを生み出す、と言った方が近い。言ってしまえば、ものを作り替える魔術かな。

0からものを生み出す訳ではない分、難易度は少し低いはずだよ。砕くだけ、なんてお手軽さではないけどね」

「ものを、作り替える魔術っ!」


錬金術の教えを受けて、ベルは目をキラキラと輝かせる。

表情は一気に興奮の色に染まり、前のめりになっていた。

あまりにも強い食いつきに、シャノンは若干引き気味だ。


「君、すごいワクワクするじゃん。んー……色々教えてあげてもいいけど、たしかお師匠さんが慎重なんだろう?

あまり時間もないし、機会があれば少しだけ……だねぇ」

「えぇー……」

「大丈夫大丈夫、どうせ近いうちに嫌でも見ることになるんだから。実際に体験するのが1番身になるよ。

なんなら、自分で使ってみる?」


思わず落胆し、肩を落とすベルだったが、慰めの言葉は予想外のものだった。まったく学んでいないのに、どんなものかすら知らなかったのに、自分で使ってみる。

衝撃的な発言に、彼は目を丸くして飛び上がってしまう。


「エ゛!? 使えんの!?」


一応は、侵入者。一応は、盗賊王の捜索中。

決して余裕はないはずなのに、なんとも呑気なことだ。

仲良く話する姿は、とても危険地帯にいるとは思えない。




~~~~~~~~~~




「さてさて、侵入者ちゃんはどこかな?」


一方その頃。家畜たちの嘆願を聞いたスーツ姿の吸血鬼――クレアは、ベルたち侵入者を探して戦跡地に来ていた。


もちろん、彼らはとっくにこの場を離れているため、ここに怪しい者は誰もいない。しかし、彼らは派手に暴れたので、痕跡自体はいくらでもある。


アズールの鎌が切り裂いた跡、火事だと訴えられたのに何も燃えていない事実、何者かが作った銃弾痕、火がないのに撒かれた水。敵を知るには十分すぎるほどだ。


「アハッ、材料がたくさんあるね。ふーむ、何を創ろうか」


華麗なステップを踏む彼女は、軽やかに現場を観察し、妖艶に微笑む。手に握られているのは、どこからか取り出した――いや、おそらくは創り出したであろうステッキ。


クレアはそれをコンコンと定期的に打ち鳴らしながら、現場に散らばる痕跡を分析する。


「痕跡はアズールちゃんのものばかりだけど……

気をつけてみれば、明らかにそうじゃないものもある。

弾丸は言うまでもないとして、水と報告にしかない炎。

神秘の強さから言って、同一人物じゃないね。

敵は最低2人……多分3人かな」


神秘とは、自然のものであるが故に人の暮らす場では不自然だ。目を凝らすとよく目立つ痕跡を、クレアは黄金色の瞳を輝かせて的確に捉える。


戦闘があった以上、それを隠すことなどできはしない。

いや、もしかすると彼女なら、この場にいただけでも残滓を嗅ぎ取っている可能性がある。


微妙な差すら感じ取る彼女は、家畜――住民の前で見せた姿からは想像できないほどに鋭利な雰囲気で。

立ち振る舞いは優雅なのに、まるで猟犬のようだった。


「壁に鎌以外の破壊痕……あれが炎の方なら、戦闘スタイルは移動しながら陣を描く外部構築タイプの魔術師か、身体強化を組み合わせた魔法戦士。はたまた、補助に魔術を使う戦士か、補助に別の魔術を使う魔術師か……フフ、なるほど。

複数魔術の使い手かな? 痕跡の質が違う気がするね」


笑みを湛えて目を細めるクレアは、小首を傾げながら推測を立てる。確定ではないにしろ、確信はしているようだ。

実際、推測はベルのスタイルに限りなく近い。


「となると、銃の使い手は別人。やっぱり3人のようだね」


敵の概要と人数を把握したら、追跡は次の段階に入る。

すなわち、より詳細な敵の理解だ。

キュッ……と、頭上のシルクハットをわずかにずらしたクレアは、一瞬のうちに目を覆ったゴーグルで現場を見回す。


「フフ、人によっては不格好になるゴーグルも、イケメンの私ならカッコいい。さぁ、時短だ。

見通せエレメントアイ!」


奇怪なレンズを通した瞳は、一定の輝き、リズムで動く光を受けて黄金に輝く。細まる瞳孔は先ほどよりも細部まで痕跡を捉え、実際に見ているかのような情報を引き出していた。


「魔導書かルーンの少年。背は高くない。バタバタと慌しい感じからして未熟。武闘派の和人。とても美しい……じゃなくて、すらりと長い。うん。上背ある分筋力も良し?

立ち回り的に、何か武器を使いそうだけど……痕跡なし。

一度ミイラにでもなったかな? それでも抜かなかったとこから見るに、事情がありそうだね。

最後は……ふむ、乱入者? これがガンマンか。

腕も経験も程々ってところだね。ただ、妙な弾丸を使う。

ナニコレ? 重力? 実際に見てみないことにはわからないけど、人間の創意工夫は面白いね。あと綺麗だ」


ゴーグルを通した瞳は、かすかな足跡やへこみ、消えかけている神秘の残滓すらも見逃さない。区別し分類し解析し、ベルたちのすべてを知ってしまう。さらには……


「では、これらの情報を元に再現するとしよう。

"ソウルアルケミスト"」


カァン……!! とステッキを打ち鳴らしたかと思えば、周囲は神秘的な光に包まれる。時折叩いていた箇所は繋がり、一帯は巨大な錬金陣の支配下だ。




~~~~~~~~~~




敵は迫れど、今はまだ遠く。

ベルの叫び声は届かず、彼らは和やかに会話を続けている。


「錬金術や黒魔術なんかは、魔法陣と同じ系統だ。つまり、あらかじめ陣を描ける。まぁ、事前準備が不可能な魔術なんて、基礎魔術くらいなもんだけど……」


苦笑し、肩をすくめてみせるシャノンだが、使えるのならばそんなことはどうでもいい。舞い上がっているベルは、飛びつかんばかりの勢いではしゃいでいた。


「じゃあ、その陣をくれるってことか? 使い捨て?」

「いやぁ、申し訳ないけどルーンほど手軽じゃないんだ。

起こす事象が違うし、そういう風に体系化されてもないからね……なんだ、作っといて砕くって。錬金陣の場合は、道具に刻んで魔道具にするか、体に刻んでしまうかになるかな。

事前準備で描くものだと、そのうち消えてしまうから」

「か、体……?」

「道具だとなくすかもしれないだろう?

そういう選択肢もあるって話さ。僕はどちらでもいい」


気後れした様子を気に止めず、シャノンはこともなげに言い放つ。


学んでいない魔術を使うためとはいえ。回復魔術の存在から、不可逆ではないと予想できるとはいえ。

体に刻むなど、普通に生きているとそうそうない。


思ったよりも大変な方法に、ベルも流石に興奮が落ち着いていた。気勢をそがれ、たじろいでいる。


「おすすめは……?」

「魔道具なら使いにくい時、使わなくなった時に売れる。

魔術刻印ならなくす心配がない。もし必要なくなった時は、実力のある魔術師に頼んで取ってもらえるよ。

その時点で錬金陣が駄目になるから、売れないけどね。

長所短所なんて何にでもあるものさ。だからこそ、どっちにするかは自分で決めないと。体に描くのは、割と重い選択だから責任は取れない。もちろん、失敗する可能性があるってことじゃないよ。責任っていうのは、取りたければ取れるとはいえ、自分自身に刻むことについての話ね」

「むぅ……」


道具に刻む方法か、体に刻む方法か。

生存率に直結する選択に、ベルは頭を悩ませる。




~~~~~~~~~~




ベルたちの声は届かずとも、痕跡はいくらでもある。

追跡者がクレアともなれば、もはや微かな残滓から自ら創り出せるほどだ。


侵入者のほぼすべてを知った彼女は、ステッキを回しながら赤黒く暗い道を進んでいく。


「シスイちゃんにフレイちゃんに、ついでにベルくんね。

フフ、推測通り綺麗な子たちだったな。早く食べたいよ」


戦跡地から少し離れれば、警戒は緩んで足跡も見つけやすくなる。獲物はもうすぐそこだ。




~~~~~~~~~~




「うーん、決めらんねー。もう少し考えてもいい?」


なまじアズールを退けられたからか、ベルたちは話に夢中だ。どちらの方法でもらうのか、すぐに決められもせずに、ダラダラとアリババ捜索を続けている。


「別にいいけど、刻むには多少時間がいるよ。

早めに決めないと、戦いに間に合わないかな」

「えぇ……!? マジかよ」


捜索と、選択。既にどちらも中途半端だが、2つのことに手一杯で警戒は薄れゆく。




~~~~~~~~~~




「フフ、ここが彼女たちの拠点かな?

よく潜めたものだね」


誰に咎められることもなく、一度も迷うことはなく。

クレアはすべてを知っているかのような確信を持って、何の変哲もない家の前にやってくる。


窓に人影はなく、ここからでは中の様子はわからない。

だが、中の者が警戒している様子はなく、むしろ緩みきっている気配がした。




~~~~~~~~~~




「そういえば、クーリエたちって大丈夫かな?」


考え込んでいたベルは、その思考から逃れるように別の疑問を見つける。紙に錬金陣を試し書きし、刻み付ける準備をしていたシャノンは、ワンテンポ遅れてから聞き返した。


「クーリエさん?」

「今さらだけど、シャノンはこっち来ちまってるし、シスイは寝てるし。別にフレイを疑う訳じゃないけど、オレと一緒にアズールにやられかけてたからさ。

今おそわれたらヤバいんじゃねーかなって」


チーム分けの段階で、気づくべきことではある。

元より戦力不足であり、危険を回避するなら捜索どころではなくなるが、それでも。


これ以上の戦力低下を防ぐために、まずは今ある安全を維持するという選択肢もあった。切羽詰まって考えが及ばなかったとしても、彼らは前進を選んだのだ。


「あぁ、その話ね。たしかに、敵が幹部級の吸血鬼たちなら僕でも勝つのは難しいくらいだ。1人だと、フレイさんでは太刀打ちできないだろう」


難しい表情で紡がれるシャノンの言葉に、ベルは表情を曇らせる。彼ら自身も幹部を相手にできないのだから、結局のところ、どのチームにいようが危険だ。


しかし、だからといって他の仲間を心配しない理由にはならない。拠点を失う怖さを、覆せる訳ではない。

常に赤い空は、より暗さを増しているようだった。




~~~~~~~~~~




拠点には鍵がかかっているが、クレアには意味がない。

スーツの袖から伸びた黄金が鍵穴に入ると、ものの数秒で鍵は開けられてしまう。


ドアは音もなく開き、いくつもの商品が並べられている部屋へ吸血鬼を招き入れていた。


「ふーん、ここがクーリエちゃんの商会か。

面白い商品がたくさんあるね。それから……」


室内に入ったクレアは、軽く部屋を見回してから視線をある一点に向ける。嬉しそうな顔で、弾むような声で。

弱々しく無力な存在に、どこか恍惚とした熱い眼差しを――




~~~~~~~~~~




「でも、多分大丈夫じゃないかな?」


相方を励ますためか、気を紛らわせるためか。

シャノンは厳しい表情を隠すと、努めて明るく言い放つ。


それが希望的観測にすぎないのは、彼自身が一番よく知っている。だが、今は自分たちのことで手一杯だから。

前向きでいないと足が止まってしまうから。


なによりも、クーリエという大商人を信じているから。

彼はある種の確信を持って、仲間への期待を口にする。




~~~~~~~~~




『彼女たちはきっと、もういないから』


クレアが伸ばした手は、眠るシスイには届かない。

いや、直前まで眠っていたはずのシスイには、届かない。


彼女たち以外誰もいない、暗い部屋の中で。

手を跳ね退けられたクレアの前には、意識がなくとも魔の手を防ぐ神秘的な侍の姿があった。


「ふぁ……拠点ですらおちおち寝ていられないとはね。

いつの間にかみんないないし……まぁ、それはともかく。

おはよう、とても強そうな魔王種さん」

「フフ、まさか寝ていて防がれるとは思わなかったよ!

面白い。君がシスイでいいんだよね?」


吸血鬼を崇める人々にも、彼女を心配する仲間にも。

誰の意識にも届かない街の片隅で、人知れず2人は激突する。カルミンブルク第2戦。シスイVSクレア、開幕だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ