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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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10-さぁ、商談をしましょう

「まぁ、あの方の是非なんてどうでもいいわ」

「おい」


意味深な忠告をしたくせに、無沈着に吐き捨てるクーリエ。

あまりの言い草に、ベルは堪らず抗議の声を上げている。


しかし、価値がないと断じた話題をダラダラと続けて、何が大商人か。今必要なのは生き残るための策だ。彼女は文句も鮮やかに無視すると、テキパキと話を進めていった。


「そんなことより協力の内容よ」

「協力の内容?」

「何に、どれだけのリソースを、どちらが出すのか。

命懸けなんだから、ちゃんと決めないとでしょ?」

「命がけだからこそ、その時その時に全力を注げばよくないか? 出せるやつが、出せるだけ。そうじゃなきゃ、いざという時決めた以上に動けねぇだろ」


またも間髪入れずに意見を述べるベルは、首を傾げて本気で不思議そうだ。フレイが片付けた部屋の中、再びデスクの前に戻ったクーリエは、パラパラと書類をめくっていた手を止める。


「……なるほど、それもそうね。

旅人目線の、戦う人の意見をありがとう」


さっきもそうだったが、クーリエは我の強さからは考えられないほど人の意見を聞き入れる。

流石は大商人といったところで、明らかに素人の子どもが相手でも、専門外だとも認めて納得していた。


とはいえ、それでも実際、気は強いのだ。

書類をササッとまとめると、キッと顔を上げてもう1人の協力相手に詰め寄っていく。


「ところでシャノン。あなた、私の提案を否定しなかったわね。どういうつもり?」

「おっと、ここで僕が出てくるのか」

「当たり前よ。最善ではない選択をして格上に挑むなんて、どういうつもり? 死にたいの?」


大商人の威圧を受けても、シャノンは変わらず穏やかだ。

軽く手を上げ、驚いたように目を丸くしてはいるが、冗談っぽく笑っている。その軽薄な態度に、クーリエはさらに刺々しくなっていた。


だが、それでも彼は自分のペースを崩さない。

かなりの自信があるのか、ブレずに釈明していく。

爽やかながら、クーリエに負けず劣らずの我の強さだ。


「いや、どうせ戦闘はだいたい僕になるだろうし、別にわざわざ口論しなくてもいいかなって」

「何その自己犠牲。

流石はアルゲンギルドの名高い"蒼銀"様ね」

「あはは、褒められてる気がしないなぁ」

「褒めてないもの。ところで、話し合いを避けるってことは、私のことを面倒くさいやつだって思ってるってこと?」

「あはは……脅されている気がするー……」


ベルが交互に目を向ける中、2人は声を荒げないながらもハラハラするやりとりを続ける。険悪になりかねない鋭い言葉は、凪いでいたシャノンの表情を波立たせ、目を逸らさせていた。


それを見れば、答えはもう出たようなものだ。

結果に満足したクーリエは、すぐに興味を失ってソワソワしているベルに向き合う。


「まぁ、こんな優男のことはいいわ」

「いいのか……?」

「今は協力体制についてよ。あなたは全力で戦うってことでいいのよね? すごく曖昧だけど」

「あぁ、それでいいよ」

「こちらも、場合によってはそうするわ。フレイが」


いっそ清々しいほどの断言に、ベルは思わず苦笑する。

自己紹介通りならば、彼女には多少の武力はあるらしい。

自分の自己紹介での発言なのだから、まさか護衛のことではないだろう。


クーリエには、少なくとも吸血鬼から身を守れる程度の戦闘能力はあるのだ。それなのに、しれっと人任せにしてしまう商人の、なんと面の皮の厚いことか。


丸投げされたフレイは『ぼくだけ!?』と叫ぶが、クーリエは完全に無視していた。


「あと、もちろん本業でもサポートできる。全商品を無料で提供する……というのは、商品を根こそぎアリババに盗まれた都合上厳しいけれど、大幅値引きで提供するわ。値引き割合は要相談ってところね。あなた、いくら持っている?」


まるで、戦闘でも協力しているかのような言い草だが、逆にフレイはここに関与しない。陣営としては、やはりどちらにも手を貸していると言って差し支えないだろう。


本業らしく、スラスラと言葉を紡ぐクーリエの前で、しかしベルは困ったような表情を浮かべていた。


「いくらって、何を?」

「何をって……お金に決まってるでしょ?」


商人である以上、お金なんて何をするにも真っ先に頭に浮かんでくる言葉だ。問い返されたクーリエは、相手が困っていることに気が付けずにいる。


その淀みのない言葉に、ベルは落ち着きのない瞳で途切れ途切れにつぶやく。


「……お、金」


商売の話になった途端、まともな返事ができていないベルだ。ここまで来ると、ようやくクーリエも異変に気がつく。数秒『まさか……』といった様子で考え込んでから、恐る恐る問いかける。


「もしかして、持ってないの?」

「持って、ない。村では必要なくて、見たこともない」

「見たことも……知ってはいるの?」

「……物語とかでなら?」


言いづらそうにしながらも、正直に答えるベル。

思いも寄らぬ白状に、クーリエは沈痛な面持ちになって目元を押さえていた。


「……あー。面倒だから教えとくわ。

この時代の通貨はノイド。覚えときなさい」

「……ノイド?」

「そう、ノイド。変な単位だって思った?」


首を傾げながらベルが聞き返すと、クーリエは予想していたのかほとんど間を開けずに頷き、さらに問う。


『本当に……?』と信じられない様子だったが、どうやら聞き間違いではないらしい。少しふわふわと視線を動かした後、軽く息を吐いて話を進める。


「まぁ、思ったよ。うん。思うだろこれは」

「そうね。だから私もすぐ聞いた」


既に立ち直っているクーリエは、引き出しから1枚のコインを取り出すと指で弾く。それは綺麗な弧を描くと、慌てて広げられたベルの手の中に吸い込まれていった。


「例え単位が変わろうと、お金の在り方は変わらない。

価値を代替し、持ち運ばれ、世界をつなぐ。

細かなとこは省くけど、1000ノイド以上が紙幣よ」

「はぁ……」


仕方なしに硬化を眺めるベルは、そういうことじゃないんだけどな……といった表情だ。とはいえ、クーリエだってそんなことはもちろんわかっている。彼の表情を見てクスッと笑うと、強い意志の滲む表情になって言葉を紡ぐ。


「わかってるわ。わざわざ確認したんだもの。説明する。

由来の1つはヒューマノイド。私たち人類は、全員ではないにしろ、この世界で家畜として存続している。

けれど、そんなこと認められない。私たちは、どれだけ魔王に劣ったモノでも、不完全な文明に落ちても、人間なの。

もはや、人のようなものでしかなくても、人間なの。

その願いに我々は価値を見る。だから、ノイド。

……商いとは、人が生み出した社会の道。

商人とは、力ではなく心で人であることを望む職」


商人のくせに説明が足りなかったり、思わぬ情報に倒れ込んだりと威厳のない姿も見せていたが……

それでも、やはりクーリエは大商人だということだろう。


滔々と語る言葉には、人の歩みがひしひしと感じられる重みがある。その手の先には、朧に輝く魔法陣。


いつの間にか描かれていた神秘の軌跡により、部屋には人の辿ってきた足跡らしきものが映し出されていた。


「人であることを、証明する通貨……すごいな。

1つはってことは、他にも由来があるんだろ? なんだ?」

「もう1つの由来については、ムカつくから言わない」

「はぁ?」


直前のオーラはどこへやら。続けて問われた質問に、彼女はふてくされた様子でそっぽを向いていた。


学生であるシエルと同じくらい若く、服装もショートパンツと活発な可愛らしさがあるクーリエだ。大人げない、というのは違うかもしれないが……


大商人として、世界を旅する立場からすると、やはり大人げない。予想外の反応に、ベルは呆れ返っている。


こんな時、フォローするのはもちろんフレイだ。

苦笑している彼女は、様子を覗いつつも臆さずはっきりと口に出す。


「あー……もう1つの由来はね、人自身が魔物に対しての一番の通貨という皮肉めいたものなんだ。この子、嫌がるけど」

「私たちは家畜じゃない、人なのよ!!」

「なるほどなぁ」


途端にキレるクーリエに、ベルも笑うしかない。

真っ当に考えれば、人と腹芸をする油断ならない大商人。

しかしその正体は、類まれなる能力があるだけの、少し気が強い少女だった。


面倒なのでお金は円と同じ感じで書いてます

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