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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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8-価値のある話・前編

「……」

「えーっとぉ……」


眉をひそめているクーリエと思しき少女は、怪訝な顔をした後、3人が家に入ってからも一言も喋らない。

『は?』という不機嫌そうな言葉による圧を、取り消すことなく高め続けていた。


視線はベルたちにも多少向けられるが、主に睨まれているのは仲間のフレイだ。意気揚々と扉を開けていた彼女は、圧を一身に受けたことですっかり萎縮している。


友人でもある様子だったのに……いや、友人でもあるからこそか。ダラダラと冷や汗を流し、焦り顔だった。


何度かベルたちに助けを求められるも、初対面でできることなどない。クーリエと話していた騎士風の青年も、親しい訳ではないのか、ただただ困惑を強めている。


「や、クー。また新しい仲間を見つけてきたよ」


根比べに勝ったのは、立場が示す通りクーリエだ。

フレイはやがて観念すると、にへらーっと笑って口を開く。


サラサラと揺れる髪も相まって、つい許してしまいたくなるくらいに美しい。だが、強情な商人の心がその程度で崩せるものか。クーリエは一切表情を緩めることなく、強い口調でズバッと言い放つ。


「何が新しい仲間よ。好き勝手言ってくれちゃって」

「好き勝手って……臨時商会ってやつ? だめなの?」

「ここが商会? 寝言は寝てから言ってくれるかしら。

生憎、私はこんな血なまぐさいとこで商売するつもりはないの。家畜であることを受け入れた人に、売ってやるものなんか1っつもないわ!」


どうやらクーリエは、いきなり人を連れてきたことよりも、フレイの発言自体に怒っているらしい。商人であることにかなりの誇りを持っているようで、さらに声を荒げている。


2人はある程度の付き合いがあるはずだが、だからといって相手のすべてを知っているはずもない。

誇り、信念、生き方などの話であれば尚更だ。


ここまで具体的に言われても、フレイはいまいちピンときていない様子で、クーリエをたしなめようとしていた。


「ま、まぁまぁ。気に触ったなら謝るから。

とにかく今は、新しい仲間を紹介させてよ。

こういう街だと、すごく頼りになる人だよ」

「なんか今、ナチュラルにオレを省かなかったか?」

「うぇっ!? あ、あはは〜」

「省いたんだな」

「……ごめん」


焦りからか、フレイは細かな失敗を繰り返す。

ベルに指摘された彼女は目を泳がせた後、すぐさま観念して謝っていた。


とはいえ、彼も疑問に思ったから聞いたにすぎない。

本気で怒っている訳ではないため、緊迫した空気にはいい緩衝材だ。


気の抜けるやり取りのお陰で、室内の空気はわずかに緩む。

客と思しき青年も苦笑し、話しやすい雰囲気になっていた。


しかし、依然としてクーリエが不機嫌なのは変わらない。

厳しい表情のまま、話の流れからベル本人に水を向ける。


「それで、あなたは?」

「オレはベル。仲間の大切な物をアリババに盗まれて、この街に来たんだ。そんでこっちは‥」

「彼女のことはいいわ。名前は知ってるし、目的もどうせ同じでしょ? この場にいる人は、みーんなアリババに何かを盗まれた。立場と価値と、何を提供できるかを答えて」

「オレが?」

「あなたが」


話を遮られたベルは、細かな要求に目を丸くする。

旅の中でも他の集落に行く機会は少なく、今まで必要としてこなかったやり方なのだから当たり前だ。


田舎の村ではカッチリする必要などないし、旅を始めてからも仲間はあのリチャードである。


仲間になるにあたっての契約などあるはずもない。

代わりにまとめ役をしているシエルも、わざわざそんなことはしなかった。


強いて言えば、悪夢の中で王命を受けた時くらいだろうか。

とはいえ、あれもリチャードのマネに過ぎないため、身についていないだろう。


厳格なコミュニケーションに慣れていないベルは、さらっと返されてもポカーンとしてしまっていた。

すぐに理解したらしいクーリエは、呆れた様子で息を吐くと、淡々とお手本を見せてくれる。


「例えば私は、クーリエ・グラスター。世界を旅する商人で、見ての通り大量の物資を持っているわ。

提供できるのは、武器でも食料でも情報でも、商売に使えるものすべて。それから、ギルド未所属で旅をしているから、多少の武力もある。仮に荒事になったとしても、足手まといにはならないと約束するわ。

場合によっては援護もできるかもね」

「……はぁ」

「はぁじゃないわよ。あなたはどうなの?」


ツラツラと早口で語られる必要情報に曖昧な相槌を打つと、彼女はピシャリと切り返す。だが、どうも何も、ベルは畳み掛けてきた情報の整理中だ。


仕方ないので返事をしつつも、どこか心ここにあらずだった。フレイが『ぼくはフレイ・アベットだよ、よろしく!』と言っているのも、おそらく耳に入っていない。


「うーん、立場なぁ……ところで、お兄さんは誰?

フレイと同じであんたの仲間なのか?」


急かされそうになって話をそらすと、なぜかクーリエと一緒にいた騎士風の青年は、おや……眉を動かす。

しかしタイミングを伺っていたらしく、特に驚きはせずに爽やかな笑みを浮かべた。


「僕はシャノン・アマルガム。付近にあるアルゲンギルドの魔術師だよ。彼女とはこの街で出会ってね。

アリババを見つけるため、協力関係を結んでる。

ここでは臨時の護衛になるのかな。戦闘は得意だよ」

「ギルドカードを盗まれたらしいわ。間抜けよね」

「あはは……それは言わないでくれるとありがたいな」


無表情で刺すクーリエに、青年――シャノンは力なく苦笑する。彼の言葉には温もりがあり、不思議とホッとできた。


内容も、一言で言ってしまえば『ギルドの戦闘職だから強いよ』だ。多くの面を持たないからこその簡潔さで、実に理解しやすい。いい間をもらったベルは、ありがたくその時間を使って要求に答えていく。


「なるほど。だけど、オレには名乗れる職業とかはないな。

強いて言えば旅人? 誰かを助けられる人になるため、旅をしてる。正直、大した価値もないんじゃねーかな。

できることと言えば、囮になることくらい?

……もしかして、協力できない?」

「バッカじゃないの?」


既に協力関係にある2人が、どちらも明確な立場や価値を示したことで不安になったのだろう。ゆっくりと話すベルは、どうにも自信なさげだ。


自己紹介の途中から眉をひそめていたクーリエは、最後に付け足された質問を聞いて、とうとう爆発する。

罵倒に思わずギョッとした彼に、険しい目線を向けて言葉を続けた。


「道端の雑草だって、場合によっては価値を持つのよ?

価値があるかどうかは、自分で決めることじゃないわ。

周りにいる誰かと、状況が決めるの」


こういったやり取りは、いつも通りのことなのだろう。

険悪な雰囲気になっていても、フレイは『仕方ないなぁ』と笑っている。新顔のシャノンですら、早くも慣れた様子で目を閉じ、聞き流していた。


「価値を答えろって言ったのお前じゃん……」

「自分から見た自分の価値って、自信のことよ。

そんなの、初対面の他人が判断なんてできないでしょ?

だからみんな、まずは自分が認識している価値を示す。

当然じゃない」


理屈は通っている。ただ、少しだけ彼女独自の表現で、その説明が足らなかっただけだ。


最終的にこうして説明した以上、特に問題にはならない。

もし問題があるとすれば、多くの他者と取引をする商人が、これでいいのかという部分だけで……


「なぁ、こいつ本当に商人なの……?」

「もちろん。ちょっと我が強いけど、その分内容ははっきりしてるし質もいいからね。信頼されてるよ」


堪えきれなかったベルはヒソヒソと問いかけ、フレイは苦笑しつつ保証することとなった。


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― 新着の感想 ―
この度は旧ツイッターにて応募ありがとうございます。 最新話まで読ませて頂きました。 遅くなってしまい大変申し訳ありません。 設定が一般的とは違って拘りを感じました。 そして主人公のベルの勢いもさながら…
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