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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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3-あなたの顔は、抜け殻みたいに青白い

現れた少女は、無言のままベル達を見やる。

その顔は人形のように美しく、感情がない。

瞳にも何一つ熱を灯さず、着ている暗い青のドレス同様に、冷めた雰囲気を纏っていた。


(目が、離せない……さっきまで、見えなかったのに)


刃先から破片が落ちていることを除いても、間違いなくあの大鎌が、たった今首を落とそうとしていた凶器だ。

危険極まりなく、慣れている様子の街の人々を除けば、誰が見ても逃げるか身構えるかするべき状況だろう。


それなのに、無意識につばを飲み込むベルは、倒れてろくに動けない体勢のまま少女を見つめ続けていた。


死者のように青白い顔が、死を纏ったような重苦しい雰囲気が、何故か彼を惹きつける。息も忘れて魅入ってしまう程の不思議な魅力が、少女にはあった。


「……あなたの顔は、抜け殻みたいに青白い」

「息をしてベルくん!!」

「っ、はぁ……はぁ……!!」


鋭く叱咤されたことで、ベルはようやく呼吸していなかった事実に気が付いたらしい。彼はギョッとした様子で体を起こし、肩を上下させていた。


その一瞬のうちに、先ほどの少女は姿を消す。

思わず視線がブレたシスイも、1秒だって目を離していないのだが、意識から逸れた隙に影も形もない。


スカートの裾どころか、大鎌の反射光すら残さずに、少女はベルの隣に立っている。


「……え?」


体感、無音・無影で接近されたのだから、ベルが反応できる訳がない。彼は遅れて気が付くと、間抜けな声だけ漏らして硬直していた。


この間、わずか数秒。血色が戻る間などあろうものか。

むしろより顔を青くしながら、ベルは無理やり立たされる。


形状を生かし、首の四方を囲む大鎌は、生を望む血を脅すように先端で頬を撫でていた。


「うぐっ!?」

「……そこで止めるということは、脅しに切り替えた、ということかな? 何が望みだい?」


ゆらりと姿勢を正すと、シスイは静かに問う。

この状況でも落ち着いており、パンパンっと土埃を払う余裕すら見せていた。


イカれた言動をする彼女だが、見た目だけならクールだ。

不気味な少女との間でも、対等な雰囲気を醸し出してこの場を支配する緊迫感に一役買っている。


人質に加えて、肌を刺すように冷徹な空気。

心の準備もなしに両方に見舞われ、ベルが冷や汗をかいている中、少女だけは完全な澄まし顔だ。


「あなたは、ずいぶん手強いのね」

「そう見える? 僕はただの放浪者なんだけどね」

「ただの放浪者が、アズールの鎌を防げる訳がないと思うの。あなたは強い。だから、大人しく死んで欲しい」

「その子の命が惜しければ抵抗するなってことかな?」

「強いあなたの血は、どんな味なのかしら」


無言の肯定をした少女――アズールは、自分の前に立たせているベルを胸で押し、歩かせる。

鎌を持つ右手は彼の命を握っているが、左手はシスイに向けて油断なく牽制していた。


もっとも、刀を持っていない現在、人質がおらずとも抗う術はほとんど残されていないのだが……

初対面のアズールにわかるはずがなく、シスイが明かすはずもない。


彼女は近付いてくる吸血鬼を見据え、なおも対等な立場だという表情で強気に笑う。


「……僕としては、別に身を挺してまでその子を守らなくてもいいんだけどな。君は、僕が大人しく身代わりになるとでも思っているのかい?」


両者の距離は、ベルを挟んでほんの1メートル程度。

両腕を広げた位しかない限られた範囲で、まったく動かないままで、戦いの火蓋は切って落とされた。


「さぁ? アズールはあなたがどうしようと興味がない。

美味しい血を飲み、集め、スカーレット様に献上するだけ」

「ふぅん。女王はスカーレットって言うんだね。

貴重な情報をありがとう、アズールくん」

「挑発は無駄。どうせあなたは、直に死ぬ」


それなりの騒動になっても、街の人は今を生きるだけだ。

空も相変わらず赤く、流血しているかのように生暖かい風が吹いていた。強い女たちに挟まれるベルは、引きつった顔で目を泳がせるしかない。


「……!!」

「……」


2人の間で、青い火花が散った。そう錯覚する光が、二組の瞳の中で走った直後。的確に相手の命を狙う一撃が繰り出される。


真意はどうあれ、無抵抗では終わらないと宣言したのだ。

もはやベルに人質の価値などない。

アズールはもちろん、シスイすらも彼を気にせず敵を殺しにかかっていた。


「どわぁぁぁっ!?」


至近距離にいて、しかも挟まれていたベルからしたら堪ったものではない。鎌を持つアズールは誰の目から見ても危険だが、シスイも武器がない分、なりふり構っていられないのだから。


彼は激突を悟った瞬間、必死の形相でその場から飛び、地面に顔面から突っ込んでいく。


「ぶへっ……っと」


殺し合いからは逃れたが、戦いの範囲などわからない。

擦り傷だらけのベルは、血を拭う間もなく身を翻し、初めて見る本格的な殺し合いを視界に入れた。


「うわ……!!」


すると、彼の目に飛び込んできたのは死の瀬戸際にいるとは思えないくらい、綺麗な光景だった。


その場からほとんど動かずに、クルクルと三日月じみた斬撃を幾度も繰り出しているアズール。

同じく、簡単な足さばきと手だけで多くの攻撃をさばき、他も上半身の動きで避けているシスイ。


どちらの力量も高いからこそ、演舞としても武術としても、さらには単に絵になる光景としても、見事なものである。


主に攻勢に出ているのはアズールだが、シスイも隙を見てはカウンターを放つので、一方的にもなっていない。鎌と拳で、彼女たちは互いに涼しい顔をして急所を狙い合う。


「あなた、剣士みたいね。剣はどうしたの?」

「何、少々調整中でね。君こそ本気じゃないみたいだけど、体調でも悪いのかい? 顔が青白いよ」


いつまでもせめぎ合いは続くが、いくら手練れ同士でも長くなれば負傷も増える。鎌は腕や腹を数回貫き、拳や脚も10回近くは細い肢体を抉っていた。決着の時は近い。


「……!! オレにできることは、ない。

でも、万が一に備えるくらいは、しとかないと」


戦闘を離れて見守るしかできないベルは、壁際に立って唇を噛みしめる。だが、傍らでは魔導書が朧げな光を放ちながら浮かんでいるし、右手にもルーン石を握りしめていた。


シスイたちの動きは見切れないとしても、危機を救うことや自衛することくらいならできるだろう。

そのほんの僅かな変化を知ってか知らずか、彼女たちの殺し合いは益々激しさを増していく。


「能力を一切使ってないようだけれど……僕は、本気を出すに値しないのかな? その割に劣勢じゃない? ふふっ」

「丸腰の侍に、言われる筋合いはないわ。

アズールはあなたに武器を与えたりしない」


下から肩辺りを大きく切り裂いたアズールは、そのまま蝶のように華麗な宙返りで距離を取る。この傷により、シスイの優勢は覆された。


「ふふ……おいし」


アズールはふわりと着地すると、今までよりしっかりと鎌に付着した血をペロリと舐め、目を細める。

どうやら、飲む手間がかかる相手な分、相当に美味しいようだ。


嬉しそうに見える彼女とは真逆で、肩を押さえるシスイは若干ふらつきながら苦々しげに吐き捨てる。


「本人の目の前で血を飲むなんて、お姉さんドン引きだよ」


回転する丸い刃の軌道は、柄を腕に引っ掛けられたり地面にバウンドしたりとで変幻自在だ。

段々と戦う範囲も広くなり、鎌はさらに多く体を穿つ。


しかし、それに負けないだけシスイの打撃もアズールに突き刺さっていた。相手が鎌しか使わない分、コピー能力も活かせないというのに、不利をものともしていない。


和服は切り裂かれてボロボロ、揺れる布地の奥から覗く肌は深くまで肉を露出させている。負傷の状態もより悪いのに、流れるような動きで鎌を逸らすと顎に強撃を……


「……なんて。ただ、使い所を選ぶ力なだけ」


重い一撃が炸裂したかに見えた瞬間、アズールは煙のように自然に上体を反らし、沈み込む。

さらには、そのまま低い体勢になると、足を断ち切るべく鎌を地面に這わせていた。


これまでしていなかったのが不思議なくらいだが、ここまで直接的に動きを奪うための一撃は初めてだ。逸らされた勢いも利用しているので、反応するだけでも難しい。


危機に備えていたベルは気付けず、シスイもギリギリで倒れ込むように凌ぐだけで精一杯だった。


「ぐっ!!」


戦闘の流れについては考慮せず、とにかく足を奪われないよう、致命傷を負わないことだけに集中した回避。

それでも、刃は肌に食い込んでいたため、切られた袴からは止めどなく血が溢れている。


たとえ立ち上がれても、先ほどまでのような立ち回りはできないだろう。既に、勝敗は喫したとすら言える状況だ。

しかし、なおもアズールは、地面に転がっているシスイへと襲いかかっていく。


「あなたの顔は、抜け殻みたいに青白い」

「それが君の詠唱かい? いいよ、受けて立とう」


青白いアズールの手は、辛うじて半身を起こしたシスイの顔を思い切り掴む。傍目ではただ、触れただけ。それだけで、シスイは激しい痙攣を起こし、カサカサになってしまう。


1秒もかからず、彼女の全身から血が抜かれていた。

動けないのなら、コピー能力など何の意味もない。

侍はミイラのような姿に変わり果て、コヒュー……コヒューと、ゾッとする音を出している。


「……!!」

「ん、おいし」


強敵シスイを処理したアズールは、すっかり彼女への興味を失っている。次の標的は、近くにいるもう1人の侵入者であるベルだ。


あまりの光景に腰を抜かし、動けずにいる弱っちい少年に、その青白い手を伸ばしていた。


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