表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
幕間-その名はアリババ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/75

8-盗賊王が挑む城

豪快にベル達を招待したアリババは、懐から小瓶を取り出し開けると、捕らえる間もなくそのまま消える。

吹き上がる風に乗って、飛んでいったようだ。


淡白に見送っていたシスイとは違い、ベルは慌てて捕まえようとしていたが……伸ばした手は空をかくばかりだった。

勢い余って倒れ込んだ彼は、憎々しげに突風を見上げながら起き上がっている。


「吸血鬼の国、ねぇ……」


例によって、ベルはそんな国は知らない。

吸血鬼なんて見たことがないし、国は2つしかないという話を、辛うじて聞いたことがあるだけだ。


しかし、ペンダントをダシに招待されてしまったからには、安易に無視するわけにもいかないだろう。


応じるにしろ拒否するにしろ、はぐれた2人の行動も含め、ちゃんと考える必要がある。場所も特徴もわからない彼は、それを判断するために話の水を向けた。


「あんたは知ってるか? シスイ」

「んー……まぁ、ね。この辺りでは有名みたいだよ。

カルミンブルク――血の女王が統べる城塞都市。曰く、()の城は人の血を吸って築き上げられた生きた城である。一度足を踏み入れれば、誰であれ彼女の目を逃れることはできない。一挙手一投足が把握され、血命を握られる。血液タンクとして、人々が徹底的に管理されている最大規模の生産区」

「なんか、ヤバそうなとこだな……」


口ぶり的に、彼女も旅人として聞きかじった程度らしいが、その割にはやたらと具体的だ。それだけ有名で、恐れられているということだろう。


生きた城と呼ばれる城塞都市で、女王の目からは逃れられず血命を握られる。実情がどうあれ、このように伝わるだけの理由はあるのだから、危険な場所であることは間違いない。


最初は何とも思ってない様子だったベルも、やや顔色を悪くしていた。とはいえ、旅に出た時点で危険など承知の上だ。

すぐに切り替えると、ポジティブに考えている。


「でも、それだけ有名な場所だったら、師匠たちと行き違いになることもなさそうだ」

「えぇ? 君行くつもりなのかい?」


ポジティブに、考えていたのだが……

どうやら、シスイには行く気がないらしい。

少なくとも、自ら進んでは。


大切な物を奪われているのだから、取り返しに行こうとなるのが普通の反応だろう。危険を理解しているとしても、多少は悔しいという気持ちが芽生えるはずだ。


それなのに、未練は欠片も感じられないし、なぜか彼女の方が『何を言っているのあなたは……?』という顔をしている。

意表を突かれたベルは、あんぐりと口を開けてあ然としていた。


「はぁ? あんた行かないつもりなのかよ。刀は?」

「いやぁ。そりゃ困るは困るけど、なければないで別に……

そのうちどっかで買えればいいかなって」

「こだわりなさすぎだろ」


おまけに、冷静にリスクを避けて……などというちゃんとした理由ではなく、単に面倒そうだから行きたくないようだ。


これにはベルも呆れるしかない。

がっくりと肩を落とし、ため息をついている。


だが、望みは得てして叶わないものだ。

彼は呆れて終わりにはせず、彼女の意思に関わらず一度だけ強制できる言葉を、強気に紡ぐ。


「でも、あんたに拒否権はないだろ。誓いを果たせなかった代わりに、埋め合わせしてくれるって言ったもんな?」

「そぅなんだよねぇ。厄介なことになったよ」

「じゃあ、手を貸してくれるんだな?」

「はいはい。無刀の侍が必要だと言うのなら、僕はでき得る限りのことをするさ。まぁ、無力だけどね」


リチャードほどではないものの、やはり物事に無断着だったシスイは、嫌がっていたとは思えないくらい簡単に承諾する。


シリアスな場面では苛立ちを生むが、こういう時は便利だ。

心強い仲間を得たベルは、自信に満ちた表情で歩き始めた。


「間違いなく、オレよりはつえーよ。何考えてるか知らねーけど……あいつの企み、ぶっ壊すぞシスイ」

「御ー意。ふふ、吸血女王のテリトリーか。

僕もそこでなら死ねるかな」

「縁起でもねぇこと言うなよ!!

ったく、こいつのどこが消極的自殺者なんだ……」

「ところで、随分と自信満々に歩き始めたけれど、カルミンブルクの場所は知ってるのかい?」

「……え」


――目的地の方角も知らずに。数分も経たず立ち止まることになったベルは、気まずそうな顔をしながら後ろの侍に先頭を譲る。


「あんた、噂とか聞いてたんだろ? 案内頼む」

「いいとも。いざ、清々しいほどの死を探して。

危険な気配を辿っていれば、いつか巡り合うよ」

「知らねーのな。了解、聞き込みしよう」


付き合いは短いはずだが、もうシスイの性格にも慣れたものだ。ベルは目元を引くつかせるも、口には出さずにさっさと方針を打ち出し歩き出す。


「ところで、神秘ってことはあんた勇者なのか?」

「バカ言わないでくれないかい? 救世の意志あってこその勇者だよ? どう見ても柄じゃないじゃないか」




~~~~~~~~~~




「くっ、まさか逃げられちゃうなんて……」


ベル達がアリババを助ける少し前。

実力では上回っていたはずなのに、終始翻弄されてしまっていたシエル達は、埃まみれの状態で川を睨んでいた。


視線の先には、もうとっくにアリババの姿はない。

何をするにしても、圧倒的に遅すぎだった。


ペンダントが手の届かない場所に行ったことで、既に冷静さを取り戻しているのだろう。水を操り、ぐちゃぐちゃだった髪や汚れた服を綺麗にした彼女は、それらを風になびかせながら、まだフリーズしている少年を見やる。


「はぁ。今からじゃ、ベルくんもすぐには見つけられないだろうね。間違いなく盗賊王に先を越される。

吸血鬼の国、か……どうする? リチャード」

「……? 何のことだ?」

「っ……!!」


声をかけられ、再起動したリチャードの第一声は、ゾッとするほどの無理解だった。微かに怪訝そうな色が見えるため、どうやら本気で忘れているらしい。


シエルは一瞬で表情を苦悶に歪めると、目を伏せて低い声でつぶやく。


「そう……君はベルくんごと、すべて切り捨てることを選ぶのね」


誰にともなく漏らした声は、騒がしい川の激流に呑まれて消える。しかし、意思は決してかき消されない。すぐにキッと目線を上げると、有無を言わせぬ口調で言い放つ。


「行くよ、リチャード。助けを求めてる人物がいる」

「助け……そうか。わかった」


助けがいるという言葉さえあれば、リチャードに理解など必要ない。勇者はただ、誰かを助けるために。

今日もその足を魔王の元へと向ける。




悲運の星の下に生まれました。悲惨な運命に翻弄されてきました。きっと、特別な子だったのでしょう。


でも、こうして同じ世界に生まれたのだから。

どんなに恨まれていても、望まれていないとしても、平等に幸せを求める資格があるはずです。


だから……認めない。延々と苦しみ続ける旅路なんて。

許さない。何も感じられない状態になってまでする、善行なんて。認めない。認めない、認めない認めない。


あたしは、勇者に笑顔を作ってほしいんじゃない。

あの子自身に、心から笑っていてほしいんだ。




~~~~~~~~~~




さて、こうしてベルとリチャード達が、それぞれ別のルートでカルミンブルクへと向かうことを決めていた頃。


その元凶となったアリババは、いち早く目的地に辿り着いて待ち受けられるよう、全力で行路を辿る。


道中、たまたま出くわしたアルゲンギルドの者からギルドカードを盗み、同じように引き込みながら。

深夜。城塞都市――カルミンブルクへと、忍び込んでいた。


そうして、多くの者を手のひらの上で転がし、つつがなくすべての準備を終えた彼は、今……

血に塗れた城門を抜けた先で、死にかけていた。


「ぐっ……察知すんのが早すぎしませんかねぇ?

どんだけ俺にご執心なんだ、テメェらの女王様はよぉ!!」


腹から血を流して倒れる彼の目の前には、2つの影。

動きやすそうなドレスを着たモノと、スーツらしき服を着たモノが立っていた。


アリババを見下すそれらは、ほんの数歩先にいるのにまるで姿が捉えられない。影しか見せずに仁王立ちし、目だけを青・黄に輝かせて冷たい言葉を投げかける。


「ごしゅー、しん? ……いいえ、あの方はお前如きに興味はないわ。ごしゅうしんと言っても、ご就寝ですもの」

「アハハッ。そう、興味はない。けれど、どんな愚図でも、眠りを妨げるくらいのことはできるから。

あとは精々、肥やした腹から血を撒くぐらい? フフッ」


それらの目は、欠片もアリババを見ていない。

アリババという存在を、人間を、意識に入れていない。

道端の肉を退かすように、無感情にゴミの処分をしていた。


「あぁ……あなたの顔は、抜け殻みたいに青白い」

「安心して? どんな血脈(ちみゃく)()をあげる」

「こんの、化け物どもがッ……!!」


アリババの罵倒をかき消すように。この世界を塗り替えてしまうように。彼だった人影の周囲には、無言の赤が満ちる。


愚かな愚かな盗賊王は、もはや汚い都市のシミだ。

それでも……きっと彼はこんな呪いを叫ぶだろう。

「テメェらなんざ、ぶっ殺してやる」と。




~~~~~~~~~~




アリババの叫びを皮切りに、各地から英雄は集う。

付近のギルドで最強の魔術師と、巨悪が跋扈する世界で人々を繋げる大商人。


勇者に憧れる見習いに、すべてを受け入れる侍。

そして、世界を救えるだけの力を秘めた勇者と、学院の首席である識者。


彼らが目指すは鮮血魔城。

血で血を洗う闘争の幕が、今上がる。


本当なら、章を書き終わってから投稿するつもりだったんですけど、幕間どころかほぼ1つの章になった上、やたらと煽るラストになったので定期的に投稿しようと思います

週1では出せるかな……? 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ