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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
幕間-その名はアリババ

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7-盗賊王の招待状

「昔々あるところに、女侍と少年がいました。

価値観が合わず、2人が口論をしていると、川からはどんぶらこ……どんぶらこと人が流れてきて……」


川からアリババが流れてきてから数分後。未だびしょ濡れで正座をしているシスイは、無表情で現状を物語る。

ベルと2人きりだった時は、もっと表情豊かだったはずなのだが、成人男性がいるため警戒しているようだ。


「それがこの俺、アリババ・アデルバッド……ってな訳よ」


実際、無遠慮にもその真横に座る浅黒い男は、馴れ馴れしくくっつこうとしながら勝手に言葉を引き継ぐ。


何がしたかったのか、何を考えているのかなどは不明だが、女好きなのは疑いようもない。警戒して正解だった。


川に突き落とされ、現在進行系で酷い目にあっているベルも、あからさまに嫌悪感を示している。


「おいテメー。よくぬけぬけと顔を出せるな?」


シスイとも揉めに揉めた彼だったが、今となっては彼女との価値観の相違などどうでもいいらしい。

その肩を抱いていたアリババを引き剥がし、守るように割り込んでいく。


「あっはは! 人は誰かに嫌われるのを恐れる生き物だぜ?

こんくらい面の皮が厚くなきゃ、盗賊なんてもんやってらんねぇよ! 上手いことやってたんだからいいじゃねぇか!」


力尽くで押し退けられているのに、アリババはうんざりするほど笑顔だ。蹴り飛ばされ、整った顔面を岩にぶつけているが、まったく怯まず再度シスイに迫っている。


「んなことよりよぉ。姉ちゃん、随分といい格好してんじゃねぇの。こんな誘惑されちゃ、襲わねぇ方が失れ‥ブブっ!?」


まだ本人が拒絶していないからか、アリババは邪魔されても構わずシスイを手に入れようとする。

壁になっているベルは、理解が及ばず流石にビビっていた。


だからだろう。それまでは適当に流していたシスイは、鞘に納まったままの刀で彼の鼻面を叩きのめす。凛とした彼女の後ろでは、ぽかんと口を開けているベルが守られていた。


「盗賊王、といったね? お生憎様、僕は君を助けただけで、誘惑なんてしてないんだ。襲う方が失礼だよ」

「ハッハッハ! そりゃ残念。珍しいから興味あったんだがなぁ。お前のことは知ってるぜ? 消極的自殺者」


直接拒絶されたことで、アリババはすんなり迫るのをやめる。シエルの時もすぐに他の話に移っていたので、言動こそ女好きだが、そこまで執着はしていないのかもしれない。


消極的自殺者……そう呼ばれたシスイも、警戒の種類を変えていた。一瞬だけ浮かんだ寂しげな表情をすぐに消し、鋭い視線を相手に注ぐ。


「僕も多少は聞いてるよ、盗賊王。

うちでは数千万程度で指名手配されてる小物でしょう?

喧嘩売る相手を間違えたんじゃないかい、君」

「あー、ね。理解したよ。脳筋組織を指標にされたかねぇが……勇者に続いて残火の民たぁ運が良い」

「溺れる前にも聞いたけど、お前の目的はなんなんだ?」


消極的自殺者はもちろん、脳筋組織と揶揄される集団、残火の民についてもベルは知る由もない。すっかり2人の会話に取り残されていた彼は、両者が睨み合って沈黙した段階で、ようやく彼女の後ろからおずおずと顔を覗かせる。


腰の刀に手を置くシスイは、下がっているよう片手で制しているが、騙し討ちばかりのアリババにとっては好都合だ。

意地の悪い笑みを浮かべつつ、会話に応じていた。


「さーてね。俺は盗賊王アリババだぜ?

お宝を盗む以外ねぇに決まってんだろ。

次に盗む物だって、わざわざ教えねぇよ」


左足を半歩ほど後ろに下げ、片足を支えに立つアリババは、懐から見覚えのあるペンダントを取り出し笑う。


ゆらゆらと揺らしてみせる様は、どこまでも挑発的で。

仲間たちの大切な物だと知っているベルは、まんまと怒りを顕にしていた。


「テメェ……!! 取り返されたんじゃねぇのかよ!」

「俺は欲しいもんはすべて手に入れる。溺れてたのは、単にそれが1番逃げやすかったからに過ぎねぇよ。

こいつを利用し、俺はさらにドデケェもんを盗むのさ」


十分に見せつけると、アリババは驕ることなくペンダントをしまう。しかし口だけは、大仰に夢を語っていた。


今度話についていけないのはシスイだ。ペンダントが盗まれている、というところだけを理解した彼女は、小首を傾げて背後に問いかけていく。


「あれが何かは、知らないけれど……

取り返した方が良いのかい?」

「あれが何かはオレも知らねぇよ。けど、仲間たちが大切にしてる物……らしいんだ。まだ濡れてるから、魔導書は上手く使えない。悪いけど頼んでもいいか?」


リチャードのように、助けるがキーワードになっている感じではないが……その気になっているかどうかは、神秘の強さに大きく影響しているのだろう。


ベルに頼まれたシスイは、花弁のように水滴を散らしながら刀を突き出し、息苦しくなる程のオーラを放っていた。


後ろにいたベルでも体を折り曲げるのだから、正面から圧を受けるアリババなどまともに立っていられない。

堪らず膝をつき、冷や汗をかいて苦しそうだ。


「了解した。神祖カノンの名において誓おう。僕、シスイは、あの小悪党から奪われたものをすべて取り戻すと」

「っ……!! 連戦はキツいなぁ……

けど、ここが正念場だぜアリババ・アデルバッドォ!!」


膝をついたアリババは、足を下げることで無理やり迎え撃つ態勢を整える。右手にはチャチなナイフ。

盗賊らしく、戦闘に秀でているような雰囲気はなかった。


そんな男が相手でも、シスイは気を緩めない。張り詰めた糸のように感覚が研ぎ澄まされ、凪いだ水面のように辺りから音や色は消えていく。


静まり返った世界の中で、その手は自然と刀の柄に。

無理やり態勢を整えたアリババとは違い、確かな構えとして片足を引いていた。


「……ふぅ」


彼女の吐息だけが銀色に輝き、音として認識された瞬間。

まるで最初からそこにいたかのように、シスイはアリババの真後ろに現れる。抜かれた刀は、彼が気付く前にその切っ先を首筋に……


「――っは!!」


一撃必殺。アリババは首を斬り裂かれ、倒れた。

……かに見えた。


「……おや」


実際には、刀がアリババを斬ることはなかった。

いや、斬ることができなかった。


移動にすら気付いていなかったはずの彼は、どうやってか、触れれば割れそうなナイフで刃を逸らしていたからだ。


美麗でありながら、頑強でもある刀は、肉を斬ることなく地面に突き刺さる。驚くシスイの頬には、アリババの手が添えられていた。


「っはぁ、はぁ!! マジに死ぬかと思ったぜ!!

だが、この勝負俺の勝ちだ!! 刀はもう、盗んだからな」


地面に突き刺さっていた刀は、いつの間にか完全に彼女の手を離れてアリババの手の中に収まっている。


ベル達は混乱し、理解しきれていない様子だが、本人がそう言うのだから事実は疑いようもない。刀は2つのペンダントと同じように、盗まれてしまったようだ。


したり顔の彼は、切っ先をシスイに向けた状態で立ち上がり、距離を取っていく。威圧感を消し、あっさり両手を上げているシスイは、意外にもカラッとした笑顔だ。


「盗られてしまったね、僕の刀も」


唯一、この結果を笑えないのはベルだ。

無関係なシスイに丸投げしていた身ではあるが……


彼女は重そうな誓いをしておいて、あれだけの威圧感を迸らせておいて負けたのだから、無理もない。


ペンダントを取り戻せなかったことよりも、むしろ戦闘前との落差にズッコケ、ツッコんでいる。


「お前はボケねぇと気が済まねぇのか!? 頼っといてあれだけど、強いのか弱いのかはっきりしろよ!!」

「ははは、これは失敬。油断……はしていなかったつもりなんだけどね。予想外の力を持っていたよ。流石は盗賊王」

「かっっっる!! おま、それでいいのか!?

神祖とかってやつの名において誓ったのはどうしたよ!?」

「うん。もちろんそれだけ本気で斬ろうとしたよ。

けど、失敗した。失敗したんだから、仕方ない」


アリババの言った、残火の民というのがどういうものなのかはわからない。だが、神祖などと呼ぶ存在がいる以上、それを崇拝していると考えるのが妥当だろう。


それなのに、誓いを果たせなくてもまったく気にしていないシスイは、端から見てもかなり異質だった。

全力でツッコミに回っていたベルも、戸惑いを隠せずに声を落としている。


「……え? 信仰とか、ないの?」

「信仰しているし、大切だとも。でも、あの方は誓いを果たせなかったとしても罰したりなんてしない。

僕も本気でやると誓っただけで、命は懸けていないし。

もう終わったことなんだから、悔やんでもどうにもならないじゃないか。ただ、もちろんその分の埋め合わせはするつもりだよ。心配しないでくれ」

「オレは別に責めてる訳じゃない。あんたの言動が愉快すぎて、無反応でいられなかっただけ。そんな心配してねーよ」


シスイのスタンスを聞いたベルは、呆れ返って肩を落とす。

一通りツッコミ終わったこともあって、これ以上は食ってかかるつもりもないようだ。


会話は一段落し、ニヤニヤとそれを聞いていたアリババは、再び威勢よく視線を集めていた。


「はっはは! あんたらのやり取りは面白ぇが、こっちにも事情があるんでね。そろそろいいかよ? 坊主と侍」

「いいかも何も、僕に選択肢はないんじゃない?

刀、盗られたままだと困るし」

「なんでそんな他人事みてーなんだよあんたは……」

「クククッ、なら俺に従ってもらおうか。

坊主は2つのペンダント、侍はこの刀。これらを取り返したけりゃ、カルミンブルクまで来い」

「え? たしかそこって……」


刀を肩に乗せたアリババは、その柄に引っ掛けたペンダントを揺らしながら、ついに要求を口にする。

地名に心当たりがあるのか、シスイは表情を曇らせていた。


彼女の態度に引っ張られ、訝しげにしているベルも、警戒心を強めているが……2人の迷いを打ち砕くように、アリババは叫ぶ。


「招待するぜ、吸血鬼の国によォ!!」


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