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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
幕間-その名はアリババ

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32/75

3-魔術の勉強

この世界で基礎となる神秘を学べたら、次に気になってくるのはそれを使った魔術の勉強だ。


昨夜食べられなかった分、村などで買ってあった、ちゃんと美味しい出来合いのご飯を食べると、ベル達は先に進みつつ今日の授業を始める。


「師匠! 今日は魔術について教えてくれ!」


数日ぶりに美味しいものをたらふく食べたことで、ベルは心なしか普段より元気だ。歩き始めてすぐ、食い気味に頼んでいる。


寝不足自体はほとんど感じさせないシエルだったが、やはり疲れは溜まってきているのだろう。

短いラグがあった後、詰め寄られていたことに驚いた様子で軽く身を引き、問い返していた。


「……魔術?」

「悪夢の中で、その大魔王って名乗ってたやつが魔導書以外の魔術を使ってたんだ。同時に特訓するのは、たしかに頭がこんがらがるかもしれない。けど、神秘の知識とかならまだしも、魔術は知らないといざという時焦るからさ。

まだ訓練はしないから、どういうのかだけ教えて!」

「まぁ、実戦でも使えたならもう大丈夫か。

メジャーな魔術について教えるよ。

本格的な特訓は、もっと魔導書に慣れたらね」

「わかってる。ありがとう師匠!」


数日前に言っていた通り、シエルは新しい魔術を教えることをすんなりと受け入れる。ついに解禁されたことで、ベルは感極まった様子で抱きついていた。


「とりあえず、大魔王が使ってた魔術ってどんなだった?」


受け止めたベルの肩を、ポンポンと叩いて落ち着かせた後。

歩けないからと引き剥がしたシエルは、歩きながら問う。


大魔王との戦闘は夢の中とはいえ、魔術王を自称し、能力ではなく魔術を使ったのなら現実と変わらない。

どの魔術を経験したのか、把握してから授業をするようだ。


「えっと、杖振るのと円がポンポン出てくるやつ」

「ぽ、ポンポン……? な、なるほど。

それは多分、基礎魔法――もしくは基礎魔術と魔法陣ね」

「基礎魔法と、魔法陣……」


おそらく、魔術はわかりやすく区別できるのだろう。

ベルが答えた特徴は一言ずつだったが、シエルは内容に驚きはしたものの、何を見たのかを瞬時に判断する。


単語を反復する彼に頷きかけると、それを軸に魔術全般について教えていく。


「まず、大体の魔術は使う道具によって区別されます。

起こす事象による場合もあるけど、道具の方がわかりやすいからそう思ってもらっていいよ」

「うん」

「その中で、杖……だけに限る訳じゃないけど、何かしら道具を媒体に魔術を使うのが、基礎魔術です。

媒体とは言っても、これは補助的に使われるだけで、基本は自分自身で魔術を使っている認識だね」


シエルは実際に長杖を振るい、地面をなだらかにして少し先の川まで道をつなげる。普段よく使っている杖による魔術が、この分野における基礎的なものだったようだ。


「でも、さっき道具で区別するって言ってなかったか?

基礎魔法が杖に限らず道具を使うなら……あ、基本は自分自身ってことは、他は道具がメインになってるとか?」


疑問が生まれた様子のベルだったが、ただ聞いて終わりにはならない。自分でも考え、途中でその結論を確認する形に切り替わっており、シエルは満足そうに微笑んでいた。


「その通り。例えば、あなたに教えた魔導書の魔術は魔導書を使っているでしょ? だけどあれは、あなた自身が魔術を使ってるんじゃない。本に染み付いた神秘で行っているの」

「じゃあ、ルーン魔術はルーン石?」

「うん。ルーン魔術はルーン石を砕くことを条件に、誰でも手軽に魔術を使えるようにした魔術だね。もちろん他と同じで制御は必要だけど、相当無茶な使い方をしない限り暴発もないし、発動という段階で1番難易度が低いよ」


ルーン魔術に関しては、シエルからは具体例を出さない。

少し前にルーン石をあげているので、彼は自分で懐から取り出したそれを眺めて説明を聞いている。


それらに刻まれた魔術は、身体強化、回復、風の3つだ。

悪夢の中の戦いで、すべて砕いて使っていたはずなのだが……あくまでも夢の中での出来事のため、現実には1つも減ってはいない。


「それから、あなたが見たっていう魔法陣。

これは、神秘を込めた線で陣を描いて発動する魔術ね。

ルーンにも通じるんだけど、あれが石に魔術を閉じているところ、魔法陣はその場で描く円の中に術式を刻んでるの」

「術式って言うと?」

「何を創り出すか、どういう形で創り出すかとかを固定するための指示かな。その後の操作は、他と同じで精神力。

ただ、それも自動にすることができる人もいるにはいるね。

発動の段階で余計な手間がかかるし、発動後は自由に動かせないから一長一短だと思うけど」


そう説明をしながら、シエルは長杖を使って地面に魔法陣を描いていく。何を創り出すか――水。どういう形で創り出すか――泡。といった感じに。


円形を描き終わると、彼女はこれで締めだとばかりに力強く外周を叩いた。直後、魔法陣は光り輝き、望まれた通りの泡を吐き出している。


規則正しく2人の周りを動く泡は、日光を反射していて全面がガラス窓のようだ。幻想的な景色の中で、シエルの授業も締めに入る。


「他には、御札を使った陰陽道。既にあるものを使って混ぜ合わせる錬金術。あと、星を見て未来を識る占星術なんかがメジャーどころかな。どう? 覚えられそ?」


周囲を舞っていた泡は一斉に弾け、キラキラとした光の粒を生む。その中心にいる制服姿の美少女は、絵画のように完成された麗しさだった。


「う、うん……頭の片すみには留めとくよ。ありがとう」


神秘そのものに成っていない上に、その感知もままならないベルでは、誰が神秘なのかはまだはっきりと感じ取れない。


だが、目の前で長い髪を揺らし、煌めかせているシエルは、神秘だとしても信じられるくらい幻想的で。思わず見惚れてしまった彼は、照れくさそうにお礼を言っている。


「どういたしまして」


対して、当のシエルは優しく微笑むだけだ。

すぐにリチャードが進んでいる方向へ目をやると、いたずらっぽく笑みを変える。


「それじゃあ、この後はいつも通りの訓練かな?

ちょうど川が見えてきたし、水とも一体にならなきゃね」

「よっしゃ、早速飛び込んでくるぜ!!」


照れくささを吹き飛ばすかのように、ベルは威勢よく大声を上げて駆け出す。今持っているのは火の魔導書で、悪夢では苦境に陥ったというのに、まるで気にしていない。


「ほ、程々にね? この先はひとまず、川沿いに進むから!

向こう岸まで泳げなくていいんだよー!」

「わかったー!」


シエルの心配そうな声を背に受けながら、彼は川を目指して走っていった。



~~~~~~~~~~




「あれ? リチャードじゃん。こんなとこでどうした?」


数分後。川辺に到着したベルは、普段昼間には見かけることのないリチャードを見つけ、目を丸くする。


なぜかぼんやりと突っ立っていた彼は、もちろん泳いでいた訳ではなさそうだ。よく見ると、足元には見覚えのない男が倒れていた。


「……? 誰だ?」

「仲間のベルだよ」

「あぁ、ガキか。行き倒れてるやつを見つけてな。

息はあったから、とりあえず寝床を見繕ってた」


呼ばれて振り向いたリチャードは、問いに答えながら視線を落とす。今日も今日とて、人助けをしているようだった。


「ふーん……」


男の服装は、暑さに強そうなゆったりとしたもの。

所々から覗いている肌も浅黒く、この辺りの人ではないようだった。


ただ、行き倒れていたにしては痩せておらず、引き締まった肢体に精悍な顔つきをしている。

袖や口元が濡れているため、意識を失う前は水を飲んでいたらしい。


何にせよ、行き倒れているということは助ける必要がある者ということだ。リチャードは寝かせられる場所を探し、ベルは彼の観察をしていく。


「見た感じ、元気そうだけどな」

「あぁ。服も特に濡れてる訳ではないのにやたらと重くて、大量に何かを持っているようだった」

「何かを大量に……商人?」

「さぁな。だが、旅人ではある」

「そりゃそうだ。じゃなきゃなんで行き倒れてんだよ」

「旅慣れしている者、という意味だ。家族に会うため、居場所がなくなって、一時的に旅をする者も多い」

「あぁ……たしかに、そんな雰囲気ある」


悪夢での体験があったからか、神秘だと知ったことで、より深い話でもできたのか。2人は以前よりかは打ち解けた様子で言葉を交わす。


リチャードは相変わらず淡々として機械的だが、特にベル側からは親しみが……受け入れようとする態度が感じられた。


「あれ、リチャード? 何かあったの?」


数分後。遅れてやってきたシエルが、ベル同様リチャードがいることに仰天して声をかけてきた。

先ほどの説明をまたすることになる、かと思いきや……


「……え? その男……」


ベルが口を開く前に、彼女は険しい顔をして足を止めていた。


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