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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
幕間-その名はアリババ

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2-ただの学生でも、保護者で師匠

「超人的だとは思ってたし聞いてもいたけど、まさかそんなにとは思わなかった……」


授業の流れで、思いもよらず重要な話を聞いたベルは、感情のない声でポツリとつぶやく。


今までの旅の中で、少なくとも彼はリチャードが眠っている姿を見たことがない。食事も、しつこく言われてたまにするくらいだ。基本的には、飲まず食わずでいる。

明らかに普通の人間ではない。


その上、洞窟の子猿や悪夢のナイトメアなど、神秘にも軽く勝っているのだから、考えてみれば当然だった。

なにせ、神秘は神秘でしか殺せないというのだから。


ベルのように神秘を扱い、魔術を使うなら、倒すことはできるだろうし、相手によっては殺せもするだろう。だが、彼のように楽々殺せるのは、神秘でなければあり得ない。


それを証明するように、みるみる近付いてくるリチャードは、仲間だと、勇者だとわかっていても恐れを感じてしまうほどの存在感だ。


勝手に聞けるギリギリの話を聞いた後なので、ベルはいつもより緊張した面持ちでそれを見ていた。


もちろん、周りに無関心なリチャードがその態度を気にすることはないだろうが……彼を心配するシエルは、薄暗い中でもわかるくらい、悲しげな顔をしている。


「……そうでもなきゃ、飲まず食わずで寝ずもせずに、生きていられるはずないでしょう? 食事や睡眠を取る方が、動きが良くなったり集中力が上がったりするけど、必ずしもいるものではない。今のあの子にとっては、無駄でしかないの。

私はそれが、とても苦しい。どうあっても取り戻したい。

かつてはあの子も持っていたはずの、人間性を」


思わず緊張してしまったが、ベルだって彼を恐れている訳ではない。何度も助けられ、好ましく思い、信じている。

シエルの悲しみを見て、すぐに表情を緩めると、行動で示すと伝えるようにニカッと笑って見せていた。


「だからこそのオレだろ! まっかせといてよ! オレはあいつとちゃんと友達になって、笑わせてみせるから」


その顔には、さっきまでの負の感情は欠片もない。

理解不能な相手だとより実感してしまったはずなのに、ただの友人として居続ける少年の姿だけがあった。


薄暗い中でもわかる眩しい笑顔を見て、シエルは儚げな笑みを浮かべて杖を振るう。


「うん、ありがとね。さて、まずは食事をさせないとなぁ」

「今日の当番は……」

「あたしだよ。あなたはあの子とおしゃべりしてあげて」

「……うん。ケガするのも程々にな」


虚空から出てくる荷物を横目に、ベルはリチャードを迎えに行く。チラリと見たシエルの手は、これからボロボロになるのが、頻繁に傷付くのが信じられないほど綺麗だった。




~~~~~~~~~~




「食事、作りたいんだけどねー……」


ベルがリチャードの元に行ったのを確認してから、シエルは辺りを見回す。周囲にあるのは、食事の準備と言って出した多くの荷物だ。


細身の彼女では背負うのが大変なリュック、調理器具や食材が詰まったケースなどが、風で広げられた敷物の上に並べられている。


ただ、一応敷物の上とはいっても、ここは偶然立ち止まった場所に過ぎない。地面はボコボコで、荷物が安定しておらず危なかっかしかった。


今から勝手に移動しても、余計な手間をかけさせるだけではある。しかし、野宿の場所はここで決定するとしても、そのまま使うなんてありえない。ある程度、ちゃんと整える必要があった。


少しの間無言で眺めた彼女は、流れるような動きで再び長杖を振るい荷物を浮かせ、軽く地面をならしていく。


「これで良し。あとは、先に結界とか張らないと」


野営地を整え終えたシエルは、まだ2人が戻ってきていないことを確認してから、密かにその場を離れる。

いつの間にか描かれていた魔法陣からは人影が映り、この場に彼女がいないことを誤魔化していた。


「眠らないとしても、休めるように……無駄に気を張らないでいられるように……まぁ、無意味なんでしょうけど」


何メートルか離れると、シエルはどこからかルーン石を取り出す。刻まれている文字は、Z.(エオロー)R.(ラド)

それぞれ、砕くと守護と風の力が使える代物だ。


「……四方に安寧を。ここは人の世。

何人も犯せぬ我らが領域」


砕かれた石は塵となり、彼女の意思によって動く風に乗る。

向かう先は、野営地を中心とした四方数十メートル先だ。

一方向に1つ……4つものルーン石を消費した守護の力は、風で確実に目標地点まで届けられ、結界となっていた。


「星は謳う、生命の輝きを映す鏡となって」


続いて、シエルは長杖で地面に魔法陣を描きながら、空を見上げる。この辺りは平野で木が少ないため、段々と濃くなる星空ははっきりと見えていた。


それも、彼女にとってはただ見えるだけではない。

瞳に朧げで神秘的なオーラが纏われたことで、占星術に必要な星だけがより強く輝いている。


「……なーんか良くない位置にあるね。凶兆とも言い切れないけど、不吉な星。気をつけた方がよさそう」


同時に展開していた魔法陣は、ルーン石と同じように四方へ。人・獣避け、気配遮断、警報などを仕掛けていく。

また、最後に描いていた巨大な魔法陣だけは、その場でくるくると回りながら浮かび上がっていた。


「ただ、今この場では……」


宙を飛ぶまん丸な魔法陣は、要所要所が輝き星座のようだ。

その中央で、同じく浮かぶシエルは太陽みたいで。

己こそがこの世界の中心であるかの如く、高所から輝く球体に直接手を出し、望む形に星空を変革していく。


「星の巡りは、あたしが決める」


カチリ、と。小気味いい音が鳴ったかと思うと同時に、周囲における星座は、吉兆を呼ぶよう限定的に固定された。

星光は波動のように迸り、まばらに生える木々を揺らす。


「貴方がたに、一時の生を与えます。契約を。

今宵、夜が明けるまで。貴方がたは我らを守りなさい」


御札が貼られた木々は、その命令を受けて動き出す。

居心地のいい場所に腰を下ろすため、その場で契約を履行するため。これにより、ベルたちの安全は保障された。


「……さて。それじゃあ料理を始めましょう」




「相変わらず懲りないな、女。

作れないのであれば、食事など摂らなければいい」


シエルが華麗に魔術を駆使した数十分後。

3人が集まった野営地では、毒々しい色をしたナニカがテーブルの上で異彩を放っていた。


もう慣れたもので、ベルは最初から近付いていない。

嗅覚もないらしいリチャードだけが、腕を組んで前に立って辛辣に言葉のナイフを突き立てている。

土の上で正座をしている彼女は涙目だ。


「女違う……お姉ちゃん……」

「味だけでなく、手もズタズタみたいだな?

それに、途中でひっくり返しでもしたか?

制服も汚れている。まぁ、正座するなら関係ないか。

何がそこまで姉を突き動かすのか……理解に苦しむ」

「……」


冷ややかな目で詰められ、シエルは目を逸らす。

魔術で治す暇がなくて血だらけの手を隠し、毒々しい色に染まっている袖やスカートを拭いながら。


だが、今さら隠しても意味はないし、そもそも箇所が多くて隠せはしない。無駄に足掻いても、相手を苛立たせるだけである。


もっとも、リチャードはとことん機械的に無感情なので、淡々と目に付いた部分を指定するだけだが。


「助けることは俺の存在意義だが、自らその状況へ陥るやつに本当に助けが必要なのか、甚だ疑問だ。むしろ、その行動を辞めさせることこそ助けるに値するんじゃないか?」

「えーっと、つまり……?」

「失敗を理解できていないなら、たまには自分で食え」

「……!! ここに、宇宙が、あっ、た……バタン」

「師匠ーっ!?」

「お前も食え、ガキ。どうせお前も懲りていないだろう」

「ギャーッ!! 苦っ、辛っ、甘ぁ!?

あ、味の暴力……マジカル栄養剤……ぐはぁッ!!」


倒れたシエルに慌てて駆け寄ったベルは、リチャードに無理やりその錬成物を食べさせられる。

直後、あらゆる食材を煮詰めたような無数の味が脳を叩き、彼は目を回して気絶していた。


「仕方ない。残りは処理しておこう」


仲間が2人倒れ伏す中、助けが必要と判断したリチャードは、何事もなかったかのように劇物処理を始める。


ベル達は一口で昏倒したというのに、顔色1つ変えない。

倒れている仲間にも無関心で、2人は放置されたままだ。


それはもちろん、処理が終わっても変わらない。

皿を空にした彼は黙って立ち上がり、何もせずに少し離れた場所に移動して佇んでいた。


勇者は眠らず、魔術師と少年は転がされたままで。

夜は次第に、更けていく。




~~~~~~~~~~




「ここまで吹っ切れて、ようやくかぁ……」


食事?から数時間後の深夜。フラフラと目を覚ましたシエルは、空になった皿を見てから杖を振る。

もうリチャードはいないが、どうせ寝ずにぼんやりと助けを求める声に耳を澄ませているのだろう。


彼女は深く気にせず、生み出した水で皿を洗い、制服の汚れを吸い取り、手を癒していく。

ベルは劇物で気絶してから、そのまま眠っているようだ。


「ベルくんが加わってすぐの時は、前よりはちょっと簡単に処理してくれてたんだけど……」


すべての作業が終わっても、シエルは眠ろうとしない。

ベルを寝袋に寝かせると、自分は席について無数の宝石類をテーブルに広げていた。


「でも、これ以上ベルくんに負担かける訳にもいかないね。

もっと上手いこと料理できるようにならないと」


どうやらシエルは、広げた宝石類にルーン文字を掘っているようだ。ブツブツと呟き考え事をしながらも、先の尖った棒状の道具で丁寧に文字を刻み、ルーン石を作っていく。


その集中力は、神秘を感知できる者には明らかだ。全身にもピンっ……と揺るぎない神秘的なオーラがまとわれているが、特に目と指先の輝きは宝石をしのぐほど輝いている。


「リチャードが助けるものと認識でき、かつ人が食べられるもの……栄養は気にしないでいいのかな?」


ルーンは、使うだけなら最も簡単で、誰でも使える魔術だ。

しかし、ルーン石を作るのは大変で、手軽な分砕いて使う必要もあるため、他の魔術より道具の消費が激しい。


おまけに、シエルに関して言えば日中は旅をしているため、それを作れる時間は夜だけだ。


「……ふぅ、1個できた」


ようやく1つ目ができたのは、生産開始から数十分後。

シエルの夜は、まだまだ終わらない。


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