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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
幕間-その名はアリババ

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30/75

1-悪夢を経て知りたいこと

悪夢を解決した一行は、村のその後を確認することもなく旅を続ける。ベルは気にしている様子だったが……


なんでも、魔王種ナイトメアを引き付けるために、寝かせた地点は村からだいぶ離れていたらしい。

気にはなるが、今さら戻るほどのことでもないため、彼らは先に進むことになった。


本日は、その初日。昨夜の約束通り、ベルは隣を歩くシエルに色々教えてもらおうと意気込んでいる。


「なぁ、師匠! 昨日教えてくれるって言ってたよな?

今日こそ全部答えてもらうぞ!」


あいも変わらず、リチャードはこの場にいない。

前方から微かに声が聞こえるため、いつもと同じように1人でズンズン進み、片っ端から誰かを助けているのだろう。


姿は見えないのに、ずっと遠くを見つめていたシエルは、元気な声を聞いて数秒後。ようやく焦点を近くに戻して笑いかけていた。


「全部……は大変だから、少しずつね?

今日は何を教えよっか」

「まだ少しずつぅ? ……なら、魔術王って知ってる?」


隙をついてもスタンスを崩さないシエルに、ベルは堪らず顔をしかめて不平を言う。とはいえ、『今日は』ということは、これまでよりは間を置かず教えてくれるらしい。


すぐさま切り替えると、最も難しくなく、サクッと終わり、かつ同時に他のことも教えてもらえそうな質問をする。


しかし、簡単にサクッと終わるという予想は外れのようだ。

質問を聞いた彼女は、歩みを止めるまではいかないまでも、動揺で進行方向がズレるほど困惑している。


「え、なにそれ? あたし、結構いろいろ知ってる方だとは思うけど、聞いたことないよ。悪夢で見たの?」

「見たっていうか、大魔王ってのが名乗ってた」

「だ、大魔王……!?」


ベルが出会った悪夢の守護者は、魔術王であり大魔王。

だが、シエルは後者についても初めて聞いたらしく、今度こそ立ち止まって目を丸くしていた。


と言っても、魔術王も大魔王も、決して意味不明な単語ではない。魔術は彼女自身も使うもので、魔王や魔王種は一行が戦っている相手だ。


しかしだからこそ、より激しく混乱してしまう。

足を止めたシエルはしばらくの間愕然とし、考え込んでくるくると表情を変えていた。ようやく混乱が収まり、歩き出したのは、それから数分も経った後だ。


「とりあえず、魔術王も大魔王も聞いたことないかな。

でも……」

「でも?」

「事実かはわからないけど、一応、魔王の上は存在しているらしいんだよね。チラッと噂や記述を見聞きしただけなんだけど、この世界を作った神がどうたらって。まぁ、ほんとに魔王の上なら、あたし達からすると邪神になるのかな。

なんにせよ、神話とか御伽噺の領域だと思う」

「ふーん」


まったくではなく、ほとんど知らない。

学院の座学首席だというシエルがそう言うなら、これが情報のすべてなのだろう。


現実ではない空想上の話だとしても、大魔王ではなく、邪神がいる……もしくはいると考えられた可能性の方がまだある。


ならば、そう記されているきっかけもあるはずだ。

ベルは生返事をしていたが、別に無関心という訳ではなく、しっかりと記憶しているからのようだった。


それはシエルもわかっているようで、薄い反応に気を悪くした様子もなく話を続ける。


「あと、魔術王ね。魔術の王と言うからには、世界一魔術が上手い人……なのかな? あたしが知る限り、それを名乗れるのって、アビゲイル校長くらいだと思うんだけど……

その魔術王って人、アビゲイルって名前だった?」

「いや、ヒエロって名乗ってたな」

「じゃー違うね。校長より魔術に精通している人はいないし、その人が勝手に名乗ってたんじゃない?

というか、悪夢の中だったなら、現実にはいないかも」

「……」


魔術王についても最初、シエルは大魔王と同じように聞いたことがないとのことだった。だが、大魔王の話と違っていたのは、その後の考察がやけに確信的だったことだ。迷いなく断言する彼女に、今度はベルが不思議そうな顔をする。


「ところでさ、なんでその校長より魔術に精通してるやつがいないって断言できるんだ?」

「あぁ、それね。アビゲイル校長は、魔術の開祖なの。

もちろん、各魔術の原型は世界各地にあったらしいんだけど、それをまとめ、理論にし、一冊の本にしたのが彼女。

だから正確には、現代の魔術を作った開祖かな」

「す、すげー! そんな人がいんのか!!

しかも、校長先生やってんの!? とんでもねぇ学校!!」

「あはは。正式名称はウィズダム魔術学院なのに、アビゲイル魔術学院って呼ばれてるくらいだからね。すごいよ、あの人は。多分、世界で唯一の学校だし」


明確な偉人・英雄の話に、ベルは目を輝かせる。

しかし、シエルの表情はどことなく暗い。


座学首席ともなれば、少なからず接点はあるだろう。

仮に大した関わりがなくとも、自分の学校の先生が、知っている人が褒められたら、大抵の人は嬉しいと思うものだ。


それなのに、彼女はなにやら複雑そうな表情をしていた。

興奮している中でも、ベルはその異変に気付いて首を傾げている。


「もしかして2人の故郷って、葬儀屋のおっさんが言ってた唯一まともに機能してる国ってやつ?」

「んー……ごめん、それに関してはノーコメントで。

あと、リチャードには絶対聞かないでほしいかな。

少なくとも、あの子が自分らしさを取り戻すまでは」

「……わかった」


明確な拒絶。悲しげに微笑み、言い含める姿から、故郷が彼女個人の旅の目的に関係しているのは明らかだった。


「ほんと、ごめんね。もし、あなたが望むならだけど……

いつかあの国に帰れたら、アビゲイル魔術学院に推薦してあげるから。一緒にたくさん、勉強しよう。

その方がいろいろ学べると思うよ」

「わかった!」


とはいえ、学院自体が嫌いな訳では無いのだろう。

すぐに彼女からは悲哀の色が消え、優しく笑いながら提案をしていた。


まだリチャードから話を聞けてない以上、しつこく聞くことはできない。ベルは暗い雰囲気を吹き飛ばすように笑って、いつかの約束を受け入れていた。




「でさ。結局、大魔王とか魔術王の話は大して内容なかったじゃん? 覚えることでもないし」


1つ目の授業が終わり、かなりの時間を置いてから、ベルは再び攻勢に出る。教えるのは少しずつ、と言われていたが、今日こそはさらに多くを学ぶために。




「え? まぁそうだね」

「だったら、もう少しくらいなんか教えてくれても……?」

「あはは、いいよ。何が知りたいの?」


戦略的で、だがどこか自信なさげで甘えるように教えを請うベルに、シエルは苦笑をこぼす。

上手く了承を引き出した彼は、打って変わってニコニコと質問していた。


「魔王について、もっと教えてくれ。

悪夢の中で、魔王種の話は聞いた。敵がそうだったから。

でも、肝心の魔王については、詳しいことは知らない。

あや、魔王種を知るための前提知識として、ちょっと教わりはしたけど……ただ、悪夢で出会った人が言うには、まだ情報が欠けてるっぽいんだ」

「あー……なら、あの子に教わった話の確認から――」




「欠けてるのは、神秘について……かな?」


リチャードが教えた内容などを聞き終わると、シエルは自分が話したこととすり合わせ、結論を出す。


その話をメインで教えたことがない以上、確認できた知識は伝聞がほとんどだ。本当に足りないのがそれかは確証がないため、彼女はやや自信なさげである。


もっとも、教わっていたとしても定着していないのならば、また学んでも問題はない。むしろそうするべきだ。

だが、シエルはそもそも教師という訳ではないため、緊張し慎重になっているのだろう。


逆に、なんの不安もなく、とにかく新しいことを多く知りたいベルは、満面の笑みだった。


「そうかも。オレ、魔術の修行の中でチラッと聞いたくらいで、それがなんなのかよくわかんねぇ」

「なら、神秘について教えるね。

とりあえず、大事なとこだけ」


また全部は教えてくれなそうな雰囲気に、ベルは堪らず口をとがらせる。しかし、話さない部分に関しては、ただの学説のようなもので、本当に知る必要がないもののようだ。


シエルになだめられた彼はすぐさま真剣な表情になり、知識を整理し、補強するための授業が開始される。


「んーっと……まず神秘っていうのは、この星に満ちている力です。人が魔法を使うための源ね。だけど、あたし達人間は自然から離れているから、工夫しないと上手く扱えない。

ここまでは、最初に話してたかな?」

「うん。何となく覚えてる」

「よかった。まぁ、そういう感じで、人は取り込んだ神秘を体に順応させ、魔力って形にして魔術を使うんだけど……

自然に生きる獣――魔獣は神秘のまま、魔法のままで使えるし、たまに神秘を取り込む必要のないモノも現れる。

それらは、己自身が神秘に成っているため、変換の必要がないどころか、神秘を取り込む必要すらない。

その手間がないから、規模も自由度も規格外になる。

あたし達が言う神秘には、この2つがあるの。

力としての神秘と、個体としての神秘。

ここまでが、リチャードの話。に、少し付け足したもの」


滔々と語るシエルは、長杖を揺らして空中に図を描きながら教えていく。図はヒエロの魔法陣と同じ理屈で描いているようで、水とも煙とも言えない、朧に輝く神秘的な線だった。


「で、ここからが本題なんだけど、神秘っていうのは火や風なんかの大自然の力でしょ? 生物がそれそのものに成るってことは、自然現象に成ることに等しい。

1つ聞くけど、山や川に寿命はある?」

「……ない。少なくとも、普通の状況なら」

「うん。だから、神秘に成ったモノにも、寿命はない。

山が雨で崩れるように、他の神秘に殺されない限りは。

これがその人の言ってた話でしょ? 寿命については、特にはっきりとは言及されなかったみたいだけど」


神秘には寿命がない。すなわち、魔王や魔王種にも、同様に寿命はない。大体は既に聞いていた内容だったが、はっきり言ってその1つだけで衝撃は十分すぎるほどだった。


『神秘は神秘でしか殺せない』以上の事実に、ベルは思わず口をポカーンと開けてしまっている。


「そうだなー。思ったよりちゃんと知ってた。

じゃあ、魔王と魔王種はみんなそれって感じ?」

「だね。違うのは規格だけだよ。今目の前に見えている川と、川という概念だと比べものにならないでしょ?

まぁだからこそ、魔王並みの魔王種だって、そこそこいると思うけど……なんというか、組織みたいなものなんだよ。天を――人の世を覆う暗い影、十二魔王(ゾディアック)。彼らはたしかに神秘の中でもずば抜けているけど、存在からして違う、特別な存在って訳じゃない。他の神秘が不干渉だったり、従っていたりするからそう呼ばれているだけだよ。ただ単に強すぎるってのが、特別ってことならそうだけどね」


締めに魔王たちの称号を教えてから、授業は終わる。

同時に、今日という1日も終わりの時間が近づいてきて……

みるみる闇に飲まれていく様は、魔王という脅威を視覚的に示しているかのようだった。


と、その恐ろしさを断ち切るように、辺りにはパチンッと掌を叩く音が鳴り響く。飛び上がったベルが隣を見れば、そこには神秘的に微笑む美少女がいた。


「あ、もう1つあった。獣が神秘に成った場合、結構な確率で人の姿を取るよ。理由はいくつかあるけど……

1番大きいのは、その方が便利だからかな」

「人の姿が? なんで?」

「あなた、リチャードに腕相撲で勝てる?」

「ぜっっっ……たい勝てない!」

「じゃあ、例えばゴリラみたいな人がいたとして、あの子が負けると思う?」

「……なんか、普通に勝てそう」

「つまり、そういうことよ。神秘は身体能力も高まるから、わざわざ大きな体を持つ必要がない。むしろ小さい方が動きやすいし、人の手は器用だから暮らしやすい。

好みもあるし、みんながみんなそうって訳じゃないけどね」


こともなげに告げるシエルに、ベルは愕然とした顔で言葉を失う。だが、あのリチャードを例に出されては、疑いようがない。


体の大きさが無意味……それどころか、むしろ的になる分不利になる可能性があるなら、たしかに人の姿の方が便利だ。

各々のスタイルにもよるだろうが、納得できる。


と、魔王種にばかり気を取られていたベルだったが、遅れて大事な情報に気がつく。例に出されたのは、人間であるはずのリチャードだ。それが意味するところはつまり……


「……なぁ。さっきの話し方だと、まるでリチャードが神秘みたいだったけど」

「そうよ? ……これも、教えてなかったね。

この時代で勇者と呼ばれる者は、みんな神秘に成った者。

もちろん、全員がそう呼ばれる訳では無いけれど、そう呼ばれる者は皆決まって神秘。

神秘の中で、人の世を救う者を勇者と呼ぶの」

「……!!」


落ち切った日をものともせず、1つの影が迫ってくる。

それは、今日も1人で前を歩き、目に付く人をすべて助けてきたであろう勇者――リチャードの姿だった。


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