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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
2幕 逃れ得ぬものである故に

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8-悪夢の舞台

魔王城の中で対峙する2人は、互いを敵として睨み合う。

片や怒りに燃えながら、片や左端の口角を上げてせせら笑いながら。


一触即発の舞台は、威圧感でグラグラと揺れていた。

踏み入れた時も禍々しい場所ではあったが、もはや何人たりとも邪魔のできない魔鏡と成り果てている。息の詰まるような緊張感はなおも高まり、戦いの火蓋は切って落とされ……


「水を差すようで申し訳ないのですが」

「ッ!?」


今にも激突するかに思えた瞬間、いきなり、入り口からは淡々とした女性の声が響く。

緊張の糸はプツンと千切れ、ベルは堪らず飛び上がって背後を振り返っていた。


その先にいるのは、さっきまで部屋の外にいたはずのメイドだ。彼女はチャチなナイフを両手に握り、極自然に2人の間に入ってくる。


「君、こんなところで何をしている?」


戦闘中でも変わらず玉座に座っていたヒエロは、当然入り口の方を向いていたため、まったく驚いていない。

リラックスした様子で頬杖をつきながら、つまらなそうに詰問している。


それも、邪魔をされたからか、あからさまに不機嫌そうだ。

ジトリとした目で、割り込んできたメイドを射抜いていた。


「いえ、流石に今のベル様が、1人でヒエロ王のお相手をするのは分が悪いのではと思いまして。

ほんの少し、手をお貸ししようかと」

「大魔を忘れているぞ。俺様はただの王ではない。

大魔王ヒエロ様だ。とはいえ……ふーむ、この俺様と戦おうと言うのか。いい度胸じゃないか」


慇懃に宣言し、頭を下げているメイドを前に、ヒエロは実に面白そうに笑う。ベルは付いていけずに固まっているが、話は勝手に決まってしまっていた。


しかも、参戦が決まると次第に威圧感も高まっていく。

彼はまだ状況を飲み込めていないのに、殺し合いすら勝手に始まってしまいそうだ。


そんな状態で戦闘になるなど、堪ったものではない。

もう猶予はないと感じたベルは、慌ててメイドの前に進んで彼女を問い詰めていく。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんた戦えたのか?

昨日の……この前の夜助けたのはなんだったんだよ?」

「戦えると言っても、補助程度ではありますが……

あの日は突然だったので、(わたくし)も取り乱していたのです。

服も動けるものではなく、武器もありませんでした」

「な、なるほど?」

「ともあれ、決して気を抜かぬように。

あの方から目を離すと……死にますよ?」

「ぐっ!?」


ベルが納得した時点で、戦闘は再開される。

メイドの忠告は間に合わず、彼は背後から吹き荒ぶ魔術の余波を受けただけで、苦しげに宙を待っていた。


「だからッ……この魔術は何なんだって!?」

「未熟な先輩勇者に教わればいいさ。

ただし、ここから生きて帰れたらだがな!」

「あいつは欠けてる部分があるだけで、実力や存在は最高の勇者だって言ってんだろ!!」


メイドが引っ張ったお陰で、直撃はしていない。

だが、余波だけでも常人なら昏倒するレベルの威力で、ベルは息も絶え絶えになっている。


体が砕けそうなほどの風圧を受けて無事なのは、偏に魔導書での修行を徹底的に繰り返したからだ。

神秘の力はより体に馴染み、肉体の強度を上げていた。


その甲斐もあって、身を翻すと先ほど同様、無数の魔法陣が展開されているのを確認できる。

もっとも、何度見たってベルにはその魔術がどういったものなのか、正確なことはわからないが……


(さっきも浮き出たあのサークル! 剣とかは出ないんだな。出てくる炎も、今のところただ吹き出すだけ。

もちろん円からしか出ないし、気をつけていれば……)


何となくでも理解できれば、少なくとも落ち着いて対処することはできる。空中で態勢を整えると、魔法陣の位置や向いている方向から魔術を予測していた。


もちろん、魔術を食らうタイミングがわかっても、生身で防ぐことはできない。たとえ剣を持っていても、彼の実力ではそのまま飲み込まれるだけだろう。


今のベルにできるのは、魔導書を使った魔術だけだ。

彼は開いた炎の魔導書を輝かせると、小さな爆発を連発して空中を移動し、魔法陣による魔術を回避していく。


これなら、魔力を使いすぎて気絶することもない。

一瞬で安定を失って回転し始めるが、なんとか直撃だけは避けて地面に激突していた。


「ぶへ! った、危ねぇ! 生きてる!」

「生きてるからどうした? どうせジリ貧だろ」


すぐに飛び起きるベルだったが、ヒエロの魔法陣はほとんど予備動作なく出現する。

今回も見上げた時には杖が打ち鳴らされており、彼を中心として檻のように魔法陣のドームが出来ていた。


無数にあることから広範囲なので、絶対に避けられない訳ではない。しかし、綺麗に半円状を形成する射出口から一斉に放たれれば、間違いなくそのどれかには当たってしまう。


結果としてベルの思考はまとまらず、身動きが取れずに魔術の光で顔を照らされていた。炎や水、風、岩など……吹き荒ぶ魔術が直撃するまでの猶予は、ほんのわずかだ。


「だから(わたくし)が手を貸すのです」


逃げ場を見つけられなかったベルが、魔術で消し飛ばされる直前。またしても、涼し気な声が室内に響く。

声の主は突然メイドだ。


一度は彼と一緒に吹き飛んでいた彼女は、少し離れた位置で軽快な舞いを見せていた。瞬間、その足が踏み締めた辺りからは、無数の茨が生えてくる。


ステップを踏むごとに増える茨は、魔術爆撃を掻い潜ってドームに入り、ベルを移動させていた。


「うわぁ!?」


時に道を開き、時に壁となり、茨は優雅に誘導する。

理由もわからないまま、ベルは爆撃をしのぎ切っていた。


「はぁ、はぁ……助かった。けど、これ普通に強い」


茨に引かれて出てきたベルは、息を切らしてへたり込む。

だが、ヒエロの攻撃が止むことはない。

メイドに促されて再び立ち上がると、なぜか彼女に合わせてステップを踏み、踊りのようなものをすることになる。


「……なにこれ?」

(わたくし)の能力は、踊っていなければ本領を発揮できません。

あなたも死にたくはないでしょう? 手伝ってください」

「お、おおう」


メイドの答えを聞いて微妙な表情になるベルだったが、事実として茨の規模や精度は上がっていた。

流れに組み込まれ、無理やり振り解くこともできないため、彼は場違いに踊りながら会議を続けている。


「1つ、言い忘れていました。あの晩、(わたくし)が戦えなかったのは、動転していたことや服装、武器がないことも確かに原因だったのですが、それだけではありません」

「えぇ、なに!?」

「実は(わたくし)、2人でないと戦えないのです」

「はぁ……?」


まだ秘密があったことに身構えるベルだったが、内容を聞くと困惑を深める。ダンスはリードされているので止まらないものの、自主的な動きは完全に消えていた。


すべて操作しなければならない分、手間はかなり増えるはずなのだが……向かい合っているメイドは、その反応にまったく表情を動かさない。


「実は(わたくし)、2人でないと戦えないのです」

「いや、聞こえなかった訳じゃねぇよ? 踊ることがベストだったり2人必要だったり……なんというか、制限多いな。

けどまぁ、わかった。オレが、倒すんだよな?」

「……」

「えぇ!? オレが倒せばいいんだろ!?」


なぜか返事をしないメイドに、とりあえず納得していたベルも、焦った様子で問いかける。


今のところ攻撃は防げているが、だからこそ。ろくに当たらないことで、ヒエロは痺れを切らしてきているようだ。

攻撃には、最初の空間を歪ませる魔術も混ざり始めており、余裕は一切なかった。


しかし、メイドは自分のペースを崩さない。ダンスに影響を出さないためなのか、呑気に語りかけていく。


「……あなたは、何の準備もできないままこの悪夢に囚われ、唐突にあの大魔王の玉座に引き出された」

「いきなりなに……? そんなこと、オレが1番わかってる」

「そんな中、あなたは試練を乗り越えた。きっと実戦の中で、多くを学べたことでしょう。だから、自信を持っているのでしょうが……見ていないものは学べません。忠告です。

戦闘中は、あの人の言葉に決して耳を貸さないように。

下手したら戦う力を奪われますよ」

「っ、わかった!! ありがとう」


あまりにもしれっと助言され、ベルは遅れて気付いてお礼を言う。このやり取りの間に、苦々しげな表情をしたヒエロの御前まで迫っていた。


「さて、これで大魔王を倒す準備が整いました。

戦う準備ではなく、倒す準備が」

「何かあったっけ……?」

(わたくし)と連携すれば、接近できるでしょう?

まさかとは思いますが、1人で何とかできるとでも?」

「……無ぼうだったかな」


にへら……と愛想笑いをしながらつぶやくベルを見て、メイドは深い深いため息をつく。襲われていた夜も含め、おそらく今までで1番感情が表に出ている。大きな集落――自治区などでは常識なのか、相当呆れているようだ。


「あなたは魔王種という存在を甘く見ています。

あなたを送り出した勇者の少年も、自らが強すぎるあまり、他者での想定ができていません。いいですか?

普通の人間では、魔王種は決して倒せない。

神秘とは、神に等しいもの。不朽不滅の超常的存在。

神秘そのものに成った存在を滅ぼせるのは、同等の神秘だけなのです。今のあなたが魔王種を倒したいのであれば、己の存在すべてを攻撃に使わなければなりません。

接近で消耗している余裕などないのですよ」


対等の立場で対峙したといっても、それは精神面の話。

実力の上では、もちろん圧倒的な格差がある。

その差はベルの想定以上だったようだが、メイドのサポートによってそれは補われ、致命的になりかねない情報も得た。


なるほど、たしかに彼らは戦う準備――心構えに加え、倒す準備も終えたと言えるだろう。

あとはそれを意識し、全力で叩き込めばいい。


「じゃあ、今度こそ証明してやる。

あいつが名実ともに最高の勇者なんだって!」

「君にとって最高だからなんなんだよ。

救世主には、いつだって完璧が求められるもんだぜ?

ここに来られもしない勇者に価値があるものか」

「んなもん、オレが倒せりゃ問題になんねーだろ!!」


彼女から手を離したベルは、茨の誘導で華麗に舞いながら、魔法陣から放たれる魔術を避けて迫っていく。

悪夢の主はすぐ目の前に。いよいよ大魔王討伐の本番だ。



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