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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
2幕 逃れ得ぬものである故に

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4-悪夢の旅路・前編

まばゆい光に包まれた2人は、先程よりも穏やかな変化の中で落ち着くのを待つ。ベルは身構えていたが、リチャードはもちろん力を抜いてなされるがままだ。


歪む世界に応じて体を揺らし、やがて段々と定まっていく夢にしっかりと足をつけ、次の夢に立っている。

やはり対応しきれないベルは、またもその足元に転がっていた。


「いっててて……夢だって言うなら、直で繋げてくれよ。

なんで、出入り口から出て夢に溺れないといけないんだ」

「……」

「そんで、なんでお前は動じないんだよリチャードー」

「……? お前は歩き方も知らないのか?」

「歩行にはぐにゃぐにゃ歪む世界は含まれてねぇ!」


単に何度も経験して慣れているだけなのか、それだけ身体能力が高いということなのか。何事もなかったかのように立つリチャードは、さも当然のように言葉を返す。


ガバっと体を起こしたベルは、彼のズレた認識に堪らず噛み付いていた。とはいえ、ツッコミはすれど怒る程のことでもない。すぐに切り替えると、立ち上がって土埃を払いながら辺りを見回している。


「……はぁ。で? ここはどこで、オレは何をするんだ?」

「村だな。見覚えはないが、これが勇者の流れを汲んだ夢なら、順当に行けば誰かを助けるんだろう」

「なんだ、本当にふつーの村なのか。

助けるってのは、そりゃ願ってもないことだけど……」


彼らの視界に映っているのは、なんの変哲もない夜の村だ。

ポツポツと間を空けて木造の家が建ち、1つも明かりが漏れていないこともあってかなんとなく侘しさを感じる。


特に破壊されたりはしていないが、建物も道もあまり管理する余裕がないらしい。全体的に寂れた印象の村だった。

しばらくそれを観察していたベルは、お手上げだといった様子で両手をあげる。


「だーれもなーにも騒いでない。こんな静かな夜に、一体誰を助けるのさ。できることなんかなくないか?」

「……静かな夜だからといって、平穏な夜とは限らない。

危険はゆっくりと忍び寄るものかもしれないが、それが実際の脅威になる時は一瞬だからな。境界は薄いぞ。

殺戮と安寧なんて、紙一重の差でしかない」

「すごい世界に生きてるよな、リチャードって。

オレがまだ遠ざけられてただけかもだけど」


忠告を受けたベルは、改めて表情を引き締め身構える。

澄んでいる夜空は綺麗で、平和な村は依然として寝静まったままなのだが……


その平和の中には、確実に不穏な気配が混じっていた。

少しずつ不穏を蓄えていく平和は、やがて限界を迎えて薄い紙を突き破っていく。


「……そのすごい世界に、お前は来た。気を抜くと死ぬぞ。

夢があろうがなかろうが、まずは生きていなければ話にならない。蛮勇もほどほどにしておけよ」


突如として轟くような鳴き声が響き、夜闇を引き裂くように神秘的な輝きをまとった魔獣たちが駆けてくる中。

最初から知っていたかのように村の中央へと向かいながら、リチャードは淡々と返事をする。


彼とは違って襲撃に驚いていたベルも、すぐに気を取り直して自らを鼓舞するように声を上げた。


「うるせーなー。身の程くらい弁えてるっての。

その上で、オレ達は必死に足掻くんだろうがよ!」


魔物たちが駆けてきたのは、村の全方角からだ。

普通に考えて、ベル1人で対処できる訳が無い。

リチャードと2人でも、物量差があるのでなんの被害も出さずに守りきれるものではないだろう。


しかし、それでもベルは一歩を踏み出した。手の届く範囲は必ず守るために、犠牲を増やさないために。

中央に向かうリチャードに背を向けて、真正面から敵にぶつかっていく。


「戦い方は教わったけど、まだろくに訓練なんかしてない。

そんな状態で戦うなら、もう暴発しかねぇよなぁ!!」


広げた右手に現れるのは、さっきと同じ魔導書だ。

ペラペラと目にも止まらぬ速さでめくれながら、ぼんやりと神秘的な輝きを放っている。


やがてページが決まり、発動する魔術――現実を書き換える力の方向性を定めると、両手から一気に神秘を爆発させ……


「ガルルルァ……!!」

「キャオーン!?」

「ブォォォ!!」

「キィ……!?」


暗闇に紛れて襲撃してきていた魔獣の群れを、瞬く間に焼き払ってしまった。その力は相変わらず不安定で、チカチカとブレてはいるのだが、炎は炎。


家を数十軒まとめて焼き尽くしてしまいそうなほど広範囲なので、獣たちはひとたまりもないようだ。

反動でベル自身も転がっていたが、ひとまず彼が駆けつけた方角――村の西側は守ることができている。


当然、一面が守れたからといって襲撃は終わらない。

他の方角からは、攻撃を受けなかったことで侵入に成功した魔獣の群れが、続々と人を襲い始めているだろうから。


とはいえ、ひとまず自分の力で戦えたことは事実。

頭を押さえているベルは、落ち着いて起き上がりながら息を整えている。


「まぁ、制御できるに越したことはないけどさ……

これ、暴発だと体に溜まった魔力に加えて、付近にある神秘も根こそぎ使ってるっぽいし。

この星に在る以上、ほっとけばすぐに戻るんだろうけど……

魔導書も光らないし、しばらく無力かも。やべぇ」


魔術を使う前は体の近くを浮いていた魔導書だったが、暴発した影響なのか、今は輝きを失って落ちていた。

しかし、仮にそのインターバルが予想より長くても、その間ずっと動かないなんてことはできない。


それを拾い上げるベルは、心なしかフラつきながらも構わず次の場所へと向かっている。

自分が暴発させた魔術によって、付近の木々や村までも燃えかけている道を通って。


「というか、神秘って人でも使えるんだな。人体に順応する前の、人が扱いきれない自然のままの力的に聞いてたけど。

あ、そのための魔導書なのか?」


木々が燃えていても、村の道は土であり大自然のものだ。

焼けている空気も同じで、それらはただ在るだけで神秘を供給し続けている。


また、ベルの魔導書が使い尽くした範囲も常識内のものなので、周囲から神秘は少しずつ流れ込んでいた。

場所を移さなくとも、出力を考えればそう時間も経たずにまた魔術は使えるようになるだろう。


そのため、何歩か歩いたベルが持っている魔導書は、すぐに朧気な輝きを帯び始める。


といっても、文字通りの光ではなく、あくまでも神秘の表出――感覚的なものなのだが……

自らの意志を以て神秘の存在に触れたベルならば、目を凝らせばそれを感じることが可能だ。


魔導書の変化に気がつくと、再び右手を広げてそれを浮かべ、ページをめくらせ始めた。


「使えそうだな。さっきみたいのは無理だけど、今燃えてる炎を動かす感じなら……」


"ファイヤーウォール"


より集中力を高めて使ったのは、既に広がっている炎を操作して生み出した炎の壁だ。燃え移っていた部分も取り込み、これ以上の侵入を許さないように全方角を囲っている。


当然、もう入ってしまっている魔獣に影響はないが、この先増えないと確定しただけでも楽になることは間違いない。

どうにか成功させたベルはフッと微笑み、そのままバタンと板のように顔面から倒れ込む。


「いってぇ!? うわ、もしかしなくてもオレ気絶してたか!?

最初にぶっ放したのがマズかったなぁ。よく考えたら、その前にもリチャードを助けるのに使ってるし。

けど、中には入ったやつはちゃんと倒さないと……」

「キャーっ!?」

「!!」


すぐに飛び起きたベルは、直後、静寂を切り裂き響いてくる悲鳴を聞いて臨戦態勢になる。


無茶な戦い方をしたせいで限界が近くとも、こうなってしまうと休憩をとるなんて選択肢にも入らない。彼は一度魔導書を懐にしまうと、迷わず声のした方向に走り出した。



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