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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
1幕 その死は明日また会うために

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5-葬儀屋体験

葬儀屋が旅に加わってから、数日が経った。


その間もリチャードの無関心さに変化はない。

シエルにキツく言われているのか、夜は近くにやってくるが、日中は1人で先に進んで誰かを助けているようだった。


ベル達は移動中、たいてい修行をしているため、彼にもやることがあるのはいいことかもしれないが……

仲間なのにずっと別行動、夜もほとんど喋らないというのはやはり寂しいものだ。


そのため、一時的にとはいえ仲間が増えたことは喜ばしく、会話の増えた一行の雰囲気は心なしか明るくなっている。


場合によっては、1人を除け者にする状況になりかねないが、今のところは良い方に作用していると言えるだろう。

明るくなった面々の間では、リチャードも含めて気軽に言葉が交わされているのだから。


今朝もベルが焚き火のそばで目を覚ますと、さっそく葬儀屋が陽気に声をかけている。


「おーう、起きたか。タイミングがいいねぇ」

「ふわぁ……おはようおっさん。タイミングってなんだ?

てか、まだ結構暗いな? 早起きすぎねぇ?」


焚き火はとっくに燃え尽きており、辺りは肌寒い。

声のした方を振り返ってみても、葬儀屋の姿はぼんやりとしか見えないほど暗かった。


ベルは声で誰かを判断できていたが、どうやら普段より相当早くに起きてしまったようだ。葬儀屋は今起きたという感じでもないため、明らかに何かするつもりのようである。


「仕事が入ったんだよ。少し歩くがお前さんも来るか?」

「……誰か危ない目にあってんのか?」

「あぁ、もうシエルちゃんじゃ助けらんねぇくらいのな。

だから、メモだけ残して起こさずに行くぜ」

「えぇ? それ、オレ後で怒られないか?

もし何か起こっても、オレじゃまだ何もできないし」


連絡もせずに黙って行くと聞かされ、ベルはやや尻込みした素振りを見せる。早朝に、わざわざ自分だけを誘っているということで、多少ビビって警戒もしているようだ。


もちろん、一緒に旅をしているのは他の仲間全員と以前から面識があり、ある程度信頼できるからこそではある。

しかし、初対面の時に実力差は知っているのだから、怯えるのも無理はない。


その様子を見た葬儀屋は、特に気を悪くする訳でもなく、安心させるように笑いかけていた。


「大丈夫大丈夫、どうせリチャードは知ってるから。

何かあれば助けるだろうし、心配する必要なんてないぜ。

多分、今もどっかから見てるだろうなぁ」


彼はわざわざ伝えてはいないことを教え、暗に自分が危害を加えた場合の想定も含めて危険がないと語る。

その言葉を肯定するように、空からリチャードの剣が降ってきて地面に突き刺さった。


「……な?」

「はは、じゃあいっか。

連れてってくれ、おっさんの仕事に!」


目を凝らしてみれば、剣からは紛れもなくリチャードの気配を感じるので、彼の剣で間違いない。

奪われるはずもないし、仮に奪えるのならわざわざ引き離す必要だってないだろう。


一行は森を抜けているため、そこまで大きな木もなく、疎らに生えているだけなのだが……どこかしらから、リチャードは2人のことを見ているようだ。


剣を見たベルは、すっかり不安を払拭した様子で、いつもの好奇心旺盛な笑顔を見せていた。

とはいえ、無駄にシエルを心配させないようできるだけ静かに。2人は、死に瀕している人の元へ向かっていく。




~~~~~~~~~~




最初からしばらく歩くとは言っていた通り、死に瀕しているという人の元には中々辿り着かない。


下手したら夜と言える程の早朝なので、まだシエルが起きて心配することはないだろうが……その分、急がずひたすら歩くのは退屈だ。やがてベルは思い出したように質問をする。


「ところで、仕事が入ったってなんだ?

前聞いた感じだと、依頼される風じゃなかったよな?

他の仲間とかから連絡でもきたのか?」


神妙な面持ちで進んでいた葬儀屋は、少しぼんやりしていたが、話しかけられるとゆっくりと顔を向けていた。


「いーや? ただの感覚……まぁ、能力みたいなもんだな。

俺は死の気配を感じ取れるんだ」

「すっげー!」

「んー……正味、まったく凄くはねーだろ。

親がやってたからそれっぽい感覚が育っただけで、下位互換だしそれ以外に戦える力とかもねぇし」

「でも、オレだってもらった魔導書だけだぜ。

外付けの道具もなく、自分の力があるのは十分すごいって」


葬儀屋は自分の能力……特性を卑下していたが、本当に何の力もないベルからすれば、かなり羨ましいようだ。


やや不謹慎な力ではあるものの、町中なら人命救助、野外なら危険な場所を知るためにだって使える。

目を輝かせて見つめる彼に、葬儀屋は少し困った様子で力なく笑みを浮かべていた。


「道具に頼ってないってのは確かにそうだなぁ。

ただ、俺は今まさに死にかけてるやつしかわかんねぇぞ。

別に教わってねぇから、うちの親がどうか知らんが」

「あー、それはちょっと困るかもね」

「切実だぜ。普段からそこら中で死にかけてるやつの気配を感じてたら、葬儀屋以外の生き方とか無理だろ」

「力があればいいってもんでもないんだなー」


(よく考えたら、リチャードも似たようなもんかもな。

めっちゃ強いけど、人間らしさがないし)


最初は目を輝かせていたベルだったが、それによる苦悩なども聞くと表情を改め、色々と考え込み出して静かになる。

ここから先の道のりは、死の気配を辿るものらしく重々しい雰囲気を醸し出していた。




「……到着だ」


それからさらに十数分が経ってから、葬儀屋はようやく立ち止まる。促されて目を向ければ、視線の先には穏やかな流れだが深い川と、その中ほどにある岩場に引っかかっている人の姿があった。


「っ、なんであんなところに!?」

「徒歩にしろ馬車にしろ、魔獣に襲われて水中に飛び込んだんだろうなぁ。もう気配はないが、足跡がある。奪い合いをしていたこともあって、水中は手間で諦めたらしい」


前回同様、取り乱しているベルとは違って、葬儀屋はやはり落ち着き払って現場の分析をしていく。

煙草の煙で視界は遮られているのに、最早それに映し出しているとでもいうように正確だ。


しかし、じっくり周囲の観察をするのならば、当然すぐには救助を始められない。川を渡れず何もできないベルは、すぐに痺れを切らして詰め寄っている。


「いやいや、分析してる場合かよ!?

あんたが察知したってことは、まだ生きてんだろ!?」

「もしまだ魔獣いたらどうすんだよ。

俺は人を助けるために死ぬ気はねぇぞ」

「むぐぐ……」

「それに、名前なんかを聞けるに越したことはないが、必ずしも聞かねぇと成り立たない訳でもない。

俺達は結局、あくまでも死者を弔うための葬儀屋だ。

最優先は、確実に体を回収して死を届けること」

「わかってるっての!!」


ベルは別に葬儀屋ではないので、彼らのやり方に従う必要はない。だが、助けるために命を捨てないというのは、まさに正論である。


わざわざ付いてきたのも、最初から葬儀屋の仕事を経験するためなので、焦れったくても待つしかなかった。

その様子を見た葬儀屋は、呆れたように苦笑しながら背中の棺桶を下ろす。


「ただ、この場合は確かに緊急だな。

まだ生きてんなら、相当な苦しみだ」

「じゃあ!」

「おう、渡るぞ。ワイヤーから落ちんなよ」

「うわぁ!? いつの間に棺桶増えてんだ!?」


流れが変わったことで表情を変えるベルだったが、気付くと隣に突き刺さっていた棺桶を見て、堪らず飛び上がる。

慌てて葬儀屋の背後を見るとさっきの棺桶があるため、隣のものは確実に新しいものだ。


どこかから出したにしろ、この場で作ったにしろ、どちらにせよ人並み外れた神業である。


しかし、当人からすれば日常的なのだろう。

着々と助ける準備を進めながら、彼の声にも動じず澄まし顔で返事をしていた。


「ん? 特技、"一瞬で棺桶を作る"だ」

「それは最早なんかの能力だろ!?」

「凡庸な技能も極めりゃ魔法ってな。

まぁ、そんな大したことじゃねぇからサクサクいくぞー」

「大したことじゃねぇってっ……そうかよ、わかったよ!」


目を剥いていたベルだったが、望み通りにすぐ助けに行けるとなれば、それ以上言っていられない。

この短時間で、ワイヤーを結ばれた棺桶が岩場近くまで放り投げられていたため、迷わずその道に足を伸ばす……




「どわぁぁぁぁッ、めちゃくちゃ不安定じゃねーか!?」


ワイヤーは、投げられた棺桶と後ろに置いた棺桶の間に伸びているだけの、非常に細くて揺れも激しい道だ。


最初の方ならまだマシだったが、岩付近まで近付くとそれはもう揺れる。川面は平坦なのに、反復横跳びでもしているのかというほど揺れ動いていた。


ただ立っているだけでも大変なのだから、まともに進むことなど当然できやしない。それでも進まざるを得ないベルは、両手両足で必死にしがみつきながら、絶叫していた。


だが、やはり慣れている様子の葬儀屋。

地上と変わらない様子で先を進むどころか、自身から揺れを発生させることなく振り返り、言葉を投げかけている。


「ただのロープに盤石の足場を期待するもんじゃねぇよ。

あと一応言っとくけどよ、俺じゃ助けられる自信ねーから、マジで落ちるな? 死にゃしねーとしても、遭難すんぜ」

「他人事のように言うなよ!?

ほんと、シャレに、なんねぇってぇぇぇぇっ!!」


葬儀屋の注意も虚しく、ベルは揺れるワイヤーに弾かれる形で吹き飛んでいく。


最終的にはかなりの振れ幅になっていたため、反動で飛距離は相当なものだ。びよよ〜んと弾け飛び、綺麗な弧を描いて空高くから水面へ……


「バカタレ!! 自分のツッコミで揺れてんじゃねぇ!!」


水面へ、小さな体が叩きつけられる直前。

怒鳴った葬儀屋の腕から伸びるワイヤーが彼を捉え、先端のミニ棺桶を軸にぐるぐると絡め取る。


「ぐえぇ!?」

「あー……まぁあれだ。上手いこと受け身取ってくれや」

「やめろぉぉぉぉっ!! 遭難より先に死んじまうぅぅぅっ!!」


たとえワイヤーが捕らえても、そのままでは結局川に落ちるだけ。続けて行われるのは、もちろん力尽くでの上陸だ。

すなわち、大きく弧を描いた威力のまま叩きつけられる、命懸けの墜落である。


体が引っ張られ、水面から引き剥がされ、段々と岩が近付いてきたのを見て察したベルは、力の限り叫んでいた。

しかし、ワイヤーの上で体勢が安定している葬儀屋も、なぜか焦った様子で怒鳴っている。


「お前さんが死んだら俺が殺されるんだぞ!?

受け身を取れぇぇぇッ、死ぬなぁぁぁぁッ!!」

「なんであんたが怒るんだ!?

それならやめろよぉぉぉぉぉ!?」

「あぁぁぁぁぁッ!!」

「うわぁぁぁぁっ!?」


川の上には、2人の叫び声が響き渡る。

だが、そのほんの数秒後。いつまでも轟くと思えた騒音は、さらに大きな地響きによってかき消された。



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