深い夜
間宮さんが予約してくれたお店は、オシャレなイタリアン料理のお店だった。
お店の奥は個室になっており、さすが間宮さんのセンスだなと思った。
初めは緊張していたが、美味しい料理や料理に合わせて出されたワインを楽しんで会話も弾み、気付いたらタメ口になったり敬語になったり最初よりは緊張が解けてきた。
「じゃあ、実は近いところで仕事してたんだね」
間宮さんはちょっと驚いた顔で私に聞いてきた。
「そうですね。間宮さんの先輩方とは仲良くさせてもらってますし」
「えぇー、俺とは仕事被らなかったってことは避けてたでしょ」
「そりゃバレたら気まずいと思って。バレてると思ってなかったですけど……」
城ちゃんにバラされてさえ居なければ……今思い出しても怒りと恥ずかしさが湧いてくる中、間宮さんが追い打ちをしてくる。
「城ちゃんに言われなくても、俺気づいてたけどね」
「え……?それ、どーゆー……」
「さてと、そろそろお店出ようか」
「ちょっと待ってください!」
「ん?」
ニヤニヤと笑っている間宮さんに意味がわからない私は慌てることしか出来ない。
「まだ時間ある?」
「ありますけど……」
「どっかで飲み直さない?ちゃんと話すから」
「……分かりました」
会計のところまで行くと間宮さんはそのままお店から出ようとし、店員の男性にも「ありがとうございますございました」と見送られる。
「あの、お金……いつのまに……私も払いますから」
私は財布を取り出そうとすると手で財布を取り出さないように制された。
「今日は財布持って来ないでって言ったよね?」
怒る訳でも無く、諭すように私に言い聞かせるように話してくる。
間宮さんから日程の連絡をいただいた日、「誘ったのは俺だから、財布は持ってこないでいいよ笑」なんてきたが冗談だと思い、財布はもちろん持ってきたのだが……本当に払わせてはくれないらしい。
にしても、いつも間にお会計を済ましていたのだろうか……。
「そーゆー事は気にしなくていいの。素直に甘えてくれた方が嬉しいし。俺の見栄に付き合ってよ」と言われてしまい、私は渋々取り出そうとしていた財布から手を離した。
「じゃあ、2件目はご馳走させてください」
「財布持ってこなくていいのに」
申し訳なさに提案してもこの人は受け入れてくれ無さそうだ。
―――――――――――――――
お店から出て少し歩いて行くとオシャレなBARについた。
「ホントに手慣れてますね」
声優、言うても芸能界だ。きっと色んな方から誘い誘われてるんだろうな、なんて考えていると、マスカットのカクテルが目の前に出された。
「てきとーに頼んじゃったけど、マスカット大丈夫だった?ここ、果物のカクテルが有名なんだってさ」
サラッとだされたカクテルは薄緑色が綺麗で爽やかなマスカットの香りがした。
「わぁ、美味しそう……」
「だな」
間宮さんの前にも同じものが置かれていた。
乾杯。と言い、一口飲むとマスカットのフレッシュさとほのかなアルコールが広がった。
「美味しいー!」
「良かった」
お礼を言うと、間宮さんは俺は何もしてないよ、と言ってお酒を飲んでいた。
「で、さっきのどーゆー意味ですか!」
「ん?」
「ん?じゃなくて!」
「……10年以上前かな……ラジオ局にいたでしょ?」
「あぁー、私が初めて入社した会社かな」
「だと思うよ。西田さん、覚えてる?新入社員が珍しく入ったって言ってたから」
「それは……私ですね」
「あのラジオ局で、何度か見掛けたからさ 」
「……見間違い……」
「俺が見間違えないよ」
「あと、ソファで寝落ちてたでしょ」
「…………え」
「いつだったかな、廊下のソファで寝てるところ見つけてさ……上着かけたの俺なんだけど」
「……嘘……え、あれ谷中さんのじゃないの!?」
「俺の。谷中さんが代わりに上着預かってくれたんだよ」
「恥ずかし……」
「女の子があんな所で寝てちゃダメだよ」
「あの頃だけですよ!」
まさか10年以上前のことを覚えいるなんて……
恥ずかしさのあまり私はカクテルを飲み干した。
「次、どうする?……そだ、お互いがカクテル注文する?」
「……酔って潰そうなんてしないでくださいよ?」
「そこまで飲ませないよ。まぁでもそうなったらちゃんと介抱するから」
「うーん、まぁ、面白そうだし、私も選びますね!」
2人してお互いのを注文すると、私の前にはライラ、間宮さんの前にはアプリコットフィズが置かれた。
「間宮さん、アプリコットフィズの意味知ってますか?」
「……いや?なんかあるの?」
「……気にしないでください。あと今は調べないでください」
深い意味はなかった。……ただちょっとしたお遊びだ。
役者の人と二度と付き合わない、と決めてるから。深い意味は無い。
間宮さんが選んでくれたライラ……普段は飲んだことないそれはアルコールが強かったがマスターの腕がいいのか、とても飲みやすくてあっという間に飲み終わってしまった。
そして、次もお互いが頼んだ。
私はベルベットハンマー、増田さんはブルドッグを頼み、お互いの目の前に置かれた。
だいぶ酔いが回ってきて、そろそろ帰ろうか、話になり、またもやいつの間にか会計が終わっていてお店の外に出た。
お店の外に出ると少し肌寒くなっていた。
「間宮さん帰りは電車ですか?まだ電車あるので私
」
そう聞こうとしたら、突然手を掴まれた
「まだ帰したくないって言ったらどうする?」
あくまでプロデューサーと役者。そして、ファンと推しだ。
一線は越えてはいけない。ただでさえプライベートでご飯なんて……。
「ごめん、困らせてるよね」
「……」
「でも、ほんとにまだ一緒にいたい。ここでさようならなんてしたくない。莉乃のこともっと知りたい」
手をぎゅっと握られ、耳元でそっと囁かれた。
「手はださないから……俺の家来ない?」
そーゆーところがほんとにずるい。
逃げ道を塞がれる。
そして、気付いたら二人でタクシーに乗っていた。




