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絶賛おしごと中  作者: 城井流歌
2023年
2/6

危険な非常口


「ねぇ、きみ、イベント来てるよね?」


雨宮莉乃、絶賛ピンチです!!!!


2023年8月某日


「とうとう来てしまった...」


猛暑日となった今日、燦燦と降り注ぐ太陽とは裏腹にどんよりした顔をする雨宮莉乃。


今日は私がプロデュースするイベントのパンフレット撮影。

イベントは人気声優陣を迎えた朗読イベント。


今の会社に転職してしばらく経ち、任された大きな仕事に初めは気合い入っていたが、想定もしなかった推しとの仕事となってしまった。


何故こんなことになったのか...今回の朗読は人気漫画原作ということで原作者の先生の意向により決まったキャスティングとなった。

キャストの候補は私が出したものだが、まさか本当に間宮和樹さんが選ばれるなんて...


昨日は瑠衣ちゃんに散々どうにかなる精神で今日を迎える話をしていたが、一晩経って推しと仕事をする時が刻々と近付いてきて表向きは素知らぬ顔をしているが、内心ずっと帰りたい気持ちが増している。


私はぱちんと頬を叩き、気合を入れると落ち着くためにもパソコンを開き、仕事のメールをチェックし始めた。


その間も撮影メインスタジオでは、カメラマンさん、アートディレクターさん、控え室ではヘアメイクさんや衣装さんが忙しなく準備をしている。


私は邪魔をしないように別室で作業していると中低音の男性の声がスタジオに響いた。


「おはようございます」


その声を聞いた私は頭を抱えつつも、仕事と推しは別だから...と開き直り、別室からスタジオへ向かった。


――――――――――――――――――――――――――――


「あれ?間宮さんは?」


私は意を決して、間宮さんに挨拶をするために控え室に向かったがそこには間宮さんの姿はなく、ヘアメイクさんと衣装さんがいた。


「間宮さんなら私たちがバタバタしてたからなのか、外の非常口へ行っちゃいましたけど」


何度か間宮さんのヘアメイクをしている加奈さんこと川口加奈さんはその様子に慣れているようで「間宮さん、人見知り激しいから居づらかったのかな」とニコニコとそれでもテキパキと手を止めずに準備しながら話してきた。


私は心の中で『人見知りするって聞いた事あるなぁ』と思いながらも知らないフリをして加奈さんに答えた。


「さすがに猛暑日ですし、ここの非常口、外なんで...私、中で休んでもらうように声掛けてきますね!挨拶もまだですし」

「そうね、汗かかれてもメイク大変だし、お願い!」


控え室を後にすると、勢いとは裏腹に思い足取りで非常口階段へと向かった。


――――――――――


普通の非常口。よくある重い鉄のドア。

この奥に間宮和樹さんがいると思うと、さらにこのドアが重そうに見える。


女は度胸。どうせバレない、たかが一ファンだ!そんな気持ちで非常口のドアを思い切り押して開けて出ると、外の熱気が一気に身体にまとわりついた。


薄暗かった室内から一気に外の日差しが目に入り、眩しさに少し顔を顰めると直ぐに男性の後ろ姿が目に入る。


「間宮...和樹さん...ですよね?」


思ったより普通に声をかけた私は自分自身に驚いていた。

そして、振り返ってこちらを見てきた男性こそ、間宮和樹。私の推しだ。


少し長めの髪に綺麗な顔立ちの男は私を見ると目を見開き少し驚いた顔をしたような気がした。


そして、間宮さんが手を伸ばしてきたと思うと私を手首を掴み、引っ張られると非常口に出され、押戸で開けたドアに手をかけるとガチャンと音を立てて閉められた。


「え!?」


私は思わずビックリして声を上げていると、間宮さんに壁ドンならぬドアドンをされていた。


「ねぇ、きみ、イベント来てるよね?」

「はい?」


この人は何を言ってるんだろうか、状況が理解出来ず、パニック状態の頭をなんとかフル回転して咄嗟に私は答えた。


「誰かと勘違いしてませんか?」

「嘘。俺が見間違えるわけが無い。莉乃さん、でしょ?」


じっと真っ直ぐな目で見られ、まるで私の嘘を見透かすような眼差し、そしてまさかの名前を呼ばれたことに動揺し、私はすぐに降参した。


「ごめんなさい。嘘吐きました。たしかに間宮さんのイベントに行ってます...けど、今日は仕事で、私は今回のプロデューサーとして居ます。公私混同はしません!だから...」

「ごめんごめん。別に怒ってるわけじゃないよ」


ふふっと笑いを堪えきれず、くしゃっと髪をかきあげると片手を差し出してきた。

私がぽかんとしてると「握手」と呟き、わけも分からず握手をした


「プロデューサーの莉乃さん、よろしくね?」

「あ、、、はい。じゃなくてなんで名前...」

「だって、何回かサイン会来てくれてるでしょ」

「どこまでバレてるんですか...」


私は呆れつつ隠すのを諦めた。

間宮さんは妖艶にニヤッと笑うと、そっと自分の唇に人差し指を当てるとポツリと呟いた。


「秘密」


男性ながら色気のある仕草にドキッとしたが、仕事中ということを思い出し、慌てて間宮さんと距離を取った。


「そうだ、間宮さん!ここ暑いから控え室行きましょ?」

「......キミもいる?」

「控え室には居ないですよ、さすがに」

「えー...」


クールで物静かなイメージの間宮さんが子どものように拗ねているのが少し可笑しくて微笑ましく思ったが、さすがに演者の控え室に居座ることは出来ない。


「別室にはいますから」

「まぁ、それならいいけど」


あまり納得はしていないような返答だが、大人しく非常口から控え室へ戻っていく間宮さんにほっとしつつ、私も撮影時間までスタジオへ戻った。


―――――――――――――――――――――――


「お疲れ様でした!」


撮影も無事に終わり、片付け作業をしつつ撮影中間宮さんのマネージャー・青山美紅(あおやまみく)さんとも仲良くなり、名刺交換もし、世間話をしつつファンだと言うことは間宮さんからきいていないようで安心しきっていた。


「次は稽古ですかね?」

「ですね、詳細は改めてご連絡しますね!」

「かしこまりました!引き続きよろしくお願いします」

「稽古でもよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします!」


エレベーターまで見送り、エレベーターの扉がしまった瞬間どっと疲れが出てその場に座りんだ。


「稽古でもよろしくお願いします、か。...間宮さん、含みのある言い方するなぁ...こっちはオタバレしないように必死なのに...」


意図があるのか無いのか、本心は本人しか分からないが、サングラスから見えた目はおもちゃを見つけた子どものように輝いていたように見えた。


「瑠衣ちゃんに相談しよ...城ちゃんにも聞いてもらいたいけど...あの二人、気は合うのに仲悪いからなぁ...」


重い腰を上げて、私は残りの仕事の片付けとこの後どうするかに思考を巡らせつつ、朝よりも軽い足取りでスタジオに戻っていった。


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