嵐の前の静けさ
「仕事したくない!!!!」
雨宮莉乃、現実逃避中。
2022年8月
「はぁ、、、気が重い。仕事したくない。明日なんて来なきゃいいのに」
「なに、珍しいじゃん。仕事大好きの莉乃が仕事したくないなんて」
「聞いてよ、瑠衣ちゃん!」
私は水島瑠衣。
そして、盛大なため息をついた子は私の大親友の雨宮莉乃。
学校も仕事も違い、見た目も派手な金髪な私とは違い黒髪清楚系な莉乃。
真面目で優しい彼女がこんなにも仕事を嫌がるなんて今まで見たことも聞いたこともなかった。
「なに?どうした?」
「それがさ...」
莉乃が仕事を嫌がる理由を聞いて、私は笑ってしまった。
「もうそんな笑わないでよ!?私にとっては死活問題なの!」
拗ねる彼女に可愛いなぁと思いつつ、同じ歳で32歳独身同士。過去に色々あったのにそんなことは微塵も感じさせない莉乃の素直さと天真爛漫さに私はそんな彼女がずっと笑顔でいてくれるなら私も幸せだなと思った。
「ごめん、ごめん」
未だ笑いを堪えきれないながらも謝ると莉乃は話し始めた。
そんな彼女が仕事をしたくないと言う理由が...
「だって推しと一緒に仕事なんて推しにバレたら怖いんだけど!?二度とイベント行けない!!認知もされたくないのに!!!」
とまぁ、そんな理由である。
「でも、そんな認知とかするような人なの?間宮和樹だっけ?莉乃の推し」
「そう、間宮和樹さん!たしかに認知するような人じゃない...と思う。ってか、何十万とファンがいるのに認知される方が怖いって...」
間宮和樹、人気若手声優であり、そのファンは50万人以上。女性人気があるが私は別にファンでもない。
ただ何回か莉乃に付き合わされ、何度かイベントに行き見たことある顔は綺麗な顔でイケメンってより美青年だな、という印象があった。
「推してもう10年?」
「14年...」
「バレてるかもね。莉乃、たまにやらかしてるし」
ニヤニヤと笑うと本気で頭抱え始めた莉乃に頑張れーと棒読みのエールを送り、私は莉乃お手製のケーキを頬張った。
「そもそもやらかしたのは全部偶然というか、やらかしたくてやらかしてるわけじゃないから!」
この子は、やらかしではないが何故か間宮和樹とエンカウントしている。
飲食店や電車、街中でたまたま遭遇している。
そんなことあるのか?この広い東京で、と思うが世間は狭い、というやつなのだろうか。
ちなみに莉乃本人は出会っても知らないふりをしている。
莉乃曰く「間宮さんに迷惑だと思われたくない」とのことである。
「もうなんとかなると思うしかないかなぁ」
「そうそう。人間諦めも大事よ」
「同じこと城ちゃんにも言われた」
「は?アイツと同じは嫌なんだけど」
城ちゃんことアイツこと城山健太郎は莉乃の悪友であり、莉乃の推し『間宮和樹』の同業者の声優である。
仕事で莉乃と城山は仲良くなったようだが、私が城山が嫌いだ。理由はない。いや、あるとすれば莉乃を取られるからだ。アイツのこと考えるとそれだけでイライラするのでこれ以上アイツの話はしたくないのでここまで。
「ほんと瑠衣ちゃんは城ちゃんのこと嫌いだよね」
「嫌いってレベルじゃないほどに嫌い」
「いい人だよ?変態だけど」
「莉乃、あんたは騙されてる。変な男に引っかからないでね!?その前に私がチェックするけど」
「んー。それは無理かな。私、男見る目無いし」
「それは間宮和樹も含まれるんじゃ?」
「間宮さんは推しだから関係ありませーん。少なくとも元彼はダメ男だったでしょ」
「アレはクソ」
「そーゆーこと言わない。否定はしないけど」
「ってか、莉乃、彼氏作らないの?あのクソと別れてもう10年以上じゃん」
「もうそんな経つかー。仕事忙しくて恋愛なんて二の次だもん。ってか、もし次付き合うなら結婚前提じゃなきゃ無理」
「分かるわぁ」
結局2人揃って結婚しなくてもいいかーなんて言いながら笑っていたが、数ヶ月後まさかあんなことが起きるなんて私はその時は思ってもいなかった。




