金髪の先輩と空想ごっこすることに!?
ここにいれば大丈夫
私は屋上の貯水槽の影に座り込んでいた。
私の名前は川本瑞樹、高校1年生。
入学して早々、私には学校に居場所がない。
昔から夢見がちな私は、割とフワフワした空想の話をするのが好きなんだけど、友達には、煙たがられてしまって、教室でも1人だ。
中学の時は、理解してくれる友達がいたけど、その子は違う高校に行ってしまったから。
だから、私はここに来る。ここでいれば、誰にも見つからない。
私だけの秘密基地だ。
そうして、ここで空想をするんだ。
空にこのまま浮かんで、海外の好きな国へ観光したり、海の水を自由きままに操って、雪や雨を降らせたり。
そんなことを屋上で夢想する。
私が空想の世界に入り込んでいると・・・。
「何してんだ?」
「ひっ!」
思わず悲鳴が出る。
私が、座って空想していると、空の上から声がした。
天使?
こわごわ見ると、屋上にある貯水槽の横の何かの建物の上に横になっている3年の先輩を見つける。
上履きの色で学年が分かる。
建物は結構高いのに、どうやって登ったんだろう?
先輩の髪は金髪に染めてて、明らかに校則違反だ。
怖そうかも・・・。
「ご、ごめんなさい!!」
怖くて反射的に謝る。と、同時に、ここは私の逃げ場だったのに、もう来られないなという残念な気持ちになる。
「謝んなくていいって、何してんの?こんなとこで」
先輩は、一瞬起き上がると、そう言ってまた横になる。
「えーと、教室に居場所がなくて、お昼休憩とかここに来てるんです」
私は仕方なく打ち明ける。
だって、ここを去っても行く場所がない。
「ふーん、俺もここに良く来るけど、会わなかったな」
「ここ、本当は立ち入り禁止なんですよ」
私はもしかしてそう言えば来ないかな、と淡い期待を込めて、先輩のいる方向へと話す。
「じゃあ、邪魔されなくていいな。お前、教室居づらいの?」
先輩に微妙に話を変えられてしまった。これじゃあ追い払えそうにない。
「はい。人と話すの苦手で。未だに教室にいても友達いなくて1人だから、恥ずかしくてここに逃避してきてます」
「そうなんだ、じゃあお互い口外無しってことで」
「あ、はい・・・」
先輩にそう言われ、私はまた、貯水槽の横に座り直す。
人がいると思うと、想像を自由に楽しめないな・・・。
気が散るというか、軽いストレスというか・・・。
「ここで何してるの?いつも」
ひょいっと先輩がまた起き上がると私に問いかける。
それにしても綺麗な金髪だなぁ。
私はここまで潔いのも凄いなと思いながら先輩を見る。
こんな堂々と校則違反できないや。
「ええと、空想、とかです」
笑われるって思ったけど、もしかして、引かれてもう来なくなる可能性にかけてみた。
高校のこの学校のクラスメートには一人残らず引かれたから・・・。
「空想ね、へーどんなの?」
意外にも先輩は笑わなかった。
私はこの屋上から鳥になって飛び立つとか、星になって世界を眺めるとかそんな夢物語のような話をした。
先輩は黙って私の話を聞いてくれてた。
そして、私の話が終わると、私の顔を初めて見た。
「面白いこと考えるんだな。俺には考えつかない。お前、発想力すごいな。俺もたまに考えるよ。屋上から落ちたら全て終わりに出来るんじゃないかって」
「だ、駄目ですよ!自殺なんてっ!」
先輩は、私を見てクッと笑う。
「しないよ。お前と同じ空想だよ」
私は先輩を見て首を傾げた。先輩はずいぶん絶望的な空想をするんだな、と思った。
「えっと・・・」
何だか放っておけない気がした。
私は先輩を見て言う。
「先輩は、世界旅行ならどこへ行きたいですか?」
「旅行?あー、オーロラ見たいな」
「いいですね!じゃあ、オーロラ見に北極に行きましょう!空想ですけど・・・。氷の家を作って、かき氷シロップ持っていきましょうか?」
私が、そう提案すると、先輩は考えた。
「コートとカイロもいるんじゃないか?」
「そうですね!あ、カメラもいりますよ。ペンギンとかオーロラ、記念に撮りたいですよね」
「荷物が凄いことになりそうだな」
私と先輩は、空想でオーロラを見に行くツアーを体験した。
意外なことに、先輩と空想の話をするのは、とても楽しかった。
クラスメートには馬鹿にされたり、あしらわれたりで、馴染めなかったから。
しかも、先輩は、いろいろ思いついて話してくれるから、会話が進む。
「フィンランドとか、北国の建築も見たいですね」
「あー、木で出来てるんだっけ?そうだな、どんな家なんだろうな」
「帰りに寄っていろんな北国の建築も見て回って、国ごとに比べてみたいですよね!」
「そうだな、ついでに名物とか買ってこようぜ。お菓子とか木のおもちゃとかか?意外と名産って知らないよな・・・」
ひとしきり夢中になって話すと、授業の合図のチャイムが鳴った。
私は名残惜しいと感じながら立ち上がった。
「先輩、お話に付き合ってもらってありがとうございました、授業があるので行きますね!」
「待って!」
すると、先輩は、上からヒョイッと軽やかに降りてきた。そして、私の右手をいきなりつかむ。
私がびっくりしていると、先輩は、私に焦ったように話しかけてくる。
「次、いつここに来る?」
「え?えーと、昼休憩は大抵ここにいますけど」
私が、答えると、先輩は、頷いて言う。
「また、空想の話、聞かせてくれないか?俺の空想は暗すぎて憂鬱になるから」
そう言われて私は凄く嬉しいと感じている自分に気づいた。
「はい!いいですよ、私も話すの楽しかったです」
思わず笑顔になる。
「そうか、良かった」
先輩が笑う。何だか笑顔が眩しい。
「じゃあ、また明日来ますね」
私は少し照れながら挨拶をした。
「ああ、また」
先輩にお辞儀をして、屋上のドアを閉める。
屋上にいく楽しみがより増した気がする。
学校でこんなにワクワクするなんて、いつぶりだろう。
私は早く明日にならないかな、と考えたこともない思考を頭に思い浮かべながら午後の授業へと向かった。
「先輩、こんにちは」
私は、屋上に続くドアを開けると、先輩にいつものように挨拶する。
「ああ、来たか」
屋上で寝っ転がっていた先輩は、私に気づくと起き上がって綺麗な金髪を揺らして私に笑いかける。
あれから、先輩とはよく昼休みの時間に屋上で話すようになった。
怖そうな印象だった先輩も、話すと笑顔も見せてくれるし、優しかった。
私がいつも屋上で空想していたことを聞いても、先輩は、笑わずに聞いてくれて、また聞きたいって言ってくれた。
だから、私は昼休みの時間がいつも待ち遠しかった。
「先輩、今日はどんな空想がいいですか?」
「俺に聞かれてもなー。お前のほうが考えるの得意だろ」
先輩の横に座って聞くと、先輩は困ったように頭をかいた。
「先輩って、私の空想に乗ってくれる時、凄く面白い事言ってくれるので、今日は考えてくれませんか?」
私が、先輩になおもお願いすると、先輩はしばらく考えると私を見る。
「じゃあ、動物になるのはどうだ?」
「いいですね!先輩は何になりたいですか?私はそうですねー。鳥がいいです!」
「そっか、鳥なら、遠くまで行けるよな。俺も鳥になろうかな。そしたら、一緒に行けるな」
先輩は優しい笑顔を見せる。
「そうですね」
私も思わず笑顔になる。
先輩と話していくうちにだんだん笑顔が優しくてなっている気がする。
少しは打ち解けてきているかな?
「遠くに行くなら鳥ですよね!白鳥とかなら遠くまでいけるかも。この学校からどこへ行きましょうか?北、南?」
「北もいいけど、暖かい南もいいかもなー」
先輩は空を見上げながら言う。
今日はお日様の日差しが出ているものの、まだまだ寒い。
私と先輩は、多分同じだ。
教室にいたくないから、寒くてもあえてここを選んでる。
先輩の事情は知らないけど、きっと何かあるんだろうなと思った。
聞いたりはしないけど。
「賛成です!あの、私、南のフルーツとかあまり食べたことなくて。いろんなフルーツを食べに行きたいんですよね」
「それいいな、俺も南のフルーツといえばバナナ位しか食べたことないな」
と先輩。
「えー、先輩、マンゴーとかは食べたことあるんじゃないですか?後はドラゴンフルーツとか、スターフルーツとか、いろいろありますよね」
私が、先輩に問いかけると、先輩は、手を叩いて言う。
「そうか、マンゴーは食べたこと・・・いや、ガムとかそーいうのではあるけど、実際に食べたことないぞ。他にもいろいろあるんだな、南のフルーツ、調べてみる?」
そこで、先輩は携帯電話を取り出すと、ネットで南のフルーツの情報を調べだした。
携帯電話は本当は校内に持ち込み禁止だけど、先輩授業出てるのか分からないし、多分没収されることもないのかな、と思った。
私は、先輩のスマホの画面を覗き込む。
「ちゃんと特徴覚えないと間違って毒のあるのを食べちゃいますよね」
「だろ?マンゴーはちゃんと覚えて食べたいよな」
「マンゴーなら私食べたことあるから匂いでバッチリわかりますよ!」
そんな感じでワイワイ2人で南の国へと鳥で飛び立つ空想をひとしきり楽しむ。
そうしていると、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「早いよな、昼休みって」
先輩は、チャイムがなると不満そうな顔で携帯をしまった。
「そうですね、もっと話したかったです・・・」
私が、しょんぼりと言うと、先輩は、私の肩をポンと叩く。
「今日、放課後ヒマ?部活は?」
「部活は帰宅部です、放課後・・・会いますか?」
私は先輩の言葉にドキドキしながら問い返す。
新しい冒険が始まるような、そんな気分。
「空想でも実現できる部分はあるぞ」
そう言う先輩。ん?と首を傾げる私に笑いかける。
「マンゴーパフェとか、南国のフルーツのスイーツ出してる店、知ってる。俺だけで入ろうと思った事ないけど」
「えっ、凄い名案です!行きたいです」
先輩の提案に目を輝かす私。
先輩は私の目の輝きにフッと軽く笑った。
「お前ならそう言うと思った。じゃあ放課後行くか」
そう言って、私の頭に手を置く。
急に頭に手を置かれて戸惑いながら返事をする私。
「は、はい」
何だろ・・・何だかくすぐったいような暖かい気持ちが沸いてくる。
私と先輩は、その日空想の世界から飛び出して現実の街へと冒険する約束を交わした。




