あの日の花をコスモスを、もう一度見せてください
政略結婚のはずだった。
家格の合う同士。年齢も程よい。
情熱的な恋でなくて良い。
平和な生活が一番だとマリカは思っている。
ただ、初めてその男性、エドアルドに会った瞬間、マリカの心が騒いだ。
どこかで、お会いした方だろうか。
何故なのだろう。懐かしかった。
とてもとても、懐かしかった。
何度か一緒にお茶を飲み、互いの領地にも赴いた。
「マリカさんは、何が好き?」
「お花が好きです」
「では、季節の花を、たくさん植えよう」
婚約してから半年で、マリカは結婚した。
晴れた秋の日だった。
挙式後すぐに、新居へ向かう。
夫となったエドアルドは、馬車からマリカを横抱きにして邸に入る。
彼の横顔に、マリカの胸が騒ぐ。
「ようやく、二人きりになれたね」
夫婦の部屋に入ると、エドアルドはマリカを抱きしめ静かに言う。
「ずっと、ずっと待っていた。君を」
トクン……。
待っていた? 私を?
やはり、何処かで出会っていたの?
でも、一体何時?
「見てごらん」
エドアルドはカーテンを開ける。
「!」
窓から見える庭園に、咲き誇る薄紅色の花。
所々に白い花弁も揺れている。
一枚の絵画のようだ。
「綺麗」
その瞬間。
マリカの脳裏に、風景が蘇る。
あれも秋の日だった。
川の土手には、秋の花が色鮮やかに咲いていた。
マリカは真っすぐな黒髪を肩で揃え、この国の衣装ではない服を着ている。
――秋桜という花だよ
教えてくれたのは、近所のお兄さんだ。
髪を剃って、金ボタンの付いた黒い服を着ている。
『きれい。まるで絵みたい』
マリカの言葉にお兄さんは笑う。
あれは何時? この国ではない何処か?
――僕はもうすぐ出兵する。
『しゅっぺい? 兵隊さんになるの?』
――この国をこの景色を、守りたいからね……いや国だけじゃない。
守りたいんだ、まりちゃん、君を。
吹く風に、花びらが舞い上がる。
「あ、ああ」
マリカの目に涙が浮かぶ。
あれは嘗て住んでいた国が、何年も戦争をしていた頃。
お兄さん。有人お兄さんは、遠い異国で花びらよりも、儚く散ったという。
まりという少女は、その後、帝都のお茶屋に売られて行った。
そして……。
帝都を無数の火の玉が襲った晩に、川べりで命を落とした。
お兄さんと見た、あの花をもう一度見たいと願いながら……。
ほろほろ流れるマリカの涙を、エドアルドはそっと拭う。
「想い出したかい?」
「ええ……」
いつの日か、何処かでもう一度、会えますように。
出来れば秋の花の咲く頃。
二人の願いは、異世界で結実したようだ。
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平和が一番。