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酒罵微忘碌  作者: 久世
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初対面クリスマスディズニーデート大作戦

 うちの会社は特殊だ。


 男性社員のみで構成される会社なのだけれど、彼女や奥さんがいないと給与を下げられるというとんでもない謎ルールがあった。そう、ほんのちょっと前まで。


 世が世ならというか、今の世の中的にアウト案件な気はするが、全員それに同意して働いているのだから、ぜひもない。


 さて、僕は僕で、従来は中高6年間男子校で純粋培養された純情ボーイである。この会社のおかげで(せいで?)夜の街の夜のお店にも徐々に慣れてきたとはいえ、ちゃんとお付き合いすることになる女性と出会うのは、もう少し先の話になる。


 彼女がいない期間がそれなりに続いていたわけなので、あれやこれやと、社長以下社員一同が半ば強制的に僕に彼女を作らせるための圧をかけてくるのが日常だった。年末年始の親や親族からのはやく結婚しなさいよ圧と似たようなものだが、仕事上の同僚先輩上司たちからという点、給与に連動しているという点をふまえると、強力極まりない圧力となる。


 すっかり感覚が麻痺していたが、世が世なら……ではなく、今の世の中的にはアウトな内容ではあるのだけれど、何度でも言おう、そういう会社だと知って同意・賛同して入社しているのだから問題はない、はずだ。


 いろんなパターンの追い込みがあるのだが、その一つが社内の全体会議での定時報告だ。


 全社員が参加して行う、ごく真面目かつ真剣なプロジェクトの進捗報告や会社の方針共有に混じって、彼女いない組の「今月のアポ状況」なる報告が義務付けられていた。


 つまりは、毎月何件(何人)とアポを取って、それがどこのだれそれちゃんで、いつどこで何をして、その時の感触や今後の見込み、確度はどの程度か、いつ頃クロージングするのかなどを事細かに説明をするという仕事である。女性側からしたらとんでもないことだろうとは思うのだけれど、コンタクトする女性側にも、そういう変な習わしのある会社で働いているということも概ね伝えていたのだから、報告に関しては、一定の許諾は得ていると考えて良いだろう。


 新規の案件を獲得した時や、既存の案件に進展があった時などは良いのだが、「今月は新規開拓はなく、先月までの既存案件に集中する形で引き続き……」なんて報告しようものなら「その案件ってさ、いつから温めているの?」「結局、見込みはどうなんだ」「そろそろ何らかのアウトプットがないと査定の時期だよ」などと集中砲火を浴びる。全社員の前でだ。


 いくら仕事が忙しくて、プライベートに割く時間が取れなかったとしても、「どっちが重要だと思っているんだ」という返しが待っている。もちろん、彼女を作る活動の方が重要という意味であるが、実際にそれを優先して仕事が疎かになっていれば、言うまでもなく、それはそれで責任を問われるのは間違いない。


 そんな中、寒い冬、クリスマスシーズンが目前に迫ってくる。


 来なければ、いいなと思った、クリスマス

 拒否しても、やってくるのね、クリスマス

 かつてない、とても憂鬱な、クリスマス(字余り)


 新規案件を取れずにいると、「クリスマスに何の予定もなく過ごす気じゃないよな」と、ドスの効いた声も、徐々に、あちらこちらから聞こえてくるわけだ。困った僕は、意を決する。


「とりあえず、クリスマスといえば、ディズニーデート。ディズニーデートを前提として、周辺のホテルだけは押さえておくか」


 これが11月の半ばぐらいだったろうか。一応、宿泊しても良いように、きちんとしたお高めの部屋をブッキングした。


 この時点で相手はいない。いない相手とのデートに向けて「ホテルは先に押さえた」というのは、ほとんど定時報告用のネタであり、実績づくりであり、その上で、万が一うまく行きそうであれば、そのまま使えば良いだけでもある。


 しかし、矢尽き、刀折れ、無情にも時はすぎて12月23日となる。困り果てた僕は、腹をくくる。


「とりあえず誰でもいい、ディズニーデートまでは漕ぎつけよう。その結果がどうあれ、爪痕だけは残さねば……」


 さすがに、これは真剣に彼女を作ろうとしての行動ではない。定時報告向けのネタ、実績づくりである。その上で、あわよくばがあれば、それは流れに乗っかってしまえ! の精神からの行動である。そうはいうものの、これまでの活動でも候補として考えていた関係性のある女性たちとのデートにはこぎつけられなかったわけで、現実的に明日に迫ったクリスマスイブに対して、ディズニー行きの約束を取り付けられる一般女性が急に見つかることなんてあり得ない。


 そして、クリスマスイブにディズニーデートしてくれる女の子を探すため、イブイブに、新規のキャバクラを巡り片っ端から声をかけ続けることを決意するにいたる。


誰か相手が見つかるまで帰れまテン!


 普段は見知ったお店の見知った女の子の元にしか行かないのだけれど、そんな生ぬるいことをしていては、ただのお金の浪費になってしまう。信頼できる歌舞伎町のキャッチのS君をとっ捕まえて、新規開拓したい旨を伝えてフリーでいろんな店舗を回り続ける。店舗ごとにPDCAサイクルを回していくんだ。Planして、Doする。次の店舗へ突入する前に、Checkして、Actionして、またPDと……。


 上述のような変な社内ルールのことや、全員からパワハラじみた脅迫を受けながら切羽詰まってデート相手を探していることなどをネタに、軽妙にトークを繰り出す僕。一通り話した上で、「来てくれないと給与減らされるんですよー」からの、「で、明日空いてない?」という真っ正直かつ純粋な目で訴えるリアルトークは割と引きは良く、話すたびにこのトークのテンプレートも洗練されていく。これ、割と鉄板ネタじゃないか。


 おもしろがってくれる女子たちも結構いた。


 だがしかし、こちらはリアルにクリスマスイブを過ごしてくれる相手を探しているわけであり、その場で面白がられたとて、それだけでは意味がない。カモンウィズミー新浦安夢の国。


 断られては、次、断られては次へと進み続け、歌舞伎町の夜も最終盤に差し掛かったあたりで、ようやくディズニー大好き女子を捕まえるに至った。


 さすがにイブは出勤日なので、長いディズニーデートからの同伴と言う形にはなるが、それでもよければとのことで、何とかイブイブの任務を達成した。とっくにお名前も忘れたけれど、ありがとうございました。あの時の女の子!


 その後は特に面白い話もなく、普通にお昼過ぎにディズニーシーへ入り、いくつかのアトラクションを周り、食事をして軽くお酒も飲んで、そのまま同伴でお店へ。翌日もまあ、せっかく時間を割いてくれたのだからとのお礼の意味も込めて、一応二日連続でご指名入店。


 「歌舞伎町のキャバクラでクリスマスデート相手を見つけるまで帰れま10」に使った代金や当日キャンセルしたホテル代も含めると、えらい額が吹っ飛んだ気がするが、それもまた貴重な経験値となって、今も僕の血肉となっているのです。


 結論《初対面で好みでもない女子といく義務ニーデートは、疲れるだけで、楽しいものではない》

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