そうだ、那覇へ行こう! 最終話「しゃぼんだま」編
これまでの言動により、いくつかの疑念は当然のように脳裏から離れることはない。
甥っ子とは実の息子なのではないか? シングルマザーならまだしも結婚している可能性も否定できない。また、打ち解けては来たとはいえ、さすがにキャストと客の関係を長く維持しすぎたのではないか。
焦ってがっつき過ぎても引かれるだろうとの考えもあり、夏までというバッファーを持たせた期間を設定したものの、やはり、こういうものは短期決戦で挑むべきだったのではないか。
投資したリソースが長く多いほど、人は見たいものだけを見てしまい、情報を自ら制限した結果、真実を見誤ることになる。
とはいうものの、単純に那覇と新宿を行き来きしてのキャバクラ通いと言う、少し浮世離れした活動そのものが楽しかったのは事実だし、「初対面クリスマスディズニーデート大作戦」でも触れた、彼女作り活動に関する社内での定時報告の素材に、これを実行している間は当面困らないという割と現実的な冷めたメリットもあり、それにかまけてしまった部分もあったのは間違いない。
いざ冷静に客観的に、この数ヶ月の状況を振り返ってみれば、はっきりと「脈ナシ」と判断するのにそうたいした労力は必要はないぐらいの材料は揃っている。
こちらだって、それなりには夜の世界の遊び手である。夜のマナーや常識も心得ているつもりだ。心得た上での遊び心でもある。
脈ナシ。
その状態で、相手にも気を遣わせた結果、数ヶ月のお礼としていただいたデートの約束なんだとその意味を解釈すれば、それは真正面にありがたく頂戴しつつも、ひっそりと身をひくのが大人の嗜み、夜の紳士たるものだ。
一度そういった思考に傾けば、ことはわりと速やかに進んだ。
「夏の約束、仕事が忙しくなってしまって那覇まで行くのが難しそうだ」
このメッセージをケジメとして、一方的ではあるが、このプロジェクトに幕を下ろした。
こうして僕の夜の経験値は少しだけレベルアップし、しゃぼんのように儚い恋心は、こわれて、きえた。
しゃぼんだま とんだ
那覇まで とんだ
那覇まで とんで
こわれて きえた