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酒罵微忘碌  作者: 久世
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そうだ、那覇へ行こう! 「かわいい甥っ子」編

 当然、予定のない休みの日に合わせてこっちに来るからデートしようよなんてことは、冗談ばかりのトークの中にも時おり真面目に織り交ぜるのだけど、いつ店を訪問しても、彼女はキャストとしてそこに座しているわけだ。週6日で出勤し、日曜は親族との行事が多いような話で、なかなか先の日程が決まらない。


 薄々は勘づいていた。それでも、可能性がゼロでないのであれば、多少嘘に紛れてしまっていても良いと思っていた。


 そんな中でのひとことだった。


「そうそう、この写真見て〜。こないだ甥っ子の○歳の誕生日に親族で集まってイベントをやるって言ったっしょ。その時の写真だよ」


 スマホを取り出し、何枚も嬉しそうに甥っ子の写真を披露する彼女。そうだね。甥っ子だね。可愛い男児だ。


 特に何もツッコミはしなかった。


 沖縄のキャバ嬢の8割はシングルマザーか既婚者だというまことしやかな情報は、常に脳裏をめぐっていたのだから。甥っ子というていで話は聞くし、言葉通りに受け入れる一方で、「そっかあ、息子ね」と勝手に脳内変換される。僕の脳内はお花畑と自動変換機能、鈍感力と妄想力がフル回転していた。


 正直なところを言うと、表現はよくないけれど、いわゆるこぶつきであっても、それほど気にはならない。自分の子供を欲しいとは思っていなかったし、多少育ってからの方が子育ても楽だろう。このような考え方の時点で、おそらく親になろうかという心構えはできていないのは間違いないのだがそれはさておき、それよりも「そもそもシングルなのか?」という疑念がある。


 そんなことは聞かなければわからないのだけれど、あくまで甥っ子の話をしているわけで、話をぶったぎって「甥っ子じゃなくてムスッコでしょう?」「Are you married?」なんて聞けるわけもなく。


 大きく濃いモヤモヤを抱えながらも、そもそもこのプロジェクト自体が困難を極めるものであることは百も承知だったことを無理やりに思い出し、己を奮い立たせるように意識を元に戻す。


 それが事実だって良い、失敗する確率の方が高いことにチャレンジしているんだ。ダメならだめでトークのネタ作りとしては成功なのだから。何度も言い聞かせる。心を落ち着ける。


 圧倒的に前が見えない状況下でも、最終的にはプライベートなデートの約束は取り付けた。男子校6年間の純粋培養純情ボーイも歌舞伎町の荒波で鍛えられれば、こんな無茶な企画だって最低限なんとか体裁を整えられるぐらいには成長はしていたようだ。


 散々毎晩一緒に飲み明かしているので、デートは健全さを重視した。


 ひとりで散策もした若者に人気の地区、おもろまちで待ち合わせをして、買い物して映画でも観て食事してといったとても一般社会の健全な若者が行うような、いやもっとピュアな10代の初めてのデートぐらいういういしいものではあるが、だいぶ自然なプランを提示した上での約束だった。


 ちなみに僕は、呑み屋などで出会う一般客の女性と打ち解けて呑み友達みたいな感じになることは多く、結果として恋心を抱いたとしても、流れのままそういうことに進むケースはほとんどなく、先をきちんと見据えるようと思い立つと、いくらほど仲が良くなっていたとしても、ケジメとして一度はこういった「デートデート」した感じのことを踏まえた上できちんと進めたい人間だ。


 必然的に、一般世間では、大人になってからはほとんどなくなると言われている「告白」の儀式も採用するし、イエスノーの回答も言葉として欲しがる。


 小っ恥ずかしい、言わせんな馬鹿野郎。


 彼女からデートを約束してもらえたその日付は、すでに夏真っ盛り。スーパーハイシーズンに突入していた。

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