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酒罵微忘碌  作者: 久世
13/26

そうだ、那覇へ行こう! 「そうだ、那覇に住もう」編

「え、まじで来た! 連絡してよ〜。今日出勤じゃなかったらどうしてたのよ」


 さすがに全てがすべて冗談だとも思っていなかったようではあるけれど、一ヶ月やそこらで東京から沖縄までやってきた頭のお花畑満開のおっさんに、多少なりとも驚いているようではあった。


 最低限のミッションをとりあえずクリアしたことに束の間の安堵を感じつつ、それからあとは、予定通りのプランを実行していった。


 予定……というほどのものでもなく、煩悩の赴くままにアクションしていただけだろうとの指摘があるのならばそれは甘んじて受け入れるが、普通にしゃべり、疲れるまで延長、ボーイやキャッチも巻き込んで仲良くなり、遠く離れた那覇の繁華街のど真ん中に居場所を作る。宿に帰る前に気が向いたら、夜開店、朝閉店の沖縄そばやに顔を出し、そばを啜りながら、ジューシー(沖縄の炊き込みご飯)を頬張る。


 たまに同伴やアフターもするけれど、お行儀よく東京に戻り、また期間をあけずに再び那覇への繰り返しとなる。


 さすがに毎週行き来するサイクルは体力的にも持たないし、行けばほとんど連日、朝まで指名延長を繰り返していたので、さすがに先立つものも厳しくなる。やや抑え気味に、しかし毎月1、2回ほど那覇へ飛ぶようになった。


 その間、観光的なことはほとんどしなかっただろうか。お店が定休日でそのこも捕まらない日曜に、高校生の頃の修学旅行で行ったきりだった首里城や、若者に人気の地区というおもろまちあたりを訪れた程度でお茶を濁す。


 そもそも鉄道がない沖縄は、自動車免許を持っていない人間に対しては、ほとんど選択肢を提供してはくれない。


 唯一、ゆいレールが長距離を移動するための手段になるのだけれど、それが通っているエリアは非常に狭く、短い。あとは、自転車で気ままに街に繰り出し、住むならこの辺かなあ? などと妄想を携えて散策する程度だった。


 ぶっちゃけなくともわかると思うが、住民票を異動するほどではない二重生活を前提として考えたとしても、普通に独り身には十分なワンルームマンションを借りる方が安く上がるのではというぐらいは、お店に投資していたので、移住については、割とリアルでもあった。


 ちなみに、当時は日中に仕事を終え、夜、少し遅めの時間帯に店に訪問するまでの間はほとんどすることがなかったため、移住のための知識やワンルームマンション、マンスリーマンションなどを調べまくることに費やしていた。そんなことをわざわざ現地で、する必要もないのだが、お店に顔をだすこと以外には特別やるべきこともないのだからやむを得ない。


 さて、このプロジェクトの期間は夏まで、およそ半年程度の期間でやり切ると決めていたのは前述した通りだ。また、プロジェクトの達成目的は、プライベートでのデートの実現であり、その先の結婚を見据えてのお付き合いに発展するための可能性を掴むこと。その可能性さえ見えれば、仮に短期間であっても実際に移住することはやぶさかではないと考えていた。当然「本当に移住しようかな」みたいな話はしていて、「免許なくて移住するならここら辺がいいよ」とか、「ここらへんだとうちの地元だから遊びやすいよ」とか、そういったトークもしており、あながちその全てが夢物語でもなかったとは、いまだに思っている。


 結論から言うと移住計画は白紙となったのだけれど、実際に移住していたら、どんな人生が待ち受けていたのかなあとは、今でも時折振り返ることはあるし、少なからずあの街にはいまだに愛着を持っている。


 実はこの物語には関係なく、この数年後に自動車免許も取得してしまったので今となっては移動の制限はなくなってはいるのだけれど、とは言うものの、特に沖縄でやりたいことを携えての移住ということでもなく、知り合いがいるわけではもちろんなく、仕事も無関係なのだから行くメリットは限りなくゼロに近い。


 行かなかったから言えることだが、妄想の範囲内に留めるにいたったことは、それはそれで良かったのだろう。近場での引っ越しだって間取り図を眺めている時が最もテンションがあがり、そのあとは作業や事務手続きの煩わしさにパッションは下り坂、ただただ面倒くさくなってげんなりするだけだ。後悔先に立たずとはいうが、この件ばかりは、やらずの後悔はそれほどない。


 さて、連夜のお店訪問に加えて、アフターや同伴といったオプションと移住の話を織り交ぜながらも、メインの社交場は相変わらずお店の中である。限られた時間と予算の中で、毎回のようにお金だけ落として、お行儀よく帰るだけというわけにもいかない。こんな僕にも男性としてのプライドのかけらぐらいは内包されているのだ。


 このアクションに必要な内燃機関も正常に動作している、確認、ヨシ。


 そんなふうに自己確認しつつ、いつものように店を訪問したある日のことだった。


「そうそう、この写真見て〜」

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