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機神





   * * *




 場違いに響く赤子の声に、ナイトは振り返る。


「あ──」


 倒壊した家屋の奥にいる女性と、目が合った。

 避難しなかったのか、しそびれたのか──どちらにせよ乳飲み子を抱いた若い女性が、戦場の最前線のそこにいた。

 刹那、頭をよぎったのは、襲撃された護送バス。そこで目にした親子の姿。

 ついで脳裏をよぎったのは、この世界へ来ることになったトラック事故の光景。

 何もできなかった。

 何かしなくては。

 その想いが交錯した時、彼は手を伸ばさずにはいられない。


「逃げろ!」


 震える女性は機属の脚に蹂躙される瀬戸際だった。あと数秒で圧死するだろう二つの命。それを前に無力なナイト。

 それでも。

 助けなくては。助けなくては。助けなくては。助けなくては。

 ──助けなくては!

 そうして、“ソレ”は形を成した。


「え?」


 ソレは巨大な手の形をした赤い半透明の、巨腕であった。ソレが、機属の鋼鉄の足を受け止めるように、親子をかろうじて包み込んでいた。


「ッ、逃げてください、早く!」


 言われて女性がようやく赤子をかかえて、街の中心へと走り出した。


「──これは、いったい……」


 自分の意思で自在に動く巨大な右腕を前に、ナイトは再度自問する。

 シスターが繰り返し言っていた。ナイトは神の加護を一身に宿す存在なのだと。

 それが何なのか理解できないまま、異世界転移した少年は想起する。

 溢れかえるイメージ。これまでの事柄。

 トラック事故。ヘッドライトの光。真っ白な世界。そこにいた誰か。異世界転移。そして、シスター・カナイとの出会い──


(なんでもいい! 力を貸しやがれ!)


 強烈な感情に支配されるまま、ナイトは左腕を天に伸ばす(・・・・・・・・)

 そして、左腕に赤い線が走る(・・・・・・)



『……神意接続』



 頭の中で何者かの声が流れ込む。



『……戦装情報、取得開始』



 同時に、操作していた装備品類……ポケットの携帯(スマホ)や、制服の金属製ボタン、ベルトの金具が、変異・変質・変転していく。



『……称号(ノーブルランク)騎士の中の騎士(ナイト・オブ・ナイト)”による情報取得、完了』



 そして、それ(・・)は来た。

 ナイトは本能のまま叫ぶ。


「“来い”!」


 ナイトの周囲を、赤い機械の類が覆い始めた。

 それは、この街の住人やメディと比較しても過剰過大な総量となって少年の全身を包み込み、コクピットを形成し──

 ひとつの“人型”をなした。

 紅く赫い“人型”に。


「こ、これは?」


 パイロットシートに座っていると、唐突に通信回路が開いた。


『おめでとうございます、ナイト様。これがあなたの戦装──私、いえ──“機神”の名は「ジズ」』

「──ジズ?」

『さぁ存分に、私をお使いください』

「──ああ!」

 

 ナイトは初めて操縦する機神を駆り、機属の群れと相対する。

 何故なのかは知らないが、どこをどう操作すればよいのか、頭の中で理解できていた。

 操縦桿を強く握り、ペダルに足を乗せたナイトは、どこまでも響く雄叫びをあげる。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 最初は緩慢だった歩行が走行へと変わり、巨大な拳を振るって獣の頭部を殴りつける。

 その一発の衝撃は、カナイの振るう一撃を軽く(しの)いだ。その余波を受けただけで、数体の機属が吹き飛んでいく。

 地上部隊の人々も呆気(あっけ)にとられた。

 機械の獣たちは、機神・ジズの一撃によって無力化され、一挙に戦局は逆転劇の様相を(てい)する。

 中でもとりわけ強壮かつ巨大な、多脚戦車じみた三眼の機属が蹴り潰されたことで、戦局は一変した。

 そんな中……


「──やはり、あんたこそ、神の加護を受けた身。──故に──」


 漆黒のパワードスーツを解除し、ナイトの戦いを見守る位置についた金髪褐色肌の修道女──カナイは、そう呟くのだった。







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