機属
* * *
轟音は街のはずれから聞こえてきた。
砲弾が着弾するような衝撃音に、悲鳴と絶叫が湧き起こる。
二十メートル強の巨体が、貧民街のどこからか飛翔してきたロケット砲に撃ち抜かれるが、無傷。
『じゃあ、ちょっと行ってくる!』
頭部まで覆う漆黒の装甲服と化した機械の十字架を纏うカナイが、背中のブースターを噴かせて飛翔体形に入る。
ナイトが疑念を差しはさむよりも早く、シスター・カナイは天井を貫き、屋外へと飛行。片目をつむり見送るナイトが窓辺から確認すると、装甲服を纏った戦乙女──聖女が、建物を破砕して回っていた鋼鉄の巨獣を、ものの見事に“ノックアウト”していた。バラバラに砕ける頭部。折れ曲がった頚部。ついで、倒れ伏す超級の重量音。
次に湧き起こったのは歓声。
「嘘だろ、おい……」
時間にしてほんの数秒の出来事。
敵の完全沈黙を確認した聖女は、どこかへと視線を巡らせた後、再び教会へと飛翔していた。
頭部装甲を解放した褐色肌と金髪があらわになる。
「お、おかりなさい?」
「いいや。まだ戦いは終わっちゃいない」
カナイは不機嫌そうに街の東側──太陽の昇る方角を見やった。
「私がやったのは斥候の一機だけだ。もうすぐ本部隊の大所帯が来る」
「そ、そんな!」
「ナイト。あんたは、異世界転移者だろ? 何か武器になるものは?」
「い、いや」
そんなもの持ち合わせていない。
ステータス画面のアイテム項目でも、それらしい物品は確認できていない。
「──まぁ、そうだな。転移者さまに頼るような案件じゃないか」
「か、カナイさん。オレに何か、手伝えることは!」
「ないよ」
即答だった。
有無を言わさぬ断定であった。
「あんたはこの街を出な」
「そ、そんないきなり!」
せめて一宿一飯の恩義を返したいと求める黒髪眼鏡の少年に対し、装甲服姿のシスターは、どこまでも冷徹に、状況に即した判断を下す。
「こんな中心区画まで斥候の“機属”──〈ホフマー〉に侵入されるということは、後続の連中は〈オメツ〉レベルじゃない。最悪、〈ツェデック〉や〈アハヴァ〉クラスが出てくる。そうなると、私の第八戦装でも街を守護し続けるのは難しい。壊滅は必至だ。そのまえに非戦闘員は避難するのが通例──転移者のあんたも、避難しておいた方がいい」
カナイの真面目な語調と視線が心臓に痛いほど突き刺さる。
(自分は、足手まとい──)
ならば何のために、自分はこの地に転移してきたというのか。
自問するナイト。しかし、答えなど出るわけがない。
「……わかりました」
「避難民は西の広場に集まる手筈だ! そこへ向かえ! いいな!」
言葉少なにやりとりを交わしたカナイは頭部装甲で顔を覆い、ブースターを噴かして東の空を目指す。
ナイトは、名ばかりの騎士たる自分を、心から恥じた。