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機人






   * * *




 ナイトたちはカナイを治療室から連れ出し、治療施設から車で移動する。半壊状態の十字架をトランクに積み込んで。

 運転手の席は鋼髪の女性、タホールが務めた。助手席に座するバロンが、後部座席のカナイに問いかける。


「どうだ、機属領の感想は?」


 ナイトが見つめるカナイの横顔は、車窓から見える光景に圧倒されっぱなしだった。


「なんというか、鋼鉄の、別世界みたいだ」

「そりゃあそうだ。ここは機属の領域、何もかもが鋼と油、各種精製物質で作り上げられた、機械の領土だ」


 道路を車が往来しているところは、聖地エブスと変わりない。

 だが、鋼鉄のビルディングをはじめ、機属領の方が近代的──というよりも未来的であった。街路樹などもそこここに植えられ、白亜の街並みに(いろど)りを()えている。

 カナイは指を差して(たず)ねる。


「あれ、街を歩いている人は?」

「あれはタホールと同じ“機人(きじん)”だな。もっとも、連中は機属領内の管理と運営を(つかさど)っている量産型だが」

「そうだ。その機人。機人っていうのは、いったい何なんだ?」


 カナイの質問に、今度はハンドルを握らずに車を操縦するタホールが答えた。


『機人は機属領内の住人であり、一等機属の機属王たちに臣従する存在です。皆、機属王の統治するアシリアで活動し、カナイ様達の住まう砂漠地帯とは隔絶された世界を生きております』


 カナイは質問を続ける。


「タホール、アンタは二等機属〈タホール〉の原型(オリジナル)って言ってたよな? それって、どういうことなんだ?」

『簡単な話です。私こそが、“浮遊要塞”とも呼ばれる機属のすべてを、創造し統括し運用する権限を持った存在ということです』

「?」


 言っている意味を(はか)りそこなうカナイに、横に座るナイトは説明してみる。


「言ってみれば、すべての〈タホール〉を制御する権限を与えられた大元(おおもと)親玉(おやだま)という感じらしいです」


 ナイトの言葉の後に、鋼髪の女性は説明を付け加えていく。


『メギドの闘技場北方に現れた陽動の〈タホール〉も、ヨルダ川近郊で皆様を回収し移送した〈タホール〉も、私の“子機”に過ぎないのです。その証拠に──ほら』


 タホールはひとつの工場を指差した。

 そこでは機属や機人たちによって建造されている、全高百メートルの球形──“浮遊要塞”の偉容が鎮座し、十個ばかりが列をなしている。


『あれらは建造を終え次第、私の指揮権限下で機属領の防衛などの任務に投入される手筈です』

「任務──」


 カナイは茫然としつつ、事実を飲み込んでいく。

 呑み込んで、しかし頭の底から湧き上がる疑問をおさえきれない。


「機属が機人たちの制御下にあるというなら、どうして私たちの街や都市を襲う?」

『それは……』

「それは機属王が御話になる。それよりナイト」


 バロンは後部座席の同類にして転移者の後輩に声をかける。


「今の称号の数は?」


 カナイは少なからず首をひねった。ナイトは彼女にかまわず告げる。


「えと、ですね、今朝がたの修練で、称号数“二十四”になりました」


 上々と笑うバロン。


「一週間で五倍近くに増やせたか、さすがは俺の後輩だ」

「いえ、そんな。バロンさんや機属王のおかげですよ」

「──なぁ。ナイトたちは、機属領で何を?」

「その話は追々(おいおい)話そう──今は」


 車がトンネルに入った。

 長い長いトンネルを抜けると、そこには新緑の世界が広がっていた。


「ふわぁ」


 カナイは声もなく感動する。

 そこにあったものは巨大樹だった。

 その高さは数キロ単位といっても過言にならない。

 カナイたちが乗る車から望めるのは、巨大砂丘の何千、何万倍の巨大さを誇る、緑の楽園であった。


「ここが機属領の主都のひとつ・鋼鉄と樹木の都市・王都アシュルだ」


 車は螺旋状に下降する道路を進み続け、カナイに初めての光景を披露し続ける。


「こ、これが都市?」


 鋼鉄の街の偉容は姿を消した。それでも、此処は都市だとバロンは言い募る。


「このまま地下に潜れば、いやでも理解するさ」


 そう言って、広大な巨大樹の園を降り続ける一行は、再び暗く長いトンネルに入る。

 数分は下降した時、ようやく出口へ。


「お、おお……」


 カナイは言葉が出なかった。

 そこは地下空洞に建造された都市。

 地下だというのに眩しいほどの光が取り入れられ、地下都市を地上と変わらぬ光度に染め上げている。


「あと十数分で王宮だ。二人とも、王陛下に会う心の準備をしておけよ?」





   * * *




 一方その頃。

 聖地エブスへ帰還したシホン大司教をはじめ使徒七人や聖騎士団たち、通称“ジズ鹵獲部隊”は、枢機卿らの怒りに触れる……ことは、まったくなかった。


()()い」


 合議場の教皇席で、頭から聖衣に身を包む童姿の最上位者が、むしろ大司教たちの勇躍を言祝(ことほ)いだ。

 教皇は、片膝をついて跪拝(きはい)する大司教を擁護(ようご)し、居合わせる枢機卿らに反論の余地を与えなかった。


「我が奇跡“天使(マルアフ)の主砲”を使用した上で逃げられたとあっては、大司教らを責めるは(こく)というもの」

「で、ですが、ジズを、あの機属領に渡らせてしまったとあっては」

「んん? 余の力が不足していた、と申したいのか?」

「め、滅相もございませぬ、我が聖下!」


 教皇の鶴の一声で、合議場はシンと静まり返る。


「一等機属・ウルティマ──奴めが出向いてきたのは、さすがに慮外(りょがい)の事態であった。大司教、そして出動した使徒たちと聖騎士団には、一切の(とが)なし、だ。わかったな?」


 大司教は一声を発することもなく、ただ粛々と(こうべ)を垂れるのみ。

 彼の隣で同じく跪拝(きはい)の姿勢を取っていた聖騎士団長も、ほっと胸を撫で下ろした。

 しかし同時に、疑問を発さずにはいられない。


「教皇聖下。ならばジズの鹵獲(ろかく)(あきら)める、と?」


 聖騎士団長シュミラーの問いかけに、教皇は「まさか」と肩をすくめる。


「こうなったからには、“天使(マルアフ)の瞳”も起動しよう。機属領への直接侵攻も、念頭に置く必要があるだろうて」

「お、お言葉ですが。機属領と我が領土は強靭な鋼鉄の壁に阻まれております。攻略するのは至難を極めるものと」

「大司教」

「はっ」


 シホンは顔を上げた。


麾下(きか)の者たちより、暗闘に長けた者を選抜せよ」

「御意」


 大司教麾下の部隊──それ(すなわ)ち、“使徒”の動員に他ならなかった。







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