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参戦





   * * *




 数分前。


『だだだ、だめですよ~! 敵の狙いはナイト様なのですから~!』

「だからこそ、です」


 早鐘(はやがね)を打つ心臓を(しず)めつつ、ナイトは一歩を踏み出す。

 ナイトは杖を突き、左半身を引きずりながらカナイの集中治療室の区画を離れる。

 昇降機(エレベーター)に乗り込み、居住区画の下層へと向かった。


「敵の、教団の使徒たちの狙いが自分なら、必ずここへ来る。そうなる前に」

『ですから~! 私どもの中にいれば安全なのです~! 信じてくださいよ~!』

「ええ、安全なのかもしれない。でも俺は」


 瞼の裏に浮かぶのは、治療室で横になるカナイの姿。


「彼女を、カナイを危険にさらしたくない」

『それも私が──』

「〈タホール〉さん?」

『耐震警報! 対ショック態勢!』


 瞬間、〈タホール〉の中身が縦に揺れた。


「うわッ!」


 小型端末(ボール)がクッション材を形成し、鋼鉄の床に倒れかけたナイトを支える。


「いまのは」

『敵の攻撃のようです。しかも超強力な~』

「だったら、なおさら、俺がこっこにいるわけには、いかない」


 敵がこれ以上、強硬な手段に訴えてくるようなら、治療室のカナイにも危害が及ぶ。

 それだけは、なんとしてもそれだけは避けたいナイトは、黒鉄(くろがね)の左半身に鞭を打って、昇降機を最下層まで降りる。

 居住区画の一番下に設けられた駐機場──燃料と鋼鉄の匂いに満ちるそこに待機していた戦闘用端末機の一機に乗り込んだ。

 が、勿論どうやって操縦したものか、一瞬でわかるわけがないナイト。

 おまけに『端末にプロテクトをかけました~。ナイト様の身の安全のためです~』とタホールは操縦権限を奪う。

 だが、ナイトは諦めない。

〈タホール〉が止めるのも聞かずに、ステータスウィンドウをイジくりまわすナイト。

 称号“騎士の中の騎士(ナイト・オブ・ナイト)”および“半機半人(サイボーグ)”に組み込まれていたスキルを駆使し、操縦権限の“取得”に成功してしまう。

『そんな~』と小さくない悲鳴をあげる〈タホール〉を無視して、ナイトの乗る機体は浮遊し、重力を無視して駐機場外──要塞外へと飛翔していった。


『もうこうなったら仕方ない~、全力でサポートさせていただきます~!』


 さすがの〈タホール〉も腹を決めてくれたようだ。

 ナイトは“半機半人”の固有スキル「機械類・操縦技術A+」で、即座に戦闘端末の操縦をこなしてみせる。


「わかる。──どうやって戦えばいいのか!」


 そして、己の左腕を端末と接続し、荷電粒子砲の砲身を機体下の外部に成形。

 使徒たちにしか扱えぬはずの超火力が、積層防壁を食い破ってきた使徒たちの機体をかすめたのだ。


《あれです! あれにナイトさまが、ジズの顕現者さまが乗っておられます!》


 通信回線越しに聞くカアスの声。

 その声を受けて、使徒たちは最重要目標が自分から飛び出してくれたことに色めき立つ。


《よっしゃあ、私がいただくぞぉ!》

《ちょっとっ、抜け駆けは禁止っ!》

《ああ、なんという巡り合わせっ!》

《自分から出てくるとか、バカ~?》


 聞いたことのない声に混ざって、聞きなじんだ怒声が回線内にこだまする。


《ナイト! おまえ、居住区画に居ろって言っただろうがッ!?》


 バロンからの厳しい叱音(しっせい)に、ナイトは平謝りするしかない。それでも、


「俺は、自分のせいで、誰かが傷つくところなんて、もう見たくないんです!」


 減らず口を叩くと痛烈に批判するバロンだったが、彼もまた腹を据えた。


《〈タホール〉! 防壁生成、最大! 全速でアシリアを目指しつつ、援護射撃を! ──ナイト!》

「は、はい!」

《出てきたからにはしようがない。今から全力で、“半機半人”の戦い方を教える! ついてこい!》





   * * *




 ナイトの参戦は、意外な方向に戦局を動かした。


《ちょっと! 本当にあれが、ずぶの素人の動き?》


 初対面の“暴食”アフランの指摘に対し、彼と共同戦闘を重ねた“憤怒”のカアスが答える。


《いえ、ナイトさまの御力は、ジズに乗ってこそ本領発揮するはず、なのに、これは!》


 内藤ナイトは〈タホール〉の戦闘端末の一機に座乗し、下部から荷電粒子砲の砲塔を形成して、使徒たちの動きを牽制し続けた。

 とても空中戦がはじめてとは思えない卓越した操縦技量──少なくとも、メギドの闘技場で見せたジズの動かし方などよりも、その洗練されっぷりは群を抜いて際立(きわだ)っている。他の戦闘端末が雑兵(ぞうひょう)ならば、ナイトの機体はエース機と呼んで差し支えない速度と機体制御で成り立っている。

 ハムダンは唇を浅く噛んだ。


(──称号(ノーブルランク)


 異世界転移者が身につける、特異事象のひとつ。

 おそらくその中でも、内藤ナイトは機械類の操縦に秀でた称号を獲得するに至ったのだろう。

 おまけに、


《うちらが一日一発、撃てればいい方の荷電粒子砲を、なんで連射できるわけ!》


 八悪が一人“怠惰”のアツランが疑念を呈するのも(もっと)もだ。

 ナイトが顕現せしめた荷電粒子砲は、おそろしいことに二分に一発のハイペースで射撃が成立している──使徒の砲戦モードでは、まずこうはいかない。


《おそらく。ジズの顕現者であることが関係しているのでしょう。でなければ、これほどのエネルギーを、ッ》


 間一髪のところで荷電粒子砲の直撃を避ける“悲嘆”ヤゴン。 

 だが、余波を受けたブースターが一基破損し、パージするのを余儀なくされる。

 このようにして、ナイトは徐々にではあるが、使徒たちのパワードスーツを摩耗させていた。


《どうする、ハムダン先輩?》


 戦いを継続すべきか否か、八悪の“憂鬱”を司るディカオンが意見を求めてきた。

 バロンとの空中戦。二等機属〈タホール〉からの援護射撃の雨霰。それに続いて荷電粒子砲を成形した戦闘端末を乗りこなすナイトの参戦。


「仕方がない──」


 ハムダンは最も使いたくなかった一手を選んだ。





   * * *




《無事か、ナイト》

「はぁ……はぁ……だいじょう、ぶ、です」

《無理はするな。いくらエネルギーをジズから引っ張ってきているとはいえ、初の空中戦だ。無理だと思ったらすぐにさがれ》


 ナイトは戦闘端末──ボール型の戦闘機の中で汗を(ぬぐ)った。

 その様子をモニターで見ていたバロンが冗談めかして告げる。


《今度から乗る時は、パイロットスーツの顕現も行った方がいいな》

「そんなこと、できるんですか」

《ああ。俺ら“半機半人”は、──ナイトッ!》


 バロンから警告の声が飛ぶ。

 瞬間、〈タホール〉の積層防壁を砕く音が鳴り響いた。

 ナイトは茫然としつつ、〈タホール〉の上部防壁を拳で割り砕き現れた人影に目を()らす。


「な、な、なんで」

《くそっ、まさか、ヤツまで此処に来ていたとは!》


 人影は法衣に身を包み、白髪と白銀の顎髭(あごひげ)を太陽光に輝かせ、丸眼鏡の位置を整えている。

 メギドの闘技場で感じた恐怖と絶望の味が、いやでも思い出される。

 ナイトは男の名を叫んだ。


「シホン、大司教……!」






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