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教会





   * * *





 ナイトは、シスター・カナイの助けと導きによって、街の教会にたどりついた。

 しかし、


「…………」


 ナイトは絶句した。

 教会だといわれてきてみた場所は、どう考えても廃墟じみた壊れっぷりであった。

 柵は錆つき、門扉は傾いて外れている。憩いの広場は雑草が生い茂り、壁にも蔦がびっしりとこびりついているのは不気味さを助長させるのみ。

 極めつけは内部であった。

 木製の信徒席はそこここに散乱し、寄進台と共に埃を被って放置されていた。

 建物の奥──祭壇部は天上から崩れ落ち、床の部分まで陥没しており、実に惨憺(さんたん)たるありさまだ。

 祈りの場からは程遠い廃屋(はいおく)。それが、シスター・カナイの住まう教会であった。


「まぁ、気にするな」


 シスターはナイトを勇気づけるように廃屋の中を直進していく。


「これでも居住スペースは綺麗なもんだ。寝泊まりするには申し分ねえよ」

「は、はぁ……」


 金髪に褐色肌のシスターは断言してみせる。

 ナイトは生返事を返しつつ、疑問を口にしてみた。


「いったい、何があったら、ここまで、その」

「疑問は、もっともだな」


 カナイは微笑しつつ頷いた。


「ここを含め、この貧民街区は、先のキゾクとの戦いで酷い被害をこうむった。私がここの管理を任されたときには、教会関係者もほとんどが……」

「貴族?」


 修道女の沈鬱な様子に、ナイトは襟を正す思いをおぼえた。

 しかし、この世界の貴族というのは民衆の味方ではないというのだろうか?

 カナイは更に続ける。


「神の加護は年々失われてきている。だが、異世界人であるナイトが現れたのは、何よりの吉兆だ」

「吉兆」


 自分が交通事故手前で幻視した光景を思い出すと、とても吉兆という言葉はあてはまらないだろうに。

 ナイトの脳裏に浮かぶ、純白の光景。

 そこにいた何者か。


(あれが神だとしても……)


 どうしてナイトを異世界へ転移させたのか、まるで見当もつかない。


「なんにせよ。歓迎するぜ、内藤ナイト。こんなアバラ屋で悪いが」


 煙草をくわえてにっこり微笑む修道女に、ナイトは生返事を返すことしかできなかった。

 教会の中には、確かに最低限居住できるスペースが確保されていた。

 この貧民街で一番……とまではいかずとも、十指には入るだろう快適さだ。

 カナイの用意してくれた夕食も、美味の一言では片づけられないほど上等であった。

 腹も満たして、そのまま心地よい眠気に誘われるまま寝られたら、どんなによかったろうか。

 ナイトはベッドに腰掛け思案にふける。


「なんなんだ、このアイコンみたいなの?」


 視界の右下にある、小さな灰色の正四角形。

 こんなもの、この異世界とやらに来る前には、当然ながら存在したことはない。


「聞いた感じ、俺だけに見えてるっぽいし──」


 シスター・カナイには見えていないという。

 ナイトだけにしか存在しないもの──神の加護とやらだろうか?


「なんか似ているんだよな」


 ナイトはベッドに寝転がり、アイコンのような何かを見つめる。


「まるでなにかのゲームのアイコンじゃねえか……」


 ゲーム画面の隅に存在する……自分で言って妙に納得がいく結論。

 ナイトの指が、視界端の正四角形のアイコンに触れた。

 そして、





「…………なんだ、これ」







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