1話 柊の花言葉は予見
あの日から10年の歳月が流れた。
空にぽっかりと穴が空いた現象は東京以外の世界各国でも確認されていた。
そしてその穴から現れたのは狂暴な未確認生物たち、通称『UMA』。
ドラゴンから巨大な怪鳥まで、その種類は何百種にも及ぶと言われている。
そしてそんな異界の地に生息していた恐ろしきUMA達との橋渡しのような存在として世界中の上空に空いた穴を人々はこう呼んだ……
『ゲート』と……
ゲートの出現により世界中が混乱の渦に飲み込まれ、再建は不可能だと誰もが思った……
しかし神はまだ人類を見捨ててはいなかった。
世界各国で核戦争に備えた大規模なシェルターという名の地下都市の開発が行われていたのだ。
それは日本も例外ではなくひそかに行われていた。
人々の生活の拠点は地下へと移り、様々な統廃合による再編の末、新たな統括区を設置しそして新たな人類の幕明けが始まった…
「とまあ、これでかねてから日本政府の進めたがっていたコンパクトシティ計画が、思わぬ形で実現したわけでしたっと……はい、めでたしめでたし」
とある施設の薄暗い一室の中で講義を行っていた女性は気だるげな口調で話を締めた。
ここは新東京軍事区画の一角にあるナディエージダ新東京支部に隣接する航空部隊養成訓練学校である。
ナディエージダとは10年前に起きたあの事件をきっかけに結成された軍事機関で世界各国様々な地域に支部を置き人類の復興のために日夜活動している。
女性は話を終えると被っていた帽子を脱いだ。
すると長い髪がさらりと広がり、背後から伸びる青白い光に照らされて、その髪は深い赤紫色を反射していた。
そのまま柊 瑠瑚は隣にあった青いオフィスチェアーへと腰掛ける。
すると……
「パチパチパチパチ」
すると小さな拍手をする音が彼女の耳に飛び込んだ。
その音の先へと視線を向けると講義を聞いていた3人の訓練生の内の一人の少女が小さな手で拍手をしていることが確認できた。
「あぁ……えっと八重咲少尉だったかな?拍手はいいよ……」
柊がそう言うと、八重咲 早奈英は立ち上がって大きな声で言った。
「え?どうしてですか?めでたしめでたしでお話が終わったら拍手するもんじゃないんですか?」
「まあ一般的にはそうだけど今回は皮肉の意味を込めたわけで……」
「え!?あ!そうだったんですか!すみませんでした!」
八重咲は机ギリギリまで頭を下げ、深々と柊に謝罪した。
頭には大きめの制帽を深くかぶっており、アッシュグレーの髪を一つにまとめて横に流している。
そして頭を上げた後小さな体も少し飛びあがり、胸元で毛先がふわふわと揺れていた。
花のエフェクトが今にも広がりそうな光景に柊は思わず目を奪われた。
「あ、謝ることじゃないし別にいいよ……」
少し赤くなった頬を隠すように彼女は若干顔を下に向けるとそのまま八重咲へと着席の指示を出した。
そしてその後火照った頬が冷たくなったのを確認するとすぐ立ち上がり、目をシャキッと見開けながら訓練生たちに話し始めた。
「よし!じゃあつまらない講義はここまで!次の時間は皆楽しみにしてたであろう実機での訓練飛行だ!」
彼女は満面の笑みで講義の終わりを告げる。
だがその時、部屋の後方から大きな咳払いが聞こえてきた。
「柊中尉、講義時間があと30分も残っているようですが、まさか講義を終わらせるわけではないですよね?」
「ギクッ!えー……えーっとそうだなぁー……」
「ここの項目を一旦終了するというお考えでよろしいんですよね?柊中尉!!!」
部屋の後方にはキッチリと軍服を着こなし、赤色に輝く艶のよさそうなストレートの長髪の女性が一人座っていた。
「空ー今日はこの辺でいいだろー?ほら!この子たち今日が初フライトなわけなんだし多分準備とかで時間が掛かると思うんだ!だから早めに終わらせるってことで今回は許してよ!」
柊のこの軽率な発言に赤城 空は更に追い打ちをかける。
「準備時間はきっちりと設けられていますので、ここでわざわざ作る必要は全くありません、それに先ほどの講義ですが訓練生らは真面目に受けようという姿勢があるにも関わらずどうしてあなたが一番気の抜けたような態度で講義に臨んでいるのですか?はっきり言わせてもらいますと彼女たちの講師……いえ……小隊長失格ですよ!あと私の名前を呼ぶ際も赤城中尉でお願いします!柊中尉!!!」
「は、はいぃ……」
赤城の説教の嵐に柊はまるで萎れていく花のようにゆっくりとその場に立ち尽くしてしまう。
結局講義はその後、きっちり時間いっぱい行うこととなった。
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講義終了後:新東京支部食堂
柊と赤城はお昼を食べに食堂に来ていた。
席は食堂の中央付近で丸型のテーブルに腰掛け食事を楽しんでいた。
席には二人の他にもう一人女性がいた。
女性の服装は軍服に近い白い制服にタイトスカートを履いており、ガーターストッキングを着用している。
髪は黒のセミロングをアップしてバレッタで留めており、ノンフレーム眼鏡を付けている。
女性はサンドイッチをひとかじりした後、柊にこんな質問をした。
「柊ちゃんそういえば新部隊の方はどうなの?」
「へ!?」
この質問を受けた途端柊の箸が止まる。
「あぁ……えっとですねー……順調ですよ!鷹城中佐!」
っと目を泳がせながら柊は答えた。
「順調かぁー……それはよかった!それで赤城君実際のところはどうなわけ?」
「はい、鷹城中佐かくかくしかじかでして……他にも……」
「ああ空ー!これ以上は私のキャリアに傷がぁ……」
「ちゃんと自分に課せられた仕事もこなせない人に傷つくキャリアなんてないでしょう?」
「ははは!まあまあ赤城君落ち着いて!でも柊ちゃん、本当にちゃんとやってくれないと久々に大目玉くらわせるよ?」
「あばばば!!!それだけは勘弁してください!」
「ふふっ!冗談だよ、まあでも冗談と言っても今後の対応次第かもだけどね、私は柊ちゃんを信頼してUMA対策チームの新部隊の小隊長に任命したんだからね」
っと足を組みながら鷹城 涼子は柊に話した。
鷹城は元々はパイロットだったのだが、事故で左目を負傷し、大幅に視力が低下したことから現在は現役を引退し組織内ではバックオフィスを中心に活動している。
ちなみに柊らの直属の上司となる人物であり、柊が小隊長を務める無名のUMA対策チームの配置を行ったのも全て彼女によるものだった。
「うぅ……わかっていますよ鷹城さん……でもこの後は実機を使った訓練生らの初めての訓練飛行があるんでそこで何とか汚名返上してみせますよ!」
「おっ?言うねぇ、 ちなみに黙ってたけど今回の訓練飛行の司令役は私だからそこまで言うのなら柊ちゃんの活躍ぶり見させてもらおうかな」
「えっ……」
「ということで昼食を食べたら早速飛行場にLet's Go!」
「ええええええ!!!」
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飛行場
上を見上げても一面屋根に閉ざされた薄暗い飛行場に柊たちが足を踏み入れるとそこにはすでに先ほど講義を受けていた3人の訓練生たちも集まっていた。
そして鷹城に軽く肩を叩かれたのを合図に柊は一歩踏み出し彼女たちの元へと近づくと話を始めた。
「では午後の訓練を開始します……皆さんわかっている通り本日は実機での訓練となり、大阪支部を目的地とし、フライトを行ってもらおうと考えています、そして今回搭乗して頂く機体が『リフレク・レーベル』です」
柊が指をさすとそこにはまるで翼の生えたイルカのようなデザインと色の戦闘機が整備士らにより整備されていた。
「これまで行ってきたシミュレーション訓練の際に搭乗してもらっていた戦闘機のモデルとなった機体ですのでいつもと同じように操縦して頂ければ、操作面においては問題はないかと思います。しかしそれでも比較すると様々な点において違いを感じられると思います、しかしながらあなた方はこれまで様々な知識をここナディエージダで学んできました、今回は護衛機も付けて飛ぶことになりますので戦闘の心配もありません、なので皆さんは今まで学んできた知識を存分に生かして臨んでください……以上です ……」
鷹城が見ているということもあり、いつもの柊からは想像もできない程、丁寧な口調で彼女は話した。
話し終えるとまばらな拍手が巻き起こりそしてそれを見た彼女が少しずつ後退してゆくと交代するかのような形で今度は鷹城が前へと出た。
「すまない、私からも少しだけ話をさせてもらうね、最初は慣れないことも多いだろうし正直大変なことだらけだ、だけど始めて見る空からの景色はきっと忘れられない物になると思う、だからあまり訓練にこういう言葉を使うのは好ましくないんだけど……楽しんできてね!っと以上で私からの話も終わりだ、それじゃあ私と赤城中尉は管制室での君達のサポートが仕事だからあとは柊中尉の指示に従うようにね!」
そういうと鷹城は後ろを向き柊にウインクするとそのまま赤城と共に管制室へと向かっていった。
それを合図に柊らも訓練の準備へと取り掛かる。
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「全員発進準備完了しました」
「こちら管制室了解、いつでも発進可能です」
今回発進する機体は全部で6機であった。
すでに全員それぞれの機体に乗り込み訓練生たちはそわそわした様子を見せていた。
「こちら柊了解しました、ではお願いします」
「了解です」
管制室からの通信が終わるとあたり一面から警報音のようなサイレンが鳴り響き、壁に設置されている赤いランプが点滅を繰り返す。
そして「ゴゴゴゴゴゴ」と大きな音を立てながら6機の戦闘機を載せた滑走路は地上へと上昇を始めた。
天井が割れ、太陽の光が差し込んでくる。
数分後、上昇は海面を少し過ぎた辺りで止まった。
「すごいすごい!動画で見たのと同じだ!夢見たい!」
この様子に八重咲はまるで子供のようにはしゃいでいた。
「八重咲、はしゃぐのもいいが一応訓練だってことを忘れちゃだめだぞ」
「はっ、す、すみません……」
「まあでも無理もないか、なんせレインボーブリッチが割れるんだからな!」
目の前をよく見るとレインボーブリッチが両方に分かれ真ん中を滑走路が通っていた。
「いつ見ても圧巻だよな、この光景は」
揺れが収まると管制室からの無線が入り先に護衛機の2機が同時に発進した。
「次は私たちだぞ、準備はいいか八重咲?」
「もちろんです柊中尉!」
「こちら管制室、先行2機無事発進できたことを確認できました、いつでも発進可能です」
「こちら柊、了解です、合図をお願いします」
「了解しましたではそれでは合図します」
「太陽があったかい……まるで天国にいるみたい……」
「アホなこと言ってないで行くぞ八重咲!」
「は、はい!」
「発進まで3、2、1……」
「いくぞーーーーーーーーーーー」
エンジンにパワーを送り、滑走路を全速力で進んでいく。
十分スピードに乗ると、スロットルを目一杯、手前に引いた。
機体は徐々に滑走路から離れ、風を切る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!飛んでる!私本当に飛んでますぅ!!!」
八重咲の最初は巣立ちたての雛のようにぎこちない飛び方だったがすぐに立て直し柊と同じように横に並んで飛んでいた。
「テイクオーーーーーーーフ!!!皆さん行ってきます!!!」
海面に大きな乱れはなく、透き通るような青空が広がっていた。
一帯には午後の穏やかな陽気が、のんびりと漂っている。
期待を胸に抱き、小さき鳥達は光り輝く大空へと今飛び立った。
本小説は5ちゃんねるの創作文芸板内にあるスレより生まれました。
今現在スレ自体は閑古鳥が鳴いているような状況なので、もし作品が気に入ったり、また自分も創作活動に参加してみたいという方がいましたら、是非一度遊びにきてください。
なおスレ内にはネタバレも多く含みますので、純粋に作品を楽しみたいという方の訪問はオススメ致しません。
(本スレURL)
『安価で作った話をなろうに投稿するスレpart2』
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